作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。
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根なし草でないことは、とても幸福な事のように思うのよ。
冒険者も、何も力仕事だけが本業という訳ではない。普段は調理師として暮らし、リムサ・ロミンサで屋台を立てる等もするアルト。相棒のクァールと狩人として旅し、旅先で休む事も少なくないウェント。隠者の庵か、或いは碩老樹瞑想窟か、幻術士として祈りを捧げるアンフェル。戦うこと以外にも、生き方は様々で、稼ぎ方も様々で。
ただ、わたくし達には同じひとつの帰る場所がある。
仮宿、と呼ばれる地下一階建て、地上二階建ての木製の小屋。ギルではない、ちょっとしたある利害関係を持って家主から借りているこの家が、わたく達の帰る場所だ。
本来は、ReCは、『カミサマ』の奇縁を共有する者達だけの、小さな小さな集団だった。けれども、今は、此処に帰ってくる他人もいる。
いや、他人なんてよそよそしい。もう、家族なのだから。
ReCの仮宿のベルがなる。
その時わたくしはアンフェルが貰ってきた大量のチョコレートの一部を摘まんでいて、手に掴んでいたひとつを口に放り込んで扉へ向かう。
このところ、アンフェルの下には、アンフェルを抱き込もうという贈り物が絶えないとかなんとか。まあ、彼処の道士は、世襲制に近いものがある。ぱっと出から道士になりあがり、しかも夫を持たないとなったらなあ……
「はーい、どなたかし……」
「ただいま?」
ちゃんと顔を見なくたって、帰還の言葉に疑問符がつかんかぎりの語調を使う声の主は……
「レイネ、お帰りなさい!」
「なんだ、レイネ。仕事は一段落ついていたのか」
「うん、未だ中休みだけど」
コトシロ レイネ。
わたくしとバハムートの迷宮の攻略も共にしていた、ミコッテの黒魔道士。自信のない、物腰柔らかな振る舞いとは裏腹に、わたくしのパーティのダメージソースだ。
彼女は冒険者である以前に、一人の会社員でもあった。仕事を持ち込んで旅の傍らこなしていた事もある。
最近は仕事の方が忙しくて、冒険に出られないだけでなく、仕事場傍の宿に泊まっていて、中々此方にも戻ってこれずにいたのだ。
「中休みでも、帰ってきてくれて嬉しいわ!いま晩御飯を仕上げるから、其処の甘味でも摘まんでいて!」
「ユイを起こしてくる、昼寝の真最中だったのでな」
いつの間にか上階から降りてきていたウェントが、足音を立てて階段をかけ上がる音を聞きながら、わたくしは調理場へと目を向ける。其処には夕方から煮込んでいたある肉があった。
「思ったより柔らかく仕上がるんだね、流石アルトだよ」
「その分時間は必要としたのだけれども。下処理をウェントがしてくれたから割と手早く済んだのだわ」
今日の晩御飯は、ベアシチューなのです。北部森林でリスキーモブとして指定されている大熊、フェクダの肉を使った豪華なものだ。リスキーモブは今は個人宛にそれぞれ別のものが指示されていて、わたくしの担当がこのフェクダだった。
「彼処まで大柄なものは久し振りに見たものだがね」
「……これ、一部に過ぎないんでしょ」
「ええ、残りは干物にするつもりでいるわ」
狩った後、ウェントにその旨を伝えた処あっさり了承頂いて下処理をしてもらえた。皮はケヴァさんのところに送ったそうで、彼女にも大変喜ばれたという。爪はアンフェルが飾りに出来ないか試行錯誤しているようだけれども、わたくしが手掛けるのはやはりこの肉の方。
「いのちを無駄にしない、って。こういうことを言うんだよねアルトちゃん。……おいしいよ」
「ふふふ、有難うアンフェル」
ちょっと勝手にチョコレートを溶かし込んだりしたけれども、貴女はこれの送り主に応えたりしなさそうだから良いわよね?なんて笑いつつ。
「今日はゆっくりしていってよね、レイネちゃん。此処はわたくし達の家なのだもの」
「うん、そうね。お邪魔になります」
「家族だから邪魔じゃないし」
「あっ、そうだね。ごめんユイ」
晩御飯の団欒の席は、もう少しだけ続くのです。
冒険者も、何も力仕事だけが本業という訳ではない。普段は調理師として暮らし、リムサ・ロミンサで屋台を立てる等もするアルト。相棒のクァールと狩人として旅し、旅先で休む事も少なくないウェント。隠者の庵か、或いは碩老樹瞑想窟か、幻術士として祈りを捧げるアンフェル。戦うこと以外にも、生き方は様々で、稼ぎ方も様々で。
ただ、わたくし達には同じひとつの帰る場所がある。
仮宿、と呼ばれる地下一階建て、地上二階建ての木製の小屋。ギルではない、ちょっとしたある利害関係を持って家主から借りているこの家が、わたく達の帰る場所だ。
本来は、ReCは、『カミサマ』の奇縁を共有する者達だけの、小さな小さな集団だった。けれども、今は、此処に帰ってくる他人もいる。
いや、他人なんてよそよそしい。もう、家族なのだから。
ReCの仮宿のベルがなる。
その時わたくしはアンフェルが貰ってきた大量のチョコレートの一部を摘まんでいて、手に掴んでいたひとつを口に放り込んで扉へ向かう。
このところ、アンフェルの下には、アンフェルを抱き込もうという贈り物が絶えないとかなんとか。まあ、彼処の道士は、世襲制に近いものがある。ぱっと出から道士になりあがり、しかも夫を持たないとなったらなあ……
「はーい、どなたかし……」
「ただいま?」
ちゃんと顔を見なくたって、帰還の言葉に疑問符がつかんかぎりの語調を使う声の主は……
「レイネ、お帰りなさい!」
「なんだ、レイネ。仕事は一段落ついていたのか」
「うん、未だ中休みだけど」
コトシロ レイネ。
わたくしとバハムートの迷宮の攻略も共にしていた、ミコッテの黒魔道士。自信のない、物腰柔らかな振る舞いとは裏腹に、わたくしのパーティのダメージソースだ。
彼女は冒険者である以前に、一人の会社員でもあった。仕事を持ち込んで旅の傍らこなしていた事もある。
最近は仕事の方が忙しくて、冒険に出られないだけでなく、仕事場傍の宿に泊まっていて、中々此方にも戻ってこれずにいたのだ。
「中休みでも、帰ってきてくれて嬉しいわ!いま晩御飯を仕上げるから、其処の甘味でも摘まんでいて!」
「ユイを起こしてくる、昼寝の真最中だったのでな」
いつの間にか上階から降りてきていたウェントが、足音を立てて階段をかけ上がる音を聞きながら、わたくしは調理場へと目を向ける。其処には夕方から煮込んでいたある肉があった。
「思ったより柔らかく仕上がるんだね、流石アルトだよ」
「その分時間は必要としたのだけれども。下処理をウェントがしてくれたから割と手早く済んだのだわ」
今日の晩御飯は、ベアシチューなのです。北部森林でリスキーモブとして指定されている大熊、フェクダの肉を使った豪華なものだ。リスキーモブは今は個人宛にそれぞれ別のものが指示されていて、わたくしの担当がこのフェクダだった。
「彼処まで大柄なものは久し振りに見たものだがね」
「……これ、一部に過ぎないんでしょ」
「ええ、残りは干物にするつもりでいるわ」
狩った後、ウェントにその旨を伝えた処あっさり了承頂いて下処理をしてもらえた。皮はケヴァさんのところに送ったそうで、彼女にも大変喜ばれたという。爪はアンフェルが飾りに出来ないか試行錯誤しているようだけれども、わたくしが手掛けるのはやはりこの肉の方。
「いのちを無駄にしない、って。こういうことを言うんだよねアルトちゃん。……おいしいよ」
「ふふふ、有難うアンフェル」
ちょっと勝手にチョコレートを溶かし込んだりしたけれども、貴女はこれの送り主に応えたりしなさそうだから良いわよね?なんて笑いつつ。
「今日はゆっくりしていってよね、レイネちゃん。此処はわたくし達の家なのだもの」
「うん、そうね。お邪魔になります」
「家族だから邪魔じゃないし」
「あっ、そうだね。ごめんユイ」
晩御飯の団欒の席は、もう少しだけ続くのです。
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ラノシアの夜は、風がとても冷えるの。熱を失い冷えた海を渡る、冷たい風がそのまま流れ込んでくるから。ただ其れが初夏の今にはとても心地よくて、よくこの仮宿の窓は開け放たれている。
夕闇の気配と、そんな夜のラノシアの風で目が覚めた。共に寝入ったミコッテは、未だ腕の中ですやすやと眠りについている。起こさないよう、そっと身を起こす。はらりと落ちた毛布の存在に、初めて自分達以外にこの家に帰宅している者がいることに気が付いた。
視線を奥に向ければ、確かに家族同然に暮らしている者達のうち、この上の階に寝泊まりしている二人の姿が見えた。他人の気配があっては眠れないルガディンの女性が、私の連れてきたミコッテを意識する事なく深い眠りについているようであるのは、少しばかり嬉しい事。
彼女にとって、それはこのミコッテを懐に入れても構わないと感じているという事で、自分が好きな相手が家族からも信頼されていると分かるのは嬉しいと思ったの。
エレゼンの方が嫉妬ぎみに悪戯をしてくることがちょっと怖いけれど、今から私達に出来る自衛は何もない。そっと今は苦笑いするに留めた。
ふわふわとしたミコッテの彼女の髪に触れる。緩やかなウェーブがかかりながらも、手櫛が引っ掛からないのは彼女がきちんと手入れをしている賜物なのでしょう。やがてくすぐったそうに身を揺らし、目を覚ます彼女に私は優しく微笑み掛けた。
後ろを示して、口許に人差し指を添える。驚きと、見られた恥ずかしさか顔を赤らめながらも頷く彼女がいとおしい。そっと二人で毛布の下から抜け出した。顔を見合せ二人で笑う。この暖かな時間にただただ感謝して。
談笑しながら降りる階段は、なんだかとっても短い気がした。夜はまだまだ此れからなのだけれども、彼女にも私にも家族はいるから、たまにの勢揃いの時くらいはと思うのです。彼女の父君を心配させたくもありません。
開かんとした仮宿の扉が独りでに開き、現れた白金の髪のエレゼンのナイトと、黒髪のララフェルの白魔道士に私は笑顔を、彼女は礼を返し、私は二人を迎え入れ、私達は彼女を見送るのでした。
そろそろ我が家の調理師を起こしましょうか、遅い夕食に致しましょう。
夕闇の気配と、そんな夜のラノシアの風で目が覚めた。共に寝入ったミコッテは、未だ腕の中ですやすやと眠りについている。起こさないよう、そっと身を起こす。はらりと落ちた毛布の存在に、初めて自分達以外にこの家に帰宅している者がいることに気が付いた。
視線を奥に向ければ、確かに家族同然に暮らしている者達のうち、この上の階に寝泊まりしている二人の姿が見えた。他人の気配があっては眠れないルガディンの女性が、私の連れてきたミコッテを意識する事なく深い眠りについているようであるのは、少しばかり嬉しい事。
彼女にとって、それはこのミコッテを懐に入れても構わないと感じているという事で、自分が好きな相手が家族からも信頼されていると分かるのは嬉しいと思ったの。
エレゼンの方が嫉妬ぎみに悪戯をしてくることがちょっと怖いけれど、今から私達に出来る自衛は何もない。そっと今は苦笑いするに留めた。
ふわふわとしたミコッテの彼女の髪に触れる。緩やかなウェーブがかかりながらも、手櫛が引っ掛からないのは彼女がきちんと手入れをしている賜物なのでしょう。やがてくすぐったそうに身を揺らし、目を覚ます彼女に私は優しく微笑み掛けた。
後ろを示して、口許に人差し指を添える。驚きと、見られた恥ずかしさか顔を赤らめながらも頷く彼女がいとおしい。そっと二人で毛布の下から抜け出した。顔を見合せ二人で笑う。この暖かな時間にただただ感謝して。
談笑しながら降りる階段は、なんだかとっても短い気がした。夜はまだまだ此れからなのだけれども、彼女にも私にも家族はいるから、たまにの勢揃いの時くらいはと思うのです。彼女の父君を心配させたくもありません。
開かんとした仮宿の扉が独りでに開き、現れた白金の髪のエレゼンのナイトと、黒髪のララフェルの白魔道士に私は笑顔を、彼女は礼を返し、私は二人を迎え入れ、私達は彼女を見送るのでした。
そろそろ我が家の調理師を起こしましょうか、遅い夕食に致しましょう。
私達はReCというフリーカンパニーに所属している。
リーダーはアンフェルツィート。
こじんまりした、身内のフリーカンパニーだ。アルティコレート、ユイ、私、最近知り合ったオブリージェ、私を追っ掛けてきたアガトゲイム。可愛いナイトの後輩である、イスラ。
何時かはハウジングを持とうと言う話ではあるのだが、気が付けば装備に使っていて中々溜まることはない。
そんな私達が、暫く羽を休める場として内密に借りたのが……この仮宿と私達が呼ぶ建物である。
仮宿の一階は憩いのスペース。キッチンがあるし、囲えるテーブルがあるし、壁にはソファが並んでいて騒ぐにはもってこい。
けれどわたくしはいまそんな目的で来たわけではなく、入ってすぐ左手の階段をのぼっていく。
二階はとても静かだ。
奥にある大きな窓から、塩気の僅かに残るラノシアの風が薫る。窓は普段開けられてはいない筈なのだけれども……視線を少し下げると、其処にはソファで抱きあうように眠る二つの影があるのが見えた。
見慣れた褐色肌に銀髪のエレゼンと、もう一人は黒髪のふんわりとしたミコッテだ。そう言えばこのエレゼンの女性は、丸で猫のような癖を持っていたのだったかしら、と僅かに背を丸めてミコッテを抱く彼女を見て笑みが浮かんだ。
ちょっかいを出したがるフェアリーを制し、奥へと進む。奥一面を専有しているベットの下の小さな引き出しを開くと、其処に毛布がしまわれている。
其れを取り出すと、寝入っている二人にそっとかけてやる。フェアリーが面白がって毛布の上に寝転がるのを微笑ましく見守りながらわたくしは振り返る。
ソファの対面。
背の高い椅子に、格式張った机。
黒い台に挿された羽ペンの隣に、わたくしの愛本を開く。嘗ては最低限、その本の力を発揮する為の魔紋のみが刻まれていたヒーラーグリモアには、今や血も汗も努力も苦悩も、わたくしの歩んだ戦いの日々こそ刻まれた、わたくしだけの本へと変わっている。
椅子に深く腰掛け、わたくしは今日の調律を開始した。
よりこの本と、そしてフェアリーと、深く繋がる為に……。
人や獣の気配が動くと、目が覚めるし眠ることも出来ない。それは、私の生き抜く為の適応と言えばそうであるし、悩みでもある。
個室の宿屋は未だ休める事も多いが、余りに人が頻繁に動くから寝付けず、クァールやチョコボを番にして敢えて野外で寝ることも一度や二度に留まらない。
野外は野外で動物や魔物がいるため、確り休めるという訳でもなく……必然ながら普段の私の眠りは非常に浅い。
私にとって、仮宿は安全地帯である。他者の気配に過敏な私がそれを気にすることなく熟睡できる数少ない場所だ。それは、この仮宿に入る人間が、私と、私達と深い関係にある者しかいないというのがある。
気配を感じなくなった訳ではないが、気にすることなく眠れるような者は幾人かいるのだ。
そんな深い眠りが欲しいときと言えば、やはり『カミサマ』から解放されてすぐなどか。今日も誘われるままに深淵を覗き込んできた。船、と形容するべきなのであろうダラガブの構造物の中……根を張ったかのようにその場を離れる事のない門番『アバター』。
三期目の正直、といった処だった。残念ながら今回の戦友は何時も決まって挑む者達ではなかったけれども。ようやっと打ち倒す事が叶い、『カミサマ』から解放されて急ぎ足で此処に至る。
朝も夜も、忘れて戦う。それはとても楽しいけれども、事が終わるとどっと疲れがやってくるものだ。心臓の拍動が煩い、体が鉛とまではいかなくとも重い。これ迄は見兼ねた革ギルドマスターが、人払いをした一室で次に目が覚める迄こんこんと寝かせてくれることもあったが、彼女の手を煩わせる事もない。
そんな事を考えながら二階の扉を開くと、あまり珍しくもない光景が広がっていた。
ソファで銀髪のエレゼンの女性が黒髪のミコッテと寝ている。毛布が掛けられているのは、第三者がかけたものだろう。
其処から反対側、書斎にあっても可笑しくないような作業机に、突っ伏す栗色の髪のエレゼンがいるのが見えた。意識が微睡みの最中に落ちていても尚、コントロールと魔力供給が切れていないのだろうか、傍らにフェアリーが心配そうに飛び回っているのが見える。
あれでは満足な睡眠にはなるまい。
彼女も多少は周囲の気配が読める方ではあるのであるが、気配を消すことにも慣れている私では気付きようがない。近寄ってくる私に気付いたフェアリーに、口に人差し指を持っていくサインを返すと、彼女は理解したのか邪魔にならない処にそっと腰掛け飛ぶのを止めた。
そっと、椅子を少しだけ引く。突っ伏す彼女が机という支えを失わない程度に。
空間のあいた、椅子の脚と彼女の足の間に片腕を通す。後は引き寄せるように彼女の胴を抱え込んで抱き上げた。
彼女を抱いたまま、奥の寝台に上がる。ゆっくりと寝台の一角に彼女を降ろす。この時期ならば、無理に布団をかける必要もないだろう。
私はその彼女の隣に寝転がり……程なく深い眠りに誘われていくのであった。
リーダーはアンフェルツィート。
こじんまりした、身内のフリーカンパニーだ。アルティコレート、ユイ、私、最近知り合ったオブリージェ、私を追っ掛けてきたアガトゲイム。可愛いナイトの後輩である、イスラ。
何時かはハウジングを持とうと言う話ではあるのだが、気が付けば装備に使っていて中々溜まることはない。
そんな私達が、暫く羽を休める場として内密に借りたのが……この仮宿と私達が呼ぶ建物である。
仮宿の一階は憩いのスペース。キッチンがあるし、囲えるテーブルがあるし、壁にはソファが並んでいて騒ぐにはもってこい。
けれどわたくしはいまそんな目的で来たわけではなく、入ってすぐ左手の階段をのぼっていく。
二階はとても静かだ。
奥にある大きな窓から、塩気の僅かに残るラノシアの風が薫る。窓は普段開けられてはいない筈なのだけれども……視線を少し下げると、其処にはソファで抱きあうように眠る二つの影があるのが見えた。
見慣れた褐色肌に銀髪のエレゼンと、もう一人は黒髪のふんわりとしたミコッテだ。そう言えばこのエレゼンの女性は、丸で猫のような癖を持っていたのだったかしら、と僅かに背を丸めてミコッテを抱く彼女を見て笑みが浮かんだ。
ちょっかいを出したがるフェアリーを制し、奥へと進む。奥一面を専有しているベットの下の小さな引き出しを開くと、其処に毛布がしまわれている。
其れを取り出すと、寝入っている二人にそっとかけてやる。フェアリーが面白がって毛布の上に寝転がるのを微笑ましく見守りながらわたくしは振り返る。
ソファの対面。
背の高い椅子に、格式張った机。
黒い台に挿された羽ペンの隣に、わたくしの愛本を開く。嘗ては最低限、その本の力を発揮する為の魔紋のみが刻まれていたヒーラーグリモアには、今や血も汗も努力も苦悩も、わたくしの歩んだ戦いの日々こそ刻まれた、わたくしだけの本へと変わっている。
椅子に深く腰掛け、わたくしは今日の調律を開始した。
よりこの本と、そしてフェアリーと、深く繋がる為に……。
人や獣の気配が動くと、目が覚めるし眠ることも出来ない。それは、私の生き抜く為の適応と言えばそうであるし、悩みでもある。
個室の宿屋は未だ休める事も多いが、余りに人が頻繁に動くから寝付けず、クァールやチョコボを番にして敢えて野外で寝ることも一度や二度に留まらない。
野外は野外で動物や魔物がいるため、確り休めるという訳でもなく……必然ながら普段の私の眠りは非常に浅い。
私にとって、仮宿は安全地帯である。他者の気配に過敏な私がそれを気にすることなく熟睡できる数少ない場所だ。それは、この仮宿に入る人間が、私と、私達と深い関係にある者しかいないというのがある。
気配を感じなくなった訳ではないが、気にすることなく眠れるような者は幾人かいるのだ。
そんな深い眠りが欲しいときと言えば、やはり『カミサマ』から解放されてすぐなどか。今日も誘われるままに深淵を覗き込んできた。船、と形容するべきなのであろうダラガブの構造物の中……根を張ったかのようにその場を離れる事のない門番『アバター』。
三期目の正直、といった処だった。残念ながら今回の戦友は何時も決まって挑む者達ではなかったけれども。ようやっと打ち倒す事が叶い、『カミサマ』から解放されて急ぎ足で此処に至る。
朝も夜も、忘れて戦う。それはとても楽しいけれども、事が終わるとどっと疲れがやってくるものだ。心臓の拍動が煩い、体が鉛とまではいかなくとも重い。これ迄は見兼ねた革ギルドマスターが、人払いをした一室で次に目が覚める迄こんこんと寝かせてくれることもあったが、彼女の手を煩わせる事もない。
そんな事を考えながら二階の扉を開くと、あまり珍しくもない光景が広がっていた。
ソファで銀髪のエレゼンの女性が黒髪のミコッテと寝ている。毛布が掛けられているのは、第三者がかけたものだろう。
其処から反対側、書斎にあっても可笑しくないような作業机に、突っ伏す栗色の髪のエレゼンがいるのが見えた。意識が微睡みの最中に落ちていても尚、コントロールと魔力供給が切れていないのだろうか、傍らにフェアリーが心配そうに飛び回っているのが見える。
あれでは満足な睡眠にはなるまい。
彼女も多少は周囲の気配が読める方ではあるのであるが、気配を消すことにも慣れている私では気付きようがない。近寄ってくる私に気付いたフェアリーに、口に人差し指を持っていくサインを返すと、彼女は理解したのか邪魔にならない処にそっと腰掛け飛ぶのを止めた。
そっと、椅子を少しだけ引く。突っ伏す彼女が机という支えを失わない程度に。
空間のあいた、椅子の脚と彼女の足の間に片腕を通す。後は引き寄せるように彼女の胴を抱え込んで抱き上げた。
彼女を抱いたまま、奥の寝台に上がる。ゆっくりと寝台の一角に彼女を降ろす。この時期ならば、無理に布団をかける必要もないだろう。
私はその彼女の隣に寝転がり……程なく深い眠りに誘われていくのであった。
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