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作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。  
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『幻想の代償。』の続編となります。
登場キャラクターにはNPC、PCが含まれます。名前が出るPCに関しましてはそれぞれ御確認をとっております。
作中における設定は公式とは限りません。




私が別人のように変わっても、変わらぬリムサの都市。客室のひとつを出て、アルティコレートに連れられて階下へと降りる。宿屋の管理者に一礼して、冒険者ギルドに入っていく。

臆病な妹のわたしを引き回す快活な姉のよう。実際の年齢は逆で、わたしが少女の域を既に脱してしまっているというのも互いの知るところなのだけれども。今のアルティコレートはわたしには眩しくて、わたしより大きく見えたの。


「あっ、アルティ!」

こちらの方に向けられた声に、視線を向けた。昼間から人で賑やかな冒険者ギルド。お酒のにおいもするけれども、酒場でもあるのだから何時ものこと。そんなギルドのテーブルのひとつで、ミコッテが一人、手を振っている。


「待っていてくださいましたの?」
「だって、待ち遠しかったんだもの!アルティ、そろそろ目を覚ますかもって言ってたじゃない」


アルティコレートはわたしの手を引いてそのテーブルへと寄っていく。その席をよく見ると、声をかけてきたライムグリーンのミコッテ以外にも、石榴のような艶やかな紅い髪のミコッテと、その膝元の黒髪のララフェルが上と下でにこやかに話をしている。茶髪のヒューランが人数分の飲み物を席に置こうとしている処であるのが見えた。


「ぁ、アルティさん。そちらの方が?」
「ええ、そうよランちゃん。アンフェル、彼女達はcat's Whiskersって言うリンクシェルのメンバーよ」


リンクシェル。
身を強張らせたのを、感じたのだろうか。アルティコレートは振り返ってわたしの耳に囁いた。

「大丈夫よ、アンフェル。彼女達は貴女の日常を彩る事はあっても、貴女を束縛したりはしないわ」
「……」


ほら、自己紹介しましょうか。そうアルティコレートはわたしの背中を押してわたしの後方に寄り添った。嘗てのわたしでない名前を、もう一度自分の口で名乗ったら嘗ての名前は二度と戻って来ないような、そんな気がする。
けれども、その恐怖があってもなお、今は温もりにすがりたいとも感じていた。もう独りぼっちは嫌。震えるわたしの手を、こっそりアルティコレートが握ってくれた気がした。


「わたしは、アンフェルツィートと申します」

「私はサーシャ、サシャって呼んでくれると嬉しいな♪」
「ランと言います、アンフェルさん。宜しく御願いしますね」
「僕は道化と申します、これから宜しくお願いします」
「俺はアルフ。ま、そんなに緊張しないで気楽に接してくれれば良いぜ」


差し伸べられる三種三様の手。
一人一人と握手を交わし、アルフさんが引き下げてくれた席に座ると、皆も各々の席へとついての語り合いが始まった。






「さっきアルティが説明してくれたと思うけれど、私達はリンクシェルcat's Whiskersの一員なんだ。日常の交流を通じて、発見や創造をしていくリンクシェルだよ。私はその副リーダーをしているの」

考える、という能力の豊かさを人との関わりの中で見出だすサークル。だからこそ、人を束縛する理由はないし、強制力もなければ、立場や行動に規則があるわけではない。
彼女はそう言った。

「良ければ、アンフェル姉さんもどうかな?ずっと、独りだったってアルティから聞いたんだ。だからね、アンフェル姉さんにも色んな日常を体験して欲しいって思ってて」


友達がいる、豊かな日常を。
暖かいひだまりを。露に濡れても、肌を寄せあい寒さを耐えられる夜を。
好きなときに、他愛なくとも、語れる友を。



「色んな日常?」
「そう!」


日常。忘れかけていた冒険者の日々の傍ら、ウルダハの荷物置き場らしき片隅に集まって語らっていたっけ。みんなの名前は思い出せるのに、私自身の名前が思い出せないから、なんだか他人の記憶を見てるみたいに懐かしんでいた。

彼女達も、ウルダハの冒険者ギルドで飲食を楽しみながら、時に絵筆やペンを片手に語らっているのだと聞かされると、今の風景に想像の上のクイックサンドが重なって浮かぶ。


「……楽しそう」
「楽しいわよー!この私の御墨付きだもの!!」


嗚呼、とてもとてもその暖かさが恋しい。消えるか消えないか、蚊の鳴く声で呟いた。


「入りたい、です」

その言葉に返ってきたのは、サシャの満面の笑顔と……『リンクシェルcat's Whiskersに仮加入しました』というリンクパールからのアナウンス。
私はそっとガイダンスに従って、リンクシェルに正式加入を行った。


「ようこそ、cat's Whiskersへ!」
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元々、剣を全く触っていないという訳ではなかった。このエオルゼアの地で弓を取るその前から、私は傭兵であったから。その場にある武器で戦うことは、傭兵にとって必要なスキルのひとつだろう。
だが、飽くまで稼ぐ為に腕を磨いていたに過ぎず、其れを守る為に取ったのには相応の理由があった。



時は遡る。
リムサの料理師ギルドに買い物の為寄っていた時であった。この地、意外と塩はあまり一般に売られておらず岩塩を売っているのもこのリムサのギルドくらいであるのだ。未精製の岩塩はウルダハで掘ろうとすれば掘れるのだが、量を得るなら買うのがはやい。そんな訳で寄ったギルドの方面から、良く知る声の、珍しい感情任せの声が聞こえてきたのだったか。

基本的に、アルトは薄情だ。接触してこない人間には触りだけの関係に終わるし、自分に価値がないと考えるならば他人を笑うことこそあれど善意から咎める事はない。ただ逆に望まれた事のある相手をより深く引き込もうと誘うし、懲りることなく他人の愚痴に付き合ったり何度も何度も同じ事を咎めたり感謝したりして、見る人によれば感情豊かで振り回されているように見えるのかもしれないが。


「よう、ステルウィルフィン。本日は何の用だ?生憎とローザトラウムの奴は取り込み中だがよ」
「岩塩を分けてもらおうと思って来たのだが……あれは何をしているのだ」


ビスマルクではなく、料理師ギルドの方に入るとギルドマスターのリングサスに軽い調子で応対を受けた。岩塩を買いに、というのもこれが初めてではないし、アルトと知己である事は料理師ギルドにおいて周知の事実。その上アルトはこのギルドでは有名人の一人でもある。

紺の上着とズボンの上に、白い前掛けを着けた調理師姿のアルトが、深緑のローブを着たララフェルの少女に何やら怒鳴りたてているのが見えたのだ。
少女は震える手で杖を抱え込んでいる。幻術士だろうか。



「あー、直接は聞いてないがよ。ありゃアイツが養ってた拾い子だ。それがどうも……」
「幾らなんでも危険すぎるわ!特に、ヒーラーは他人の命を預かるのよ!?あんたの力不足で誰かを失って、その事実を一生背負っていく事になるのやもしれないのよ!!」
「……幻術士として冒険者になりたい、と言い出したんだと。その結果があれってこった……やれやれ、店に迄響いてねえかこりゃあ」


成程、気持ちは分からぬ事もない。死なせはせずとも、時にはタンクとして戦うもの達に酷い言葉を浴びせられ、心と杖とを折ってしまう者もいることだろう。肉体的にも、精神的にも心配した結果といえるだろうか。にしても、養い子か……あの若さであるから、さぞ皆を驚かせた事だろう。入れ込み様から見て、時間が短いわけでもあるまい。
それでも、ひとつ気になる事があって私は言葉を漏らした。


「成程な、しかしそれなら呪術士や巴術士もあるだろうに……」
「それがですね」


漏らした言葉に反応する声があり、私は驚いて振り返った。ギルドに常在している調理師の一人、ラティシャであった。彼女は私に寄り、そっと耳打ちした。


「あの子、幻術士がいいんですって。学者のアルティコレートさんの、隣に立ちたいんだそうですよ」



















今でも、あの時を思い出すとあの時の緊張も共に思い出して、自分の鼓動の音すら聞こえてきそうな、そんな気がする。
其れくらい、思えば大きな選択だったのだ。当時は思い至った事を、口にせずにいられなかったというただそれだけだったが。

ラティシャに感謝の言葉を述べて、二人の話す奥へと歩み寄った。途中、段差が煩わしくて手摺を強く掴み、思いっきり飛び越え咎められる声を聞いたのは覚えている。

二人のたち位置をよく見れば、壁を背にするララフェルの少女の姿は本当に本当に小さく見えた。私がルガディンで、アルトがエレゼンで、比較的背の高い二種族であり、ララフェルが小人と呼ばれる程に小さい種族であるのもある。
私はアルトの後ろから二人の方へと寄っていった。アルトには死角だったのだろう、気付く様子はなく、ララフェルの少女が見上げるように目があった。


守りたい。


彼女の、小さな身体を。
自立したいと思った、自尊心を。
憧れの存在の隣に立ちたいという、切なる望みを。


その為に、どうすれば良いのか。
私は何となく理解していた。
剣を取れば良いのだ、盾を構えさえすればよい。


「アルティコレート」
「……な、に。ウェント?やだ、驚かせないでよ。今、忙し……」


「私が彼女のナイトになる。それではダメか」



人を護るために、剣と盾を手にするものを……私達はナイトと呼ぶ。
柔らかい光が、瞼の向こうから降り注いでくるのを感じて、わたしは目を覚ました。磯の香りが、鼻を擽る。ゆっくりと目を開けると、どうやらリムサの宿のようだ。
上半身を起こす。刺繍の入ったカミーズと、長い靴下が付属のパンタレットはわたしの愛用の下着だ。灰色に染められたそれらの合間から、褐色の肌が覗く。

身を起こした表紙に視界を遮った銀の髪を長い耳にかける。
頭が軽いな、とはおもったものの……その位置に耳があることに違和は抱かず。
ゆっくりとベッドから立ち上がり、慣れた手付きで軽くストレッチして……



「……え?」



視界を上げると、姿見があった。




あの海のような蒼が抜けたかのような、光を跳ね返す銀の短髪。
頭ひとつ分は高いと思われる、背。
かつての白い肌を幾ら焼いても届かないだろう、褐色の肌。
深緑のような緑を……燃やしたかのような深紅の瞳。
発育のよい、幼さのないプロポーションと胸。
尻尾がないのに、わたしはバランスを保って鏡の前に立っている。

お気に入り、と思い込んでいたカミーズとパンタレット。よく見ればあんな日々があったとは思えない、綺麗な新品。

旅の日記の横にある、見たこともない灰色の高貴そうなローブを、わたしの頭はヴァンヤヒーラーローブだと、それもわたしの戦装束だと認識していた。


「どういう……これは……」


思えばわたしに宿を取るようなお金もなかった筈ではないか。こんな健康な体つきもとうの昔に失っていた筈。
反射的に手をあてた胸の、そのふくよかさと張りに目眩がした。
これはわたしなのか。



扉を開ける音がした。
驚いてそちらを振り返ると、其処には妖精を連れた女性がいた。
金の長い髪、長い耳。妖精を連れた、学者。金の瞳に、ふちを彩る緑のメイク。
わたしが憧れて憧れて止まなかった、平行世界のエレゼンの冒険者。では、やはり此処は……



「貴女は……」
「会いたかったわ、アンフェル!」


女性はそういって、驚くわたしに飛び付いた。叫ばれた言葉を、わたしの頭が、わたしの名前だと認識したことに気が付く。違う、わたしはそんな名前ではなかった筈だ。そう思っても、他の名前は浮かばない。わたしの名前として思い出されるのは、ひとつの単語だけだった。


「既に知っているのかな。わたくしはアルティコレートと申しますわ、これから宜しくねっ!」
「あ、アンフェルツィート、です……」







「そうだわ、アンフェル!貴女に紹介したい人がたくさんいるのよ。取り敢えず、ローブを着てもらっていいかしら?」
「あ、うん。大丈夫……少し待っててくれるかな」


動けば、身体が覚えていることをひとつひとつ思い知らされる。わたしは望まれるままにヴァンヤローブを着込む。軽い音を鳴らす木靴迄はいて、幼く恋する者の影を追う猫の姿も、みすぼらしく貧困から噴水に身を浸していた人の姿も、もはや辿り着けそうにないくらい、遠く、浮かばぬ影。


「ど、どうかしら、わたし……」
「似合っているわ、アンフェル!さあ、行きましょう新しい冒険へ」









飲めば、思うがままの姿に、変わることの出来る幻想の代償に。
変化を強く強く望みすぎたひとりのミコッテは、その耳も尾も失いました。ミコッテであった、名前さえ……
ある地に、一人のミコッテがおりました。ミコッテは、サンクレッドに憧れるヒューランの男性に誘われて冒険者を始めました。
有名人のミコッテのお姉さんが、駆け出しの彼女のためにベストショットを撮ってくれました。ヒューランの男性が紹介した、リンクシェルのマスターのララフェルとその御付きのヒューランの女性は暖かく、そして優しく歓迎してくれました。

ミコッテの少女は、杖を手に取りました。ヒューランの男性が剣を手にしており、また少女は男性を好きでいたからです。
ヒューランの男性に筋が良いと褒められて、彼女は浮かれました。
彼の好きな庵で話し込み、その庵の写真を今でも大事にしています。


しかし、ミコッテの少女は何時も冒険には一人で申請していました。まわりにいるのは、少女にとって先輩ばかり……ですから、ミコッテの少女と、『ある意思体』は悩みました。同じ道を駆け抜ける友も欲しいね、と……。




『ある意思体』は異なる平行世界に行くことにしました。其処には『意思体』を知るもの達が、共に一から冒険に出ることが確約されていたからです。ミコッテの少女と『意思体』が冒険する時間は減りましたが、少女にとっては些細な事でもありました。『意思体』はミコッテの少女にも冒険の記憶を与えていたから、他人の冒険であっても少女には夢のような日々であったのです。


ヒューランの男性が、それを咎めるまでは。



ヒューランの男性は望みました。この世界と、自分達と、この集団に専心することを。異なる世界で、彼女と『意思体』が冒険していることをよく思わなかったのです。
でも、既に其処には戦友がいました。少女と、『意思体』と、共に駆け上がろうとしている仲間達が。少女はそれらを捨てられなくて。





















「……結果愛する人を失いました、と」


力と富が支配する地、ウルダハ。
その噴水で人目を気にしながら髪を濡らすのは、蒼い髪のミコッテのわたし。
仲直りの出来ない処か、歩み寄る事すら互いに出来ない彼とわたし。マスターは取り成そうとしてくれたけれど、次第に言葉を交わそうという気持ちさえ失ってしまった。
其処に残っていたのは、途方もない諦めの気持ち。やがて、『奇妙な隣人』も来なくなって、冒険者としても行き詰まる。
わたしは決して強い訳じゃない。『隣人』と二人だから、簡単には出来ない事もやってのけ、危機でも冷静にいられただけ。


「やれやれ、ね……見られたら大事かも」


お金も尽きて、わたしは噴水の水に今度は裸体を触れさせる。脱ぎ捨てた一枚のローブの臭いから逃れるように。腐っても女の身、贅沢を知った冒険者。醜態を晒したくなかった。例え見てくれだけであっても。

寒い、寒い夜の闇の中。こっそりと身体を清めるのは、これが初めてではない。
冒険者として行き詰まり、旅先で得ていた旧硬貨を売り、自炊も出来ず、外食と弁当に頼り。




破れて着れない、ハーフローブの袖で身体を拭って……空を見上げる。
星の光が降り注ぐ、曇りない夜空。

「やり直したいよ」















幾つの時が過ぎただろう。
わたしの元に、一匹のモーグリが現れた。

『この手紙と、この薬を届けてほしいって言われたクポ』

レターモーグリではない。そのモーグリは、開けて見れば分かるとそれだけ言って去っていった。
薬はエリクサーのような瓶に、輝く蒼い液体。添えられていた手紙に手を伸ばし、月明かりに翳して読んだ。


『******へ
生きているかな。元気にしているかな。あれから君は、どうしているかい。わたしは君が隣人と呼んでくれていたものだよ。
いなくなって、ごめんね。きみといるのが、辛くなった。きみと、二人、あの人に失望されたままの時間が辛くなっていたんだ。
わたしは君を助けたい。きみを壊したのもわたしなのかもしれないから。
きみにひとつの薬を贈ろうと思う。薬の名は幻想薬。この薬を飲んでくれるなら、わたしは君を新しい世界に誘おうと思う。其処にはあの子もいる。あの子の友達も、君を歓迎してくれるだろう。そうしたら、また君と戦おう。あの地で。待っているよ。
飲んだらきみをすぐにでも迎えにいく。きみの位置はわかるから、安心して。

ただし……』


最後まで読まなかった。
軽率な、けれど、不確かなものにもすがりたかったわたしは震える手で瓶の蓋を開けた。
輝く蒼い液体を傾ける。かさかさの唇の上を滑って、それはわたしの喉へと入っていった。
味ははっきりとしなかった、ただただ、この世とは思えない心地がした。
最後の一滴が瓶から消えて、瓶に視線を戻した時――


「う、にゃ、ぁ……あ……!?」


からん、と瓶の落ちる音がした。耳と尻尾がぴんと伸びて、身体がかっと熱くなる。水浴びの後のまま、何も身に纏っていなかった身に当たる風が凶器に変わったのを感じた。
身体の震えが止まらない。それは、苦痛からでも寒さからでもない。熱く、熱く、そして……


「ぁああ……!!」


真っ白になるほどの気持ちよさが、わたしの思考を襲っていた。そのまま意識はぷつりと糸が切れるように落ちて……


『ただし、きみは名前と姿を失うことになるだろう。心配しないで、きみもまた、幸せにいきる為なのだから』



それが、ミコッテであったわたしの最後の記憶だった。
I can't understand.
No. I want not to understand.
because...




『カミサマ』のワガママ。
それは、わたくしとウェントにとって絶対だ。『カミサマ』が望んだから、この出会いは生まれた。其れを、後悔はしないでしょうけれども……

出会いは、別れの始まりである。
だから、今苦しんでいるのは『カミサマ』のワガママ、それが為。
でも、苦しんでいる、何て言いたくないの。
だって相手が悪いんじゃないんだもの。原因だけどさ、悪いって言葉は違うんだもの。




絵を描く冒険者達のリンクシェルがあるんだ。私も入りたいから、アルト。君達にも付き合って貰いたい。

ある日『カミサマ』はそう、わたくし達に望んだ。その後直ぐに個人通信がとんできた。恐らく『カミサマ』が先に手配していたのでしょう。個人通信の主はリンクシェルのマスターで、とんとん拍子に話が進んだ。


マスターさんは、柔らかい桃色のミコッテであった。ぱっと思ったのが、別のリンクシェルのマスターであった。彼女もまた桃色の髪をしたミコッテであったが、それ以上に彼女を思い出す理由があった。

惹かれた、と感じたのだ。
ほがらかな明るさ、陰りを抱かせない素朴さ。マスターらしいマスターというものは、二種類に別れると思っている。一人はあるハイランダーの女性のように、強くしたたかで心配る、策略家。もうひとつは、彼女らのような……


そう、アイドル。
このマスターさんは、アイドルだと感じた。彼女に集う仲間は、きっと、きっと好意から集っていて、きっととても優しい人が集まっているのでしょう。そんな、そんな気持ちを膨らませた。


ただ、今は。
マスターさんよりも、もっとわたくしの心を奪っている人がいる。

そのリンクシェルには、マスコットのような、いとおしくなるミコッテが……


ミコッテが……

言葉にしたくない。けれども、事実は変わらない。だから言おう。『いた』のだ。

……過去形で。


鮮やかな紫のミコッテだった。
渦巻く風のような髪に、その色に近いダルマティカと呼ばれる胴衣を着ていた。とても牧歌的な彼女は、学者を目指す巴術士であった。


一目で気に入ったの。『カミサマ』の御縁だとか、そもそもわたくしの知らない世界の為のリンクシェルだってこととか。どうでも良くなるくらいに。どうでもよくないけれども。


二人とも、エレゼンのわたくしも、ルガディンのウェントも、好いてくれた。ポージングして見せたり、いろんな防具や武器を見せてみせた。
紫のミコッテちゃんは、未だジョブも持たない身。わたくしが見せる蛮神の本や、珍しい杖や、衣装や、何もかもに驚き、目を輝かせ、そしてわたくしも同時にその姿に目を奪われた。


だからこそ、コートが欲しいと言われた時、わたくしはウェントを呼んで二人で仕立てたのだ。わたくし達の材料で、ウェントの銘が入っている、それで、彼女が何色が相応しいか悩んであれやこれや楽しんでいる。
その姿から目を離せなかった。気に入った色が決まるのが、少し心惜しかった。


ロランベリーレッドの彼女は苺見たいにキュートだった。


二人だけの楽しみにするよりも、愛くるしい彼女を皆にも見せて広めたい。思ったわたくし達は同じコートをマスターにも仕立てる事にした。紫の彼女とウェントと三人で、マスターに相応しい色を悩んだ。

白も良かった。けれども、マスターには柔らかいキャラメルのブラウンを選んだ。甘く、愛されるマスターでありますようにと。





翌日、紫の彼女とわたくしはハイブリッジにいた。
目的はひとつ、この橋を防衛してタイニースクウィエルをてにいれる為。恩人にしか売られない珍品を求めてわたくしは彼女とキキルン達を待ち構えていた。

割と結果は散々だった。
彼女は何度か倒れさせてしまったし、わたくしは民を浚われない為に加勢してやることも出来なかった。ひと、一人は無力だったけれども、わたくしが民を守っている間に彼女は他の冒険者達とボスキキルンを退けていた。

一連の騒動の後、二匹鼻先を付き合わせるタイニースクウィエルが其処にいた。


その後、あの噂のレジーローレンスにも二人で挑んだ。
オチューは嫌いだった。かつて、オーラムで散々苦しめられたのもある。けれども、あの時はなにも不安に思うこともなかった。タンクもいないのに、それでも。
倒れてもそれに嫌気を覚えないと、分かっていたから。彼女と共に挑むことに、楽しさを抱いていた。









また、強敵に二人で挑もう。
名を馳せ、称号を与えられるような強敵は他にもいる。軽く、曖昧だったけれども、それは確かに次の約束。





彼女はいない。
誰もいないリンクシェル通信に、彼女の声を求めて叫ぶ。
今日は彼女はもう寝た筈だった。なのに、何時の間にか、彼女の名前がリンクシェルのリストから消えていた。未だ、まだ、きっとマスターすら知らない。けれども、知ってしまったわたくしは叫ぶ。



どこへいったの。
約束はまだ、のこっているよ。
木苺のタルト、足りなかったならもっと作るから。
一緒に釣りに行くのではなかったの。妖精と共に冒険するのではなかったの。
声を聞かせて、何処か遠くへいくなんて言わないで。
わかりたくないよ、理解したくないよ。



たった数日で眠れなくなるくらいに、苦しくなるくらいなら。
そんな事を思ってしまいそうなそんな自分を認めたくないよ。
プロフィール
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虚向風音
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