作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。
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私はウルダハの出身である。傭兵ではあるが、其の名はいつの間にか広く知れ渡り、身勝手では居られない身になってしまったことだ。
暁の協力者である冒険者。森のモーグリ達の認める吟遊詩人。
ウルダハ王宮が認めた自由騎士の一人。そして、一応ではあるが私は不滅隊の者なのである。
つくづく身を縛るものが多くなったと思わざるを得ない。
しかし、っそれが私の身分を保証し確かなものにしているのもまた事実だ。
それらに対して無礼を働くわけにもいかないだろう。
「それで、不滅隊を通じて私にと」
「ええ、騎士としてではなく"風の花嫁"その人として招かれてほしいとのことでして」
ルガディン族、ゼーウォルフである私は、伝統的な命名規則に則った名前を持っている。
また、その名前が持つ意味がそのまま異名として用いられる事も多い。
"風の花嫁"というのは私ウェントブリダの意味するところであるのだ。
ウルダハのナル回廊の一角、不滅隊の詰め所で渡された2つの手紙。
私はその中身に心底困惑していた。
1枚目は、差出人はナナモ女王。つまり、ウルダハ王宮からである。
形式ばった文章でウルダハへの貢献者である私を、舞踏会へ招待する内容が書かれていた。
添えられていた美しいマラカイトの指輪は、ナナシャマラカイトであろうか。
恐らく、舞踏会の場において本人認証をする為の装飾である事が伺える。
2枚目は、ジェンリンスからであった。
彼は銀冑団の現総長である。騎士としては上司のようなものであるのだが……
私が舞踏会に招待された事を受けて、些細ながら贈り物があるのだという内容が礼儀正しく綴られていた。
いつまでもまじめで真っ直ぐな彼が、私に贈る物とは何であろうか。
「狩猟と詩歌に生きる貴女には、本来無縁なものであるのは承知の上です。しかしながら、貴女の功績は評価されるべきものでもありますし、上層社会にも貴女の存在を正しく伝える必要があるのです」
どうか、ご理解の程をお願いしますと。
そうはいうものの、どうしたものであろうか。
ジェンリンスには、「舞踏会当日着ていくつもりの服で来てくれ」と言われ、私は宿屋で頭を抱える羽目となった。
革細工に理解はあるが、裁縫はあまりわからない。貴族社会に対する、自身のお披露目の機会であるのは確かなのだ。吟遊詩人として姿を見せるなら兎も角、それ以外において流石に戦闘衣装やアーディファクト、普段着などで行くわけにはいくまい。
そういえば、ボディガードとして式場の類へ赴くようになった時の為の男物のスーツがあったのではないだろうか。そう思い出して預けている荷物を探る。しばらくして買ったものの使われていない、新品同然のスーツがさらし布と一緒に見つかった。
「少々キツい気もするが……ややすれば慣れる、よな?」
男性物のぴっちりしたスーツを着るために、ルガディン族の身で唯一女性らしさを訴えている胸部の膨らみは少々邪魔になるようだ。其の為下着としてさらしを着込もうと考えたのだが、それはそれで……
「……息苦しい」
やはり人付き合いというものは色々大変であることだ、と思い知らされるのであった。
フロンデール歩廊の片隅に、銀冑団の詰所は存在する。
少しだけ人目を気にして、私はその扉をノックして名乗りを上げた。
「失礼、ウェントブリダだ」
「入っておいで、ウェント」
扉の向こうから聞こえてきたのが、近しい関係の者の声であった気がして私は内心首を傾げる。
しかし留まる理由もない。
一礼して扉を開けた先、向こうにいたのは声の主アーサー・ラファエルを始め、総長ジェンリンス、そして……
「ナナモ様!?ラウバーン様までっ!?」
まさかの女王陛下とグランドカンパニーの盟主ラウバーンの2人の存在には驚きが隠せない。
「なんじゃ、其処まで驚く事か?」
「貴様が初めて社交界に出るのだから、少々土産をと思ってな」
思わず跪こうとする私を、ナナモ様は制止する。
てくてくと歩み寄って私を見上げ、彼女は笑った。
「お主の事はラウバーンからよく聞いておる。ウェントブリダ、お主も女であるのじゃから」
とてもとても可愛らしいお姿の筈なのだが、私の背中には冷や汗がよぎった気がした。
そしてその理由を考える間もなく、答えは姿を現した。
明らかに並の素材ではないと分かる、艶やかな生地であることが人目で分かる衣装を抱いて、奥から1人のエレゼン将が現れたのだ。
確か、彼女はラウバーンの御付でエリヌ・ロアユといっただろうか……
「それでは、ウェントブリダさん。此方のお召し物に着替えましょうか。女人なのですから、ドレスでなくては話が始まりませんよ」
恐らく土産とはそれだろう、と想像がついてしまう事が恨めしい。
碌な抵抗も出来ず、アーサーとジェンリンスに助けを求めようと視線を向けるが二人とも柔らかい笑顔で私を見送るだけであった。
暁の協力者である冒険者。森のモーグリ達の認める吟遊詩人。
ウルダハ王宮が認めた自由騎士の一人。そして、一応ではあるが私は不滅隊の者なのである。
つくづく身を縛るものが多くなったと思わざるを得ない。
しかし、っそれが私の身分を保証し確かなものにしているのもまた事実だ。
それらに対して無礼を働くわけにもいかないだろう。
「それで、不滅隊を通じて私にと」
「ええ、騎士としてではなく"風の花嫁"その人として招かれてほしいとのことでして」
ルガディン族、ゼーウォルフである私は、伝統的な命名規則に則った名前を持っている。
また、その名前が持つ意味がそのまま異名として用いられる事も多い。
"風の花嫁"というのは私ウェントブリダの意味するところであるのだ。
ウルダハのナル回廊の一角、不滅隊の詰め所で渡された2つの手紙。
私はその中身に心底困惑していた。
1枚目は、差出人はナナモ女王。つまり、ウルダハ王宮からである。
形式ばった文章でウルダハへの貢献者である私を、舞踏会へ招待する内容が書かれていた。
添えられていた美しいマラカイトの指輪は、ナナシャマラカイトであろうか。
恐らく、舞踏会の場において本人認証をする為の装飾である事が伺える。
2枚目は、ジェンリンスからであった。
彼は銀冑団の現総長である。騎士としては上司のようなものであるのだが……
私が舞踏会に招待された事を受けて、些細ながら贈り物があるのだという内容が礼儀正しく綴られていた。
いつまでもまじめで真っ直ぐな彼が、私に贈る物とは何であろうか。
「狩猟と詩歌に生きる貴女には、本来無縁なものであるのは承知の上です。しかしながら、貴女の功績は評価されるべきものでもありますし、上層社会にも貴女の存在を正しく伝える必要があるのです」
どうか、ご理解の程をお願いしますと。
そうはいうものの、どうしたものであろうか。
ジェンリンスには、「舞踏会当日着ていくつもりの服で来てくれ」と言われ、私は宿屋で頭を抱える羽目となった。
革細工に理解はあるが、裁縫はあまりわからない。貴族社会に対する、自身のお披露目の機会であるのは確かなのだ。吟遊詩人として姿を見せるなら兎も角、それ以外において流石に戦闘衣装やアーディファクト、普段着などで行くわけにはいくまい。
そういえば、ボディガードとして式場の類へ赴くようになった時の為の男物のスーツがあったのではないだろうか。そう思い出して預けている荷物を探る。しばらくして買ったものの使われていない、新品同然のスーツがさらし布と一緒に見つかった。
「少々キツい気もするが……ややすれば慣れる、よな?」
男性物のぴっちりしたスーツを着るために、ルガディン族の身で唯一女性らしさを訴えている胸部の膨らみは少々邪魔になるようだ。其の為下着としてさらしを着込もうと考えたのだが、それはそれで……
「……息苦しい」
やはり人付き合いというものは色々大変であることだ、と思い知らされるのであった。
フロンデール歩廊の片隅に、銀冑団の詰所は存在する。
少しだけ人目を気にして、私はその扉をノックして名乗りを上げた。
「失礼、ウェントブリダだ」
「入っておいで、ウェント」
扉の向こうから聞こえてきたのが、近しい関係の者の声であった気がして私は内心首を傾げる。
しかし留まる理由もない。
一礼して扉を開けた先、向こうにいたのは声の主アーサー・ラファエルを始め、総長ジェンリンス、そして……
「ナナモ様!?ラウバーン様までっ!?」
まさかの女王陛下とグランドカンパニーの盟主ラウバーンの2人の存在には驚きが隠せない。
「なんじゃ、其処まで驚く事か?」
「貴様が初めて社交界に出るのだから、少々土産をと思ってな」
思わず跪こうとする私を、ナナモ様は制止する。
てくてくと歩み寄って私を見上げ、彼女は笑った。
「お主の事はラウバーンからよく聞いておる。ウェントブリダ、お主も女であるのじゃから」
とてもとても可愛らしいお姿の筈なのだが、私の背中には冷や汗がよぎった気がした。
そしてその理由を考える間もなく、答えは姿を現した。
明らかに並の素材ではないと分かる、艶やかな生地であることが人目で分かる衣装を抱いて、奥から1人のエレゼン将が現れたのだ。
確か、彼女はラウバーンの御付でエリヌ・ロアユといっただろうか……
「それでは、ウェントブリダさん。此方のお召し物に着替えましょうか。女人なのですから、ドレスでなくては話が始まりませんよ」
恐らく土産とはそれだろう、と想像がついてしまう事が恨めしい。
碌な抵抗も出来ず、アーサーとジェンリンスに助けを求めようと視線を向けるが二人とも柔らかい笑顔で私を見送るだけであった。
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黒衣森は、静かで柔らかだ。第二の故郷と言えるザナラーンの地は日は刺し夜風は凍るのだから、この優しい昼夜の時間差には最初驚かされたものだ。雨季の雨の多さを人伝に聞き、心弾ませたのもまた記憶に新しい。
しかし、ソーサラーと呼ばれる魔術師達はこれ程に動き辛いローブを着た上で時に全力疾走するというのか。
感嘆を覚えずには居られない。
そう、私は今、幻術士としてこのグリダニアの地に立っていた。
「それじゃ、今日は此処までにしておこうか。お疲れ様だよ、ウェント」
「ああ、何時もすまないな」
目の前にいるのは、額に傷を持つヒューランの男性である。何時もは鎧を纏っている彼も、今は柔らかいローブの類を身に纏っている。
彼の装いは魔術師らしさが目立つとんがり帽子に黒い前空きのローブ。バトルメイジと呼ばれるその装束は、一定層のソーサラー達にとって実力の証であり同時に憧れでもあった。
「もうそろそろ基礎は完璧かな。自由騎士の申し出に関しては俺の方から推薦しておきますよ」
「有り難い、助かるよアーサー」
アーサー=ラファエル。アルティコレートと私、共通の友であり自由騎士の称号を持つナイトである。その腕は現状最難関のひとつバハムートの迷宮の調査に置いても信頼してタンクを任せるに値する存在と私達が認識している程である。
そしてこの度騎士となる為の勉学を重ねるに当たって協力してくれる師でもある。その一環として、私の幻術士訓練もあった。当初はその予定はなかったのだが……
「しかし、驚いたな。まさか、ケアルが習得出来ないと呼び出されるとはね」
本来、幻術士は初歩として先ず土を持って敵を攻撃して足を鈍らせるストーンと癒しの初歩であるケアルの二つを学ぶ事が多い。しかし私は幻術士としての座学は十分に積んだ筈であるにも関わらず、ケアルを使うことが出来なかったのだ。
「危なくなったら、私が癒すわ。だから、怖がらないで触れてみて」
「ああ……」
私に指導をしてくれたのは、何もアーサーだけではなかった。淡い水色のローブを纏う少女、シルフィーもまた協力者である。
自主鍛練と座学は怠らぬようにはしているものの、ストーンやエアロが使えるにも関わらずケアルを使うことが出来ない私の修業には誰かしら補佐につくことが多かったのだ。
何故ケアルが使えないのかに関して、私も道士達も分からずにいた。体内エーテル量が少ないという訳でもない。ルガディン族である私は元々種族柄ソーサラーは向かないとも言われているが、詩人であった頃私の其れが魔法の行使や詩人の歌の行使には問題ない量であるとも言われていた。自然を拒絶している訳でもなさそうだ。その場合、寧ろケアル以外の他の攻撃的な幻術の方が使えない事の方が多いとシルフィーは教えてくれた。
シルフィー自身がそうであったというのが、私としては驚きだ。精霊の声を聞ける彼女は、今は道士となる為の修業もしているらしい。
「このあたり……いたか」
「風の淀みね、気を付けて!」
形は違えど、力の一部を扱うことが出来ず、其れでもより上を望む私の姿を彼女は懐かしんだのだという。かつて彼女が一人の臆病なエレゼンに助けられたように、自分もそうしたいと。
二人で淀みを探しては、シルフィーに癒しの手を借りつつ、私自ら鎮めにかかる。自然と精霊の事を知るための地道な日々が続いていた。
石の礫に、スプライトは傷付き、力を弱めていく。風の刃は私の肌に裂傷を増やしていくが、癒しの力が柔らかく包み込み、塞いでいくのがわかる。少ししてスプライトが鎮まり、爽やかな風が歓喜を乗せて散っていくのを、シルフィーは自分のことのように幸せそうに目を細めて見送っていた。
「ウェントブリダ、いけそう?」
「……やってみる」
スプライトを鎮めた後は、ケアルの行使を試みるのが常であった。シルフィーが今一度自分にしてみせたように、シルフィーに癒しの術をかけることを試みる。少しでも自分の魔力を引き出せれば、もしかしたら成功するのではないか。そう考えたのだが、一瞬気が遠くなる思いがしただけで、ケアルは傷を癒すほどの力を発揮せず僅かな魔力の光がシルフィーに触れるのみで。
「……うーん」
「むうぅ」
二人して肩を落とす。
このままでは彼女の成長に間に合わない。私は心の中でひとりの少女の姿を描いては、自分の現状に心急く。
「取り敢えず、休憩にしましょ」
「それもそうだな、そろそろ昼飯時であることだし」
此処から一番近いレストエリアとなるとホウソーン家の山塞になるか。エーテライトのある拠点では冒険者向けの休憩所もある。テントのひとつに座り込んで弁当をひらいた。食生活を見かねたアルトから修業のある日にモーグリ便で届くお手製だ。
「じゃ、今日も有り難く貰うね?」
協力者を見越して二人分が包まれた風呂敷をひらいた処、其処から一人分ひょいっとシルフィーが取り上げた。はじめは遠慮していたものだが、今はこの通り。私より先に食べ出しては幸せそうな笑顔を晒していた。
「さてと、私も」
いただきます。料理を前に手を合わせてから同封のスプーンを手に取り箱を開く。腹持ちのよさそうなリゾットと、ピピラの蒸し焼き。冷めても美味しいのは流石であると思う。
「ご馳走さま、何時も通り宜しく伝えといて」
シルフィーが先に食べ終えたようで、器を風呂敷に戻す。別に急ぐ必要はないのだし、ゆっくりしていこう……そう思っていた。
この山塞に悲鳴の声が響くまでは。
しかし、ソーサラーと呼ばれる魔術師達はこれ程に動き辛いローブを着た上で時に全力疾走するというのか。
感嘆を覚えずには居られない。
そう、私は今、幻術士としてこのグリダニアの地に立っていた。
「それじゃ、今日は此処までにしておこうか。お疲れ様だよ、ウェント」
「ああ、何時もすまないな」
目の前にいるのは、額に傷を持つヒューランの男性である。何時もは鎧を纏っている彼も、今は柔らかいローブの類を身に纏っている。
彼の装いは魔術師らしさが目立つとんがり帽子に黒い前空きのローブ。バトルメイジと呼ばれるその装束は、一定層のソーサラー達にとって実力の証であり同時に憧れでもあった。
「もうそろそろ基礎は完璧かな。自由騎士の申し出に関しては俺の方から推薦しておきますよ」
「有り難い、助かるよアーサー」
アーサー=ラファエル。アルティコレートと私、共通の友であり自由騎士の称号を持つナイトである。その腕は現状最難関のひとつバハムートの迷宮の調査に置いても信頼してタンクを任せるに値する存在と私達が認識している程である。
そしてこの度騎士となる為の勉学を重ねるに当たって協力してくれる師でもある。その一環として、私の幻術士訓練もあった。当初はその予定はなかったのだが……
「しかし、驚いたな。まさか、ケアルが習得出来ないと呼び出されるとはね」
本来、幻術士は初歩として先ず土を持って敵を攻撃して足を鈍らせるストーンと癒しの初歩であるケアルの二つを学ぶ事が多い。しかし私は幻術士としての座学は十分に積んだ筈であるにも関わらず、ケアルを使うことが出来なかったのだ。
「危なくなったら、私が癒すわ。だから、怖がらないで触れてみて」
「ああ……」
私に指導をしてくれたのは、何もアーサーだけではなかった。淡い水色のローブを纏う少女、シルフィーもまた協力者である。
自主鍛練と座学は怠らぬようにはしているものの、ストーンやエアロが使えるにも関わらずケアルを使うことが出来ない私の修業には誰かしら補佐につくことが多かったのだ。
何故ケアルが使えないのかに関して、私も道士達も分からずにいた。体内エーテル量が少ないという訳でもない。ルガディン族である私は元々種族柄ソーサラーは向かないとも言われているが、詩人であった頃私の其れが魔法の行使や詩人の歌の行使には問題ない量であるとも言われていた。自然を拒絶している訳でもなさそうだ。その場合、寧ろケアル以外の他の攻撃的な幻術の方が使えない事の方が多いとシルフィーは教えてくれた。
シルフィー自身がそうであったというのが、私としては驚きだ。精霊の声を聞ける彼女は、今は道士となる為の修業もしているらしい。
「このあたり……いたか」
「風の淀みね、気を付けて!」
形は違えど、力の一部を扱うことが出来ず、其れでもより上を望む私の姿を彼女は懐かしんだのだという。かつて彼女が一人の臆病なエレゼンに助けられたように、自分もそうしたいと。
二人で淀みを探しては、シルフィーに癒しの手を借りつつ、私自ら鎮めにかかる。自然と精霊の事を知るための地道な日々が続いていた。
石の礫に、スプライトは傷付き、力を弱めていく。風の刃は私の肌に裂傷を増やしていくが、癒しの力が柔らかく包み込み、塞いでいくのがわかる。少ししてスプライトが鎮まり、爽やかな風が歓喜を乗せて散っていくのを、シルフィーは自分のことのように幸せそうに目を細めて見送っていた。
「ウェントブリダ、いけそう?」
「……やってみる」
スプライトを鎮めた後は、ケアルの行使を試みるのが常であった。シルフィーが今一度自分にしてみせたように、シルフィーに癒しの術をかけることを試みる。少しでも自分の魔力を引き出せれば、もしかしたら成功するのではないか。そう考えたのだが、一瞬気が遠くなる思いがしただけで、ケアルは傷を癒すほどの力を発揮せず僅かな魔力の光がシルフィーに触れるのみで。
「……うーん」
「むうぅ」
二人して肩を落とす。
このままでは彼女の成長に間に合わない。私は心の中でひとりの少女の姿を描いては、自分の現状に心急く。
「取り敢えず、休憩にしましょ」
「それもそうだな、そろそろ昼飯時であることだし」
此処から一番近いレストエリアとなるとホウソーン家の山塞になるか。エーテライトのある拠点では冒険者向けの休憩所もある。テントのひとつに座り込んで弁当をひらいた。食生活を見かねたアルトから修業のある日にモーグリ便で届くお手製だ。
「じゃ、今日も有り難く貰うね?」
協力者を見越して二人分が包まれた風呂敷をひらいた処、其処から一人分ひょいっとシルフィーが取り上げた。はじめは遠慮していたものだが、今はこの通り。私より先に食べ出しては幸せそうな笑顔を晒していた。
「さてと、私も」
いただきます。料理を前に手を合わせてから同封のスプーンを手に取り箱を開く。腹持ちのよさそうなリゾットと、ピピラの蒸し焼き。冷めても美味しいのは流石であると思う。
「ご馳走さま、何時も通り宜しく伝えといて」
シルフィーが先に食べ終えたようで、器を風呂敷に戻す。別に急ぐ必要はないのだし、ゆっくりしていこう……そう思っていた。
この山塞に悲鳴の声が響くまでは。
服選びは難航していた。
別に、実はエレゼンサイズを探せばよかっただけのことであるのに、今の自分に前の感性で選んできた服が似合わなくなったのではないかという考えが先行して、わたしはそうしなかった。
しかし、幻術士として忠実であり、私的な時間を持たなかったわたしには、ではどのような服が良いのか、全く検討が付かなかったのだ。
今のわたしに相応しいものとなると、尚更であった。
「アンフェルさん」
そんなわたしに下方からかかる声。柔らかい、明るさを残した低音はララフェルのもの。視線を下げると、淡い紫の衣を抱いた彼と目があった。
「……ん、道化さん?どうしたの?」
「お悩みのようだったからね、これはあくまで僕のアイデアだけど」
あくまで、と言ったのはわたしの主体性を大事にしようと思ってのことかしら。背伸びをするように衣を差し出す彼から、屈んで衣を受け取った。改めて、それを拡げてみる。
「わ、ぁ……!」
「お?これは中々イケるんじゃない?一回着てみる、アンフェル姉?」
淡紫の……ラベンダーのような布地は、ベルベティーンなのだろうか、薄く艶やかで。腋と肩は大きく開かれ、肩と首には金の金属の飾り留め具が。それには更にわたしの瞳のような深い紅の宝玉の煌めきが嵌まっていた。
これを、アラビアンといっただろうか。桃色のロングスカートは、上の服の露出の強さを逆さにするかのように足首までしっかり覆われていて釣り鐘のような花を想像させるような優雅さが其処にあるような気がした。
褐色の、主張の強い肌の機嫌を柔らかなパステルは損ねる事がない。サシャに誘われるまま試着室で着替えながら、自分で自分に見とれていた。
「お、かっわいいじゃなーい、ねえアンフェル姉、髪を伸ばしたらもっと優雅なんじゃない?」
優雅さ。
其処にいたのは、少女ではない。
ひとりの女、そう感じた。
新しい装いで街に繰り出す。戦闘用のヴァンヤ一式は、綺麗に店の人がたたんでくれて今はアルフの腕の中。靴もまた木靴ではなく、爪先しか隠さないドレスシューズだ。店の人がサービスに譲ってくれた薄手の黒いタイツの生地の靴下のお陰で、擦れて痛むこともないみたい。
服の明るさに釣られたように、なんだか心も暖かい。通りの店に寄っては、サシャに耳飾りを買ってもらい、ランに説明を貰いながら、仄かな香りのコロンを買ってみたり。道を進めば買い物が増え、次第にアルフの腕の中には小さな塔が出来るようになっていった。
商店街を歩き回って、エーテライト・プラザに戻る。冒険者で賑わうこの広間の奥のゆったりとした坂を五人で上る。
先は一転して豊かなる者達で溢れている。満席のように見えるレストラン『ビスマルク』に、ぽっかりあいたひとつのテーブル。
予約席、と書かれた小さな立て札だけが其処にある。
奥の厨房から顔を出した一人のコックに、周囲の客がざわめきたつのが聞こえてきた。彼女は紺のアーティファクトを着こなし、軽く靴の音を鳴らして空席に寄る。予約席の札を取り下げると、彼女はわたし達に手を振った。
金髪のエレゼンのコック。それが、アルティコレートであると気付くと、彼女は柔らかく微笑んだ。
黒渦団に所属し、リングサスのお墨付きを貰っていると専らの噂の彼女は、このリムサ・ロミンサの主メルウィブも指名する有名な調理師でもあったのだ。
誘われてわたし達は席に座る。
この姿になり、この世界に至り、知っているけど知らないこの地での、初めてのしっかりとした食事。いや、しっかりとした食事自体かなり久しいような気さえする。メニューはない。ただ、満面の笑顔のコックは、「それでは、少々お待ちくださいませ」とそう言って奥にひいていった。
暫くして強気そうな茶髪のミコッテがわたし達の元へ料理を運んできた。彼女はアルティコレートのリテイナーであるらしい。この業務はリテイナーとしてではないけどね?と一言断ってから礼をした。
焼きたてのナイトブレッド。
十字に切り込みの入れられた堅焼きのパン。硬く香ばしい外側と、柔らかくほんのり甘い内側の二面性。
リムサで有名な魚なのよ、と説明されて出されたダガースープは薄味である分淡白ながらも旨味がある、魚の味が生きていた。
メインディッシュはビーフシチュー。ダガースープと対照的に濃厚で主張の強い、水牛のシチュー。贅沢を強く感じさせる、とろける肉質はコスタの暴れ水牛を到底想像させる事はない。小皿に乗せられたスピナッチソテー。苦味をうまくバターで丸くしたほうれん草のソテーは、小さい頃あのアクの強さが苦手だった事をすっかり忘れさせていた。
こんなに贅沢を、豪華な食事をしてもいいのだろうか。そんなことすら頭に過った。実際の処は、過っても直ぐに忘れてしまうくらい、食卓においてもサシャ達は賑やかであった。
「改めてこうやってレストランで食べると、少し緊張しますね」
「そう?可愛いわねえ、ランは♪」
「ちょ、ちょっとサシャ、頬っぺたつつかないでくださいっ」
「その服も、食事も、気に入ってくれてよかったよ」
「こんなに人が一杯で、大変ではないのですか?」
「アルト姉さんは指名じゃないとビスマルクの厨房には入らないそうだし。それに、この食事会自体は前から計画されていたものだから大丈夫だよ」
「主賓なんだからつべこべ考えず食えって。深く考えない方が美味しいぜ?」
はにかむように、嬉しそうに笑う道化さんに少し申し訳なさを覚えそうになった処に、アルフさんの言葉が飛び込んできた。次の瞬間には目敏く見付けたサシャさんに小突かれていたけれども、わたしはその言葉にはっとする。
過去とか、価値とか、身の立ち位置とか。わたしは少し、囚われすぎているのだろうか。
「またあれなことになってますけれども、アンフェルさん。遠慮はいりませんし、もっと気楽に笑ってくださいね」
「ランさん……」
「そうよ、私達は今日から仲間だもの!」
言葉が背中を押すというのは、このような感覚であっただろうか。いつの間にか料理は粗方無くなっていて、コックは大皿に真っ赤なブラッドカーラントのタルトを持って現れた。
「アンフェル、どう?新しい仲間と、新しい世界は」
「……そうね。幸せよ、怖くなる位に」
別に、実はエレゼンサイズを探せばよかっただけのことであるのに、今の自分に前の感性で選んできた服が似合わなくなったのではないかという考えが先行して、わたしはそうしなかった。
しかし、幻術士として忠実であり、私的な時間を持たなかったわたしには、ではどのような服が良いのか、全く検討が付かなかったのだ。
今のわたしに相応しいものとなると、尚更であった。
「アンフェルさん」
そんなわたしに下方からかかる声。柔らかい、明るさを残した低音はララフェルのもの。視線を下げると、淡い紫の衣を抱いた彼と目があった。
「……ん、道化さん?どうしたの?」
「お悩みのようだったからね、これはあくまで僕のアイデアだけど」
あくまで、と言ったのはわたしの主体性を大事にしようと思ってのことかしら。背伸びをするように衣を差し出す彼から、屈んで衣を受け取った。改めて、それを拡げてみる。
「わ、ぁ……!」
「お?これは中々イケるんじゃない?一回着てみる、アンフェル姉?」
淡紫の……ラベンダーのような布地は、ベルベティーンなのだろうか、薄く艶やかで。腋と肩は大きく開かれ、肩と首には金の金属の飾り留め具が。それには更にわたしの瞳のような深い紅の宝玉の煌めきが嵌まっていた。
これを、アラビアンといっただろうか。桃色のロングスカートは、上の服の露出の強さを逆さにするかのように足首までしっかり覆われていて釣り鐘のような花を想像させるような優雅さが其処にあるような気がした。
褐色の、主張の強い肌の機嫌を柔らかなパステルは損ねる事がない。サシャに誘われるまま試着室で着替えながら、自分で自分に見とれていた。
「お、かっわいいじゃなーい、ねえアンフェル姉、髪を伸ばしたらもっと優雅なんじゃない?」
優雅さ。
其処にいたのは、少女ではない。
ひとりの女、そう感じた。
新しい装いで街に繰り出す。戦闘用のヴァンヤ一式は、綺麗に店の人がたたんでくれて今はアルフの腕の中。靴もまた木靴ではなく、爪先しか隠さないドレスシューズだ。店の人がサービスに譲ってくれた薄手の黒いタイツの生地の靴下のお陰で、擦れて痛むこともないみたい。
服の明るさに釣られたように、なんだか心も暖かい。通りの店に寄っては、サシャに耳飾りを買ってもらい、ランに説明を貰いながら、仄かな香りのコロンを買ってみたり。道を進めば買い物が増え、次第にアルフの腕の中には小さな塔が出来るようになっていった。
商店街を歩き回って、エーテライト・プラザに戻る。冒険者で賑わうこの広間の奥のゆったりとした坂を五人で上る。
先は一転して豊かなる者達で溢れている。満席のように見えるレストラン『ビスマルク』に、ぽっかりあいたひとつのテーブル。
予約席、と書かれた小さな立て札だけが其処にある。
奥の厨房から顔を出した一人のコックに、周囲の客がざわめきたつのが聞こえてきた。彼女は紺のアーティファクトを着こなし、軽く靴の音を鳴らして空席に寄る。予約席の札を取り下げると、彼女はわたし達に手を振った。
金髪のエレゼンのコック。それが、アルティコレートであると気付くと、彼女は柔らかく微笑んだ。
黒渦団に所属し、リングサスのお墨付きを貰っていると専らの噂の彼女は、このリムサ・ロミンサの主メルウィブも指名する有名な調理師でもあったのだ。
誘われてわたし達は席に座る。
この姿になり、この世界に至り、知っているけど知らないこの地での、初めてのしっかりとした食事。いや、しっかりとした食事自体かなり久しいような気さえする。メニューはない。ただ、満面の笑顔のコックは、「それでは、少々お待ちくださいませ」とそう言って奥にひいていった。
暫くして強気そうな茶髪のミコッテがわたし達の元へ料理を運んできた。彼女はアルティコレートのリテイナーであるらしい。この業務はリテイナーとしてではないけどね?と一言断ってから礼をした。
焼きたてのナイトブレッド。
十字に切り込みの入れられた堅焼きのパン。硬く香ばしい外側と、柔らかくほんのり甘い内側の二面性。
リムサで有名な魚なのよ、と説明されて出されたダガースープは薄味である分淡白ながらも旨味がある、魚の味が生きていた。
メインディッシュはビーフシチュー。ダガースープと対照的に濃厚で主張の強い、水牛のシチュー。贅沢を強く感じさせる、とろける肉質はコスタの暴れ水牛を到底想像させる事はない。小皿に乗せられたスピナッチソテー。苦味をうまくバターで丸くしたほうれん草のソテーは、小さい頃あのアクの強さが苦手だった事をすっかり忘れさせていた。
こんなに贅沢を、豪華な食事をしてもいいのだろうか。そんなことすら頭に過った。実際の処は、過っても直ぐに忘れてしまうくらい、食卓においてもサシャ達は賑やかであった。
「改めてこうやってレストランで食べると、少し緊張しますね」
「そう?可愛いわねえ、ランは♪」
「ちょ、ちょっとサシャ、頬っぺたつつかないでくださいっ」
「その服も、食事も、気に入ってくれてよかったよ」
「こんなに人が一杯で、大変ではないのですか?」
「アルト姉さんは指名じゃないとビスマルクの厨房には入らないそうだし。それに、この食事会自体は前から計画されていたものだから大丈夫だよ」
「主賓なんだからつべこべ考えず食えって。深く考えない方が美味しいぜ?」
はにかむように、嬉しそうに笑う道化さんに少し申し訳なさを覚えそうになった処に、アルフさんの言葉が飛び込んできた。次の瞬間には目敏く見付けたサシャさんに小突かれていたけれども、わたしはその言葉にはっとする。
過去とか、価値とか、身の立ち位置とか。わたしは少し、囚われすぎているのだろうか。
「またあれなことになってますけれども、アンフェルさん。遠慮はいりませんし、もっと気楽に笑ってくださいね」
「ランさん……」
「そうよ、私達は今日から仲間だもの!」
言葉が背中を押すというのは、このような感覚であっただろうか。いつの間にか料理は粗方無くなっていて、コックは大皿に真っ赤なブラッドカーラントのタルトを持って現れた。
「アンフェル、どう?新しい仲間と、新しい世界は」
「……そうね。幸せよ、怖くなる位に」
リンクパールの向こうが、新しい仲間の来訪ににわかに騒がしくなるのが分かる。歓迎して頂いているのだと、分かる事が嬉しい。未だいまさっき入ったばかりであるというのに、此処に居場所があるのだと感じる。
あんまりにもリンクパールに耳を傾けているものだから、同席しているみんなには上の空のように見えたらしい。席を取り損ねて立ちっぱなしのアルフが心配そうにわたしの目の前で手を振ってはっとした。
「大丈夫?アンフェル姉」
「え?」
「あら、やっぱり聞いていなかったんですね。今、歓迎会の代わりに一緒にショッピングに出かけませんか。という話になっていたんです」
「今からパーティはちょっと難しいからね」
どうやらリンクパールで賑やかなやり取りをしながらも、此方は此方で話が盛り上がっていたみたい。戸惑うわたしを置いて話は進む。
「アンフェルは普段着を持ってないでしょう?ご好意に甘えたらどう」
「えっと、でも……わたし、お金も」
「ああ、そうだった。これは貴女のものよ、持っていきなさい」
かつて貧困に喘いでいたわたし、そんなわたしには信じられないずっしりとしたギルの音がわたしの目の前に置かれた革袋からする。
不審がってアルトを見上げる。少なくとも彼女はかつてのアンフェルを知っている。この大量のギルは何処から来ているの。そう、問いたい。
「さぁね」
視線の理由を察したのか、彼女は意地悪く笑った。これでは聞いても教えてくれないだろう、反応にわたしが肩を落としたのは仕方ないことだと思うの。
「ま、これで金銭的な問題はないし、何より生活用品がないのは辛いと思うわ。この機会に新しい仲間とゆっくりしてみたらどう?」
「此処がリムサのマーケット……」
潮風の匂いが漂う、入り江の間に掛けられた石橋。屋根を伴うその石橋の両サイドに思い思いの店が軒をつらねている。
この地に多く暮らすと言われるルガディン族を始め、ミコッテやララフェル等の姿も多く見られる。印象に残るのは、草編みの装飾を並べ売るキキルン族の姿。
「あ、つまみ食いは程々にね、昼御飯はビスマルクだから」
「え、ビスマルク!?」
「を借りてのアルトさんの手料理披露ですけどね。サシャったら、アンフェル姉さんをからかいすぎないようにしてあげてくださいね?」
「だ、だって可愛いんだもの……」
いつの間にか、私を挟んで二人のミコッテ。猫耳を持つ彼女達に、見上げられている、というなんだかどきどきしちゃう違和感。
サシャはわたしが表情豊かで可愛いんだっていうけれど、絶対サシャも負けてないよ。
「やれやれだぜ」
「なにかいったの、もやしちゃん」
「……何でもねえ」
私以外の各々が思い思いの普段着を身に纏っていて、ローブわたしが居なければ冒険者だとは容易には想像が付かない。道化ちゃんと、もやしと呼ばれたアルフくんはお揃いのシャツを着ていて、もやしシャツというらしいけれど、なんでそんな名前なのかは教えてくれなかった。
アルフくんがもやしと呼ばれるのだし、アルフくんに関わる由来があるのかもしれない、なんて。
「兎に角、まずはアンフェルさんの服を買いにいこうか。僕らも選ぶから、ゆっくり考えよう」
頷く三人、差し伸べられる手と、絡まれる腕。結局服屋までずっとそんなのりのままだった。
「こういうのでいいかなぁ」
地味なタートルネックの服を手に取る。余り、ファッションには拘りがない。冒険者であった頃は専らローブで祈りを捧げていたし、その下は薄手のシャツやタイツであることも多かった。
なんとなく手に取ったその一枚を、ランちゃんがふとわたしの手から取る。
「でも、その服……多分……」
そのままわたしに当てると、明らかに丈が合わず、臍だしになってしまいそうな短さだった。それを見て、くすっと笑うランちゃんと何だかどきっとしてしまうわたしと。
「ああ、やっぱり。アンフェル姉さん、それミコッテサイズですよ。お姉さんは健康的な肌をしてますから、臍だしも似合いそうですが」
真っ赤になって固まるわたし。
姿見に短い丈のタートルネックを我が身に重ねて映した姿が、何だかとても妖麗で。余りにもかつてのイメージから離れていてとんでもなく恥ずかしくなってきて、わたしはそっとその服をもとあった場所へと戻していた。
とっくの昔に大人の年は越えていたのだけれども、大人っぽい自分の姿から、わたしは目を逸らそうとした。
それはミコッテらしからぬ、遠く離れたわたしの姿であったから。
あんまりにもリンクパールに耳を傾けているものだから、同席しているみんなには上の空のように見えたらしい。席を取り損ねて立ちっぱなしのアルフが心配そうにわたしの目の前で手を振ってはっとした。
「大丈夫?アンフェル姉」
「え?」
「あら、やっぱり聞いていなかったんですね。今、歓迎会の代わりに一緒にショッピングに出かけませんか。という話になっていたんです」
「今からパーティはちょっと難しいからね」
どうやらリンクパールで賑やかなやり取りをしながらも、此方は此方で話が盛り上がっていたみたい。戸惑うわたしを置いて話は進む。
「アンフェルは普段着を持ってないでしょう?ご好意に甘えたらどう」
「えっと、でも……わたし、お金も」
「ああ、そうだった。これは貴女のものよ、持っていきなさい」
かつて貧困に喘いでいたわたし、そんなわたしには信じられないずっしりとしたギルの音がわたしの目の前に置かれた革袋からする。
不審がってアルトを見上げる。少なくとも彼女はかつてのアンフェルを知っている。この大量のギルは何処から来ているの。そう、問いたい。
「さぁね」
視線の理由を察したのか、彼女は意地悪く笑った。これでは聞いても教えてくれないだろう、反応にわたしが肩を落としたのは仕方ないことだと思うの。
「ま、これで金銭的な問題はないし、何より生活用品がないのは辛いと思うわ。この機会に新しい仲間とゆっくりしてみたらどう?」
「此処がリムサのマーケット……」
潮風の匂いが漂う、入り江の間に掛けられた石橋。屋根を伴うその石橋の両サイドに思い思いの店が軒をつらねている。
この地に多く暮らすと言われるルガディン族を始め、ミコッテやララフェル等の姿も多く見られる。印象に残るのは、草編みの装飾を並べ売るキキルン族の姿。
「あ、つまみ食いは程々にね、昼御飯はビスマルクだから」
「え、ビスマルク!?」
「を借りてのアルトさんの手料理披露ですけどね。サシャったら、アンフェル姉さんをからかいすぎないようにしてあげてくださいね?」
「だ、だって可愛いんだもの……」
いつの間にか、私を挟んで二人のミコッテ。猫耳を持つ彼女達に、見上げられている、というなんだかどきどきしちゃう違和感。
サシャはわたしが表情豊かで可愛いんだっていうけれど、絶対サシャも負けてないよ。
「やれやれだぜ」
「なにかいったの、もやしちゃん」
「……何でもねえ」
私以外の各々が思い思いの普段着を身に纏っていて、ローブわたしが居なければ冒険者だとは容易には想像が付かない。道化ちゃんと、もやしと呼ばれたアルフくんはお揃いのシャツを着ていて、もやしシャツというらしいけれど、なんでそんな名前なのかは教えてくれなかった。
アルフくんがもやしと呼ばれるのだし、アルフくんに関わる由来があるのかもしれない、なんて。
「兎に角、まずはアンフェルさんの服を買いにいこうか。僕らも選ぶから、ゆっくり考えよう」
頷く三人、差し伸べられる手と、絡まれる腕。結局服屋までずっとそんなのりのままだった。
「こういうのでいいかなぁ」
地味なタートルネックの服を手に取る。余り、ファッションには拘りがない。冒険者であった頃は専らローブで祈りを捧げていたし、その下は薄手のシャツやタイツであることも多かった。
なんとなく手に取ったその一枚を、ランちゃんがふとわたしの手から取る。
「でも、その服……多分……」
そのままわたしに当てると、明らかに丈が合わず、臍だしになってしまいそうな短さだった。それを見て、くすっと笑うランちゃんと何だかどきっとしてしまうわたしと。
「ああ、やっぱり。アンフェル姉さん、それミコッテサイズですよ。お姉さんは健康的な肌をしてますから、臍だしも似合いそうですが」
真っ赤になって固まるわたし。
姿見に短い丈のタートルネックを我が身に重ねて映した姿が、何だかとても妖麗で。余りにもかつてのイメージから離れていてとんでもなく恥ずかしくなってきて、わたしはそっとその服をもとあった場所へと戻していた。
とっくの昔に大人の年は越えていたのだけれども、大人っぽい自分の姿から、わたしは目を逸らそうとした。
それはミコッテらしからぬ、遠く離れたわたしの姿であったから。
「……それは、どういうつもり?」
「どういう、も何もひとつしかあるまい。私がナイトとして彼女の前に立つ。敵からも罵詈雑言からも護ってやる」
振り返ったアルトの視線から、目を逸らしてはいけないと感じていた。覚悟というものを、人々は往々にして目線を合わせられるか等といった相手の動きから探ろうとする。今は物怖じしている時ではない。
「言ったからには二言は許さないし、泣かせたりしたら『カミサマ』にチクって貰うわよ?」
「構わん、告げ口されるような失態をする気などないがな」
ついて出る言葉が、私にキツい条件を提示しているように見えてその実ララフェルの少女をただ少し過剰に心配しているだけというのが微笑ましい。笑顔になりそうなのを、堪えるのが精一杯だった。笑ってからかってやりたいところだが、今はそんなことの出来る話のタイミングではないのだから仕方ない。
「……わかったわ」
アルトが分かりやすく肩をすくめて見せた。呆れのこもった声色は、しかし何処か安堵や歓喜といった感情も抱いているように感じさせる。
私もほっと胸を撫で下ろす思いでいた。結局、最終判断を下すのは彼女であったしこっそり連れ出そうものなら誰かにチクられたって文句は言えない。彼女がそうやって知った時、私は無事ではすまないことだろう。
「結生」
ハッとした顔で、やり取りを見ていた視線をアルトの表情を伺うように動かすララフェルの少女。
不安で揺れる彼女の視線に、応えるかのようにアルトは笑った。
微かに口の線の先が上がるだけ、それでも、慈しむ目は柔らかい。
「彼女の目の届く内で、やってみる?」
「……!う、うん」
「やるからには、やめたいって言葉にしたらやめてもらうわ。結生もそうだけれど、ウェントあんたも」
「うん、大丈夫」
「分かっている」
厳しいと言われれば、そうやもしれぬ。だが、それが私と少女を心配してのことだとは重々承知してもいる。
視線を後ろにやるように此方に首を向ける、アルトの催促に私はそっと少女の目の前に跪く。ナナモ様の御前に跪くラウバーンをこの目で見てから、少しこの構図を羨ましく思っていたものなのだが……まさか本当に為す機会がくるとはね。
跪いてようやっと視線があう身長差、私は顔だけを上げて名を名乗る。
「ウェントブリダだ、お嬢さんの名前を聞いていいかい?」
「逢梨 結生……その、宜しくね?」
「結生は何かあったらリンクパールで尋ねなさい。勿論、ウェントに聞いてもいいけれども。ヒーラーのことは熟知しているつもりだから」
結生が頷くのを見て、アルトは満足そうに目を細めた。それから、此方を振り返りアーマリーチェストから何やら取り出し、差し出した。
「はい、これ使いなさい」
「いや、これは幻具ではないか。それを必要としているのは彼女の方ではないか?」
差し出されたのは、幻術士用の長杖だ。それも、本当に駆け出し間もない人間の為のもののようである。
確かに結生ではこの杖を使う時期は直ぐに来て直ぐ終わるのかもしれないが……
「ナイトになるのでしょう?」
「ああ、自由騎士というものがあってな。それになり秘伝を教われるよう、掛け合ってみようと思う」
恐らく彼女も何時までも幻術士でいることはないだろう。何時かはソウルクリスタルを手にする日が来るような、そんな気がする。そんなこと限られた人間のみに訪れるものであるのだが。
「……はぁ」
アルトが明らかに呆れるのが見えた。リンクパールに触れ、リンクシェルのひとつに声を掛けている。私も所属しているリンクシェルである為、彼女がそのリンクシェルの気さくなナイトの青年に私への教授を頼むような内容は聞こえてきた。
通信を終えて、アルトは突っ込んだ。
「あんたに幻術の心得がないからよ……ナイトになるのには幻術の知識も必要なのよ、知らなかったのね……」
あの喧騒の後の、更にあの宣誓の後だ。余りの恥ずかしさに私が崩れ落ちたのは言うまでもない。
「直ぐに、とはならないでしょうけど合間合間に学んでおきなさいな……」
「ああ……」
逆に言えば、そんな恥ずかしい失態を晒すほど、あの言葉は土壇場の閃きであり、其れまで考えもしなかった事柄であった。
たった一人の少女の為。
そんなナイトが、ちょっとだけウルダハの歴史に名を残すのは。もうちょっと、先の話。
「どういう、も何もひとつしかあるまい。私がナイトとして彼女の前に立つ。敵からも罵詈雑言からも護ってやる」
振り返ったアルトの視線から、目を逸らしてはいけないと感じていた。覚悟というものを、人々は往々にして目線を合わせられるか等といった相手の動きから探ろうとする。今は物怖じしている時ではない。
「言ったからには二言は許さないし、泣かせたりしたら『カミサマ』にチクって貰うわよ?」
「構わん、告げ口されるような失態をする気などないがな」
ついて出る言葉が、私にキツい条件を提示しているように見えてその実ララフェルの少女をただ少し過剰に心配しているだけというのが微笑ましい。笑顔になりそうなのを、堪えるのが精一杯だった。笑ってからかってやりたいところだが、今はそんなことの出来る話のタイミングではないのだから仕方ない。
「……わかったわ」
アルトが分かりやすく肩をすくめて見せた。呆れのこもった声色は、しかし何処か安堵や歓喜といった感情も抱いているように感じさせる。
私もほっと胸を撫で下ろす思いでいた。結局、最終判断を下すのは彼女であったしこっそり連れ出そうものなら誰かにチクられたって文句は言えない。彼女がそうやって知った時、私は無事ではすまないことだろう。
「結生」
ハッとした顔で、やり取りを見ていた視線をアルトの表情を伺うように動かすララフェルの少女。
不安で揺れる彼女の視線に、応えるかのようにアルトは笑った。
微かに口の線の先が上がるだけ、それでも、慈しむ目は柔らかい。
「彼女の目の届く内で、やってみる?」
「……!う、うん」
「やるからには、やめたいって言葉にしたらやめてもらうわ。結生もそうだけれど、ウェントあんたも」
「うん、大丈夫」
「分かっている」
厳しいと言われれば、そうやもしれぬ。だが、それが私と少女を心配してのことだとは重々承知してもいる。
視線を後ろにやるように此方に首を向ける、アルトの催促に私はそっと少女の目の前に跪く。ナナモ様の御前に跪くラウバーンをこの目で見てから、少しこの構図を羨ましく思っていたものなのだが……まさか本当に為す機会がくるとはね。
跪いてようやっと視線があう身長差、私は顔だけを上げて名を名乗る。
「ウェントブリダだ、お嬢さんの名前を聞いていいかい?」
「逢梨 結生……その、宜しくね?」
「結生は何かあったらリンクパールで尋ねなさい。勿論、ウェントに聞いてもいいけれども。ヒーラーのことは熟知しているつもりだから」
結生が頷くのを見て、アルトは満足そうに目を細めた。それから、此方を振り返りアーマリーチェストから何やら取り出し、差し出した。
「はい、これ使いなさい」
「いや、これは幻具ではないか。それを必要としているのは彼女の方ではないか?」
差し出されたのは、幻術士用の長杖だ。それも、本当に駆け出し間もない人間の為のもののようである。
確かに結生ではこの杖を使う時期は直ぐに来て直ぐ終わるのかもしれないが……
「ナイトになるのでしょう?」
「ああ、自由騎士というものがあってな。それになり秘伝を教われるよう、掛け合ってみようと思う」
恐らく彼女も何時までも幻術士でいることはないだろう。何時かはソウルクリスタルを手にする日が来るような、そんな気がする。そんなこと限られた人間のみに訪れるものであるのだが。
「……はぁ」
アルトが明らかに呆れるのが見えた。リンクパールに触れ、リンクシェルのひとつに声を掛けている。私も所属しているリンクシェルである為、彼女がそのリンクシェルの気さくなナイトの青年に私への教授を頼むような内容は聞こえてきた。
通信を終えて、アルトは突っ込んだ。
「あんたに幻術の心得がないからよ……ナイトになるのには幻術の知識も必要なのよ、知らなかったのね……」
あの喧騒の後の、更にあの宣誓の後だ。余りの恥ずかしさに私が崩れ落ちたのは言うまでもない。
「直ぐに、とはならないでしょうけど合間合間に学んでおきなさいな……」
「ああ……」
逆に言えば、そんな恥ずかしい失態を晒すほど、あの言葉は土壇場の閃きであり、其れまで考えもしなかった事柄であった。
たった一人の少女の為。
そんなナイトが、ちょっとだけウルダハの歴史に名を残すのは。もうちょっと、先の話。
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