作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。
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服選びは難航していた。
別に、実はエレゼンサイズを探せばよかっただけのことであるのに、今の自分に前の感性で選んできた服が似合わなくなったのではないかという考えが先行して、わたしはそうしなかった。
しかし、幻術士として忠実であり、私的な時間を持たなかったわたしには、ではどのような服が良いのか、全く検討が付かなかったのだ。
今のわたしに相応しいものとなると、尚更であった。
「アンフェルさん」
そんなわたしに下方からかかる声。柔らかい、明るさを残した低音はララフェルのもの。視線を下げると、淡い紫の衣を抱いた彼と目があった。
「……ん、道化さん?どうしたの?」
「お悩みのようだったからね、これはあくまで僕のアイデアだけど」
あくまで、と言ったのはわたしの主体性を大事にしようと思ってのことかしら。背伸びをするように衣を差し出す彼から、屈んで衣を受け取った。改めて、それを拡げてみる。
「わ、ぁ……!」
「お?これは中々イケるんじゃない?一回着てみる、アンフェル姉?」
淡紫の……ラベンダーのような布地は、ベルベティーンなのだろうか、薄く艶やかで。腋と肩は大きく開かれ、肩と首には金の金属の飾り留め具が。それには更にわたしの瞳のような深い紅の宝玉の煌めきが嵌まっていた。
これを、アラビアンといっただろうか。桃色のロングスカートは、上の服の露出の強さを逆さにするかのように足首までしっかり覆われていて釣り鐘のような花を想像させるような優雅さが其処にあるような気がした。
褐色の、主張の強い肌の機嫌を柔らかなパステルは損ねる事がない。サシャに誘われるまま試着室で着替えながら、自分で自分に見とれていた。
「お、かっわいいじゃなーい、ねえアンフェル姉、髪を伸ばしたらもっと優雅なんじゃない?」
優雅さ。
其処にいたのは、少女ではない。
ひとりの女、そう感じた。
新しい装いで街に繰り出す。戦闘用のヴァンヤ一式は、綺麗に店の人がたたんでくれて今はアルフの腕の中。靴もまた木靴ではなく、爪先しか隠さないドレスシューズだ。店の人がサービスに譲ってくれた薄手の黒いタイツの生地の靴下のお陰で、擦れて痛むこともないみたい。
服の明るさに釣られたように、なんだか心も暖かい。通りの店に寄っては、サシャに耳飾りを買ってもらい、ランに説明を貰いながら、仄かな香りのコロンを買ってみたり。道を進めば買い物が増え、次第にアルフの腕の中には小さな塔が出来るようになっていった。
商店街を歩き回って、エーテライト・プラザに戻る。冒険者で賑わうこの広間の奥のゆったりとした坂を五人で上る。
先は一転して豊かなる者達で溢れている。満席のように見えるレストラン『ビスマルク』に、ぽっかりあいたひとつのテーブル。
予約席、と書かれた小さな立て札だけが其処にある。
奥の厨房から顔を出した一人のコックに、周囲の客がざわめきたつのが聞こえてきた。彼女は紺のアーティファクトを着こなし、軽く靴の音を鳴らして空席に寄る。予約席の札を取り下げると、彼女はわたし達に手を振った。
金髪のエレゼンのコック。それが、アルティコレートであると気付くと、彼女は柔らかく微笑んだ。
黒渦団に所属し、リングサスのお墨付きを貰っていると専らの噂の彼女は、このリムサ・ロミンサの主メルウィブも指名する有名な調理師でもあったのだ。
誘われてわたし達は席に座る。
この姿になり、この世界に至り、知っているけど知らないこの地での、初めてのしっかりとした食事。いや、しっかりとした食事自体かなり久しいような気さえする。メニューはない。ただ、満面の笑顔のコックは、「それでは、少々お待ちくださいませ」とそう言って奥にひいていった。
暫くして強気そうな茶髪のミコッテがわたし達の元へ料理を運んできた。彼女はアルティコレートのリテイナーであるらしい。この業務はリテイナーとしてではないけどね?と一言断ってから礼をした。
焼きたてのナイトブレッド。
十字に切り込みの入れられた堅焼きのパン。硬く香ばしい外側と、柔らかくほんのり甘い内側の二面性。
リムサで有名な魚なのよ、と説明されて出されたダガースープは薄味である分淡白ながらも旨味がある、魚の味が生きていた。
メインディッシュはビーフシチュー。ダガースープと対照的に濃厚で主張の強い、水牛のシチュー。贅沢を強く感じさせる、とろける肉質はコスタの暴れ水牛を到底想像させる事はない。小皿に乗せられたスピナッチソテー。苦味をうまくバターで丸くしたほうれん草のソテーは、小さい頃あのアクの強さが苦手だった事をすっかり忘れさせていた。
こんなに贅沢を、豪華な食事をしてもいいのだろうか。そんなことすら頭に過った。実際の処は、過っても直ぐに忘れてしまうくらい、食卓においてもサシャ達は賑やかであった。
「改めてこうやってレストランで食べると、少し緊張しますね」
「そう?可愛いわねえ、ランは♪」
「ちょ、ちょっとサシャ、頬っぺたつつかないでくださいっ」
「その服も、食事も、気に入ってくれてよかったよ」
「こんなに人が一杯で、大変ではないのですか?」
「アルト姉さんは指名じゃないとビスマルクの厨房には入らないそうだし。それに、この食事会自体は前から計画されていたものだから大丈夫だよ」
「主賓なんだからつべこべ考えず食えって。深く考えない方が美味しいぜ?」
はにかむように、嬉しそうに笑う道化さんに少し申し訳なさを覚えそうになった処に、アルフさんの言葉が飛び込んできた。次の瞬間には目敏く見付けたサシャさんに小突かれていたけれども、わたしはその言葉にはっとする。
過去とか、価値とか、身の立ち位置とか。わたしは少し、囚われすぎているのだろうか。
「またあれなことになってますけれども、アンフェルさん。遠慮はいりませんし、もっと気楽に笑ってくださいね」
「ランさん……」
「そうよ、私達は今日から仲間だもの!」
言葉が背中を押すというのは、このような感覚であっただろうか。いつの間にか料理は粗方無くなっていて、コックは大皿に真っ赤なブラッドカーラントのタルトを持って現れた。
「アンフェル、どう?新しい仲間と、新しい世界は」
「……そうね。幸せよ、怖くなる位に」
別に、実はエレゼンサイズを探せばよかっただけのことであるのに、今の自分に前の感性で選んできた服が似合わなくなったのではないかという考えが先行して、わたしはそうしなかった。
しかし、幻術士として忠実であり、私的な時間を持たなかったわたしには、ではどのような服が良いのか、全く検討が付かなかったのだ。
今のわたしに相応しいものとなると、尚更であった。
「アンフェルさん」
そんなわたしに下方からかかる声。柔らかい、明るさを残した低音はララフェルのもの。視線を下げると、淡い紫の衣を抱いた彼と目があった。
「……ん、道化さん?どうしたの?」
「お悩みのようだったからね、これはあくまで僕のアイデアだけど」
あくまで、と言ったのはわたしの主体性を大事にしようと思ってのことかしら。背伸びをするように衣を差し出す彼から、屈んで衣を受け取った。改めて、それを拡げてみる。
「わ、ぁ……!」
「お?これは中々イケるんじゃない?一回着てみる、アンフェル姉?」
淡紫の……ラベンダーのような布地は、ベルベティーンなのだろうか、薄く艶やかで。腋と肩は大きく開かれ、肩と首には金の金属の飾り留め具が。それには更にわたしの瞳のような深い紅の宝玉の煌めきが嵌まっていた。
これを、アラビアンといっただろうか。桃色のロングスカートは、上の服の露出の強さを逆さにするかのように足首までしっかり覆われていて釣り鐘のような花を想像させるような優雅さが其処にあるような気がした。
褐色の、主張の強い肌の機嫌を柔らかなパステルは損ねる事がない。サシャに誘われるまま試着室で着替えながら、自分で自分に見とれていた。
「お、かっわいいじゃなーい、ねえアンフェル姉、髪を伸ばしたらもっと優雅なんじゃない?」
優雅さ。
其処にいたのは、少女ではない。
ひとりの女、そう感じた。
新しい装いで街に繰り出す。戦闘用のヴァンヤ一式は、綺麗に店の人がたたんでくれて今はアルフの腕の中。靴もまた木靴ではなく、爪先しか隠さないドレスシューズだ。店の人がサービスに譲ってくれた薄手の黒いタイツの生地の靴下のお陰で、擦れて痛むこともないみたい。
服の明るさに釣られたように、なんだか心も暖かい。通りの店に寄っては、サシャに耳飾りを買ってもらい、ランに説明を貰いながら、仄かな香りのコロンを買ってみたり。道を進めば買い物が増え、次第にアルフの腕の中には小さな塔が出来るようになっていった。
商店街を歩き回って、エーテライト・プラザに戻る。冒険者で賑わうこの広間の奥のゆったりとした坂を五人で上る。
先は一転して豊かなる者達で溢れている。満席のように見えるレストラン『ビスマルク』に、ぽっかりあいたひとつのテーブル。
予約席、と書かれた小さな立て札だけが其処にある。
奥の厨房から顔を出した一人のコックに、周囲の客がざわめきたつのが聞こえてきた。彼女は紺のアーティファクトを着こなし、軽く靴の音を鳴らして空席に寄る。予約席の札を取り下げると、彼女はわたし達に手を振った。
金髪のエレゼンのコック。それが、アルティコレートであると気付くと、彼女は柔らかく微笑んだ。
黒渦団に所属し、リングサスのお墨付きを貰っていると専らの噂の彼女は、このリムサ・ロミンサの主メルウィブも指名する有名な調理師でもあったのだ。
誘われてわたし達は席に座る。
この姿になり、この世界に至り、知っているけど知らないこの地での、初めてのしっかりとした食事。いや、しっかりとした食事自体かなり久しいような気さえする。メニューはない。ただ、満面の笑顔のコックは、「それでは、少々お待ちくださいませ」とそう言って奥にひいていった。
暫くして強気そうな茶髪のミコッテがわたし達の元へ料理を運んできた。彼女はアルティコレートのリテイナーであるらしい。この業務はリテイナーとしてではないけどね?と一言断ってから礼をした。
焼きたてのナイトブレッド。
十字に切り込みの入れられた堅焼きのパン。硬く香ばしい外側と、柔らかくほんのり甘い内側の二面性。
リムサで有名な魚なのよ、と説明されて出されたダガースープは薄味である分淡白ながらも旨味がある、魚の味が生きていた。
メインディッシュはビーフシチュー。ダガースープと対照的に濃厚で主張の強い、水牛のシチュー。贅沢を強く感じさせる、とろける肉質はコスタの暴れ水牛を到底想像させる事はない。小皿に乗せられたスピナッチソテー。苦味をうまくバターで丸くしたほうれん草のソテーは、小さい頃あのアクの強さが苦手だった事をすっかり忘れさせていた。
こんなに贅沢を、豪華な食事をしてもいいのだろうか。そんなことすら頭に過った。実際の処は、過っても直ぐに忘れてしまうくらい、食卓においてもサシャ達は賑やかであった。
「改めてこうやってレストランで食べると、少し緊張しますね」
「そう?可愛いわねえ、ランは♪」
「ちょ、ちょっとサシャ、頬っぺたつつかないでくださいっ」
「その服も、食事も、気に入ってくれてよかったよ」
「こんなに人が一杯で、大変ではないのですか?」
「アルト姉さんは指名じゃないとビスマルクの厨房には入らないそうだし。それに、この食事会自体は前から計画されていたものだから大丈夫だよ」
「主賓なんだからつべこべ考えず食えって。深く考えない方が美味しいぜ?」
はにかむように、嬉しそうに笑う道化さんに少し申し訳なさを覚えそうになった処に、アルフさんの言葉が飛び込んできた。次の瞬間には目敏く見付けたサシャさんに小突かれていたけれども、わたしはその言葉にはっとする。
過去とか、価値とか、身の立ち位置とか。わたしは少し、囚われすぎているのだろうか。
「またあれなことになってますけれども、アンフェルさん。遠慮はいりませんし、もっと気楽に笑ってくださいね」
「ランさん……」
「そうよ、私達は今日から仲間だもの!」
言葉が背中を押すというのは、このような感覚であっただろうか。いつの間にか料理は粗方無くなっていて、コックは大皿に真っ赤なブラッドカーラントのタルトを持って現れた。
「アンフェル、どう?新しい仲間と、新しい世界は」
「……そうね。幸せよ、怖くなる位に」
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