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作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。  
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物の考えに、正答など存在しない。
いま、私の考えるものが、私の答に他ならないのだから。



グリダニアを森の都、リムサ・ロミンサを海の都と称するならば、ウルダハは即ち砂の都であろう。
植物に由来する資源の乏しいザナラーンは、一方で鉱物資源の豊かさを見付け出す事が出来る。


私の職人としての主な生活が、革細工と木工に根差しているのは知っての通りだ。採掘師を始めたのは、元を言えば自らの為ではない。














ザナラーンの夏は暑い。
このウルダハに立身した、慣れた身の私ですら、時に苦痛に感じる程だ。
砂漠のような地方ではあるが、水場がないという訳でもなく……西ザナラーンのノフィカの井戸などは、貴重な水源地である。


少しくらい水浴びしたって、罰は当たらぬだろう。
そう思って、立ち寄った私が見たものは……


「もう帰りたいのー……」
「こっちも腕が上がらないのだわ……」



「……お前ら」

情けないエレゼンどもの姿だった。








「銀に、ソーダ水か」
「うん、数が要るからマーケットじゃお金がかかってさ」
「質が良いのが欲しかったのよ、唯でさえ稀少な生マユを紡ぐのだもの」

西ザナラーン、ノフィカの井戸と言えば、駆け出しの採掘師達の採掘所でもあった。
銀鉱、ソーダ水は、どちらも駆け出しを少し卒業したくらいの採掘師が採ることが出来る素材である。
金の髪のエレゼン、アルティコレートは裁縫師として紡ぐ、生マユを洗い清める水としてソーダ水を求めて。
褐色肌のエレゼン、アンフェルツィートは、彫金師として彫る、銀細工の為の銀を求めて。
二人揃って採掘師を始めたものの、その力仕事が続かず力尽きていたのだという。



「情けない。一応君達は光の戦士なのだよ?」
「わたくし頭脳派ですし」
「森はこんなに暑くないんですよぅ……」


聞いて呆れる有り様だった。
とはいえ、言い分に全く理がない訳でもない。アルティコレートと言えば、学者、でなくとも黒魔道士として高名な賢者といっても過言でない魔法使い中の魔法使いである。アンフェルツィートは依頼や冒険の為でなければ森を出ることのない、グリダニアの重鎮。グリダニアは深い森に直射日光を奪われ、涼しい処がほとんどで場所によっては寒いくらいでもある。


二人には向かないといっても過言でないのは確かなのだ。
しかし、それでは二人の目的は果たされない。出来れば過度の出費は避けたい処であるし、採掘師と言えば、革なめしに使うミョウバンであるアルメンもまた採集出来る立場である。


「やれやれ、貸してみろ」

私は地に投げ出されていた、二人のどちらのものかわからないピッケルを拾い上げる。
アルトには料理を何時も世話になっているし、旅先で使う薬品を、最近はアンフェルが手助けしてくれるようになった。
私はザナラーンに慣れている身であるし、力もある。たまにはこの二人の為に尽くすのも悪くない……


私はそうやって採掘師を始めたのだった。
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「なあ、私には似合っていないのではないか?服に着られてはいないだろうか」
「そんなことはないよ、とてもよく似合っている」

口では否定を述べながら、自分でさえ似合っていないとはとてもじゃないが思いづらい、思いがけない私自身の姿に目眩がした。
最近新しく関わるようになったエレゼンの女性、アンフェルツィートが事あるごとに「自分が自分でないようだ」と訴えていた時期があった。
今の私の気持ちは、恐らくそれに近い。


助けて貰えないどころか、笑顔で見送られて奥へと引っ込まされた私は、ロアユ闘将の手によって着替えさせられる事となった。男物のスーツを脱がされ、さらしも外される。自由になった胸にブラジャーを付けさせられ、その上にドレスを着た。

深い青の生地が、波のような模様を作っている。織り込まれた銀のラメの輝きは、夜の海に弾ける小さな波が生み出す光のよう。
胸部から上がないビスチェと呼ばれるデザインは、鍛えられた身体の確かな線を残す鎖骨を色っぽく強調しているかのようだ。
一方で筋肉の線が出て無骨に写りがちな両の腕は、肘よりやや上まであるなだらかな線を持つ長いドレスグローブに覆われ、冒険者の腕には思いづらい女性の腕が目に映る。
スカートはぎりぎり靴が見えるか見えないかといった丈のAラインスカートであった。腕同様、ルガディン族の逞しい四肢を綺麗に隠しながら、なだらかに豊かに広がるスカートは、上半身を相対的に細身に見せている気がしてくる。

私の為に誂えられたといっていい、一品物のドレス。慣れないハイヒールに、歩くのも不安になりただ視線だけをさ迷わせる。


「私も似合っておると思うぞ」
「お褒めに預かり、光栄に御座います。しかし、ラウバーン様、よもや土産とは……」


先程の呟きに、ナナモ様が反応した事に驚くがこの服では跪く事が出来ないではないか!狼狽える私に満足そうな笑顔を返すナナモ様と、力強く頷くラウバーンに、私は恥ずかしさからよろけそうになり闘将に支えられる羽目になったのであった。














「ウルダハの宝であるお前への礼もそうなのだが、こういう社会に慣れていないであろうお前に、事前に触れておいて貰った方が良さそうだろうと考えたことがあってね」


結局、ハイヒールで長時間立つのは不慣れな私には酷だろうと用意された椅子に座りジェンリンスの話す種明かしと本来の目的に耳を傾ける。
私がドレスを持っていないであろう事はかなり可能性の高いこととして憂慮しており、その件を招待にあたって心配事として伝えた処、ロアユ闘将とナナモ様が乗り気になってこのドレスを手配したのだという。

しかし、慣れるべき事柄とは何だろうか。考え込む私に、アーサーは屈み込んで手を差し伸べた。ふと意識をやり、彼を見上げるのだが、よくよく見れば彼もまた正装といえるスーツ姿だ。
差し伸べられた手を取ると、殆どアーサーに引き寄せられるかのようにあっさり椅子から立ち上がる事が出来た。この靴だから踏ん張り難いし、立ち上がるのは楽ではないと思っていたのに。


「ウェント、聞くけれど……社交ダンスを女性の側で踊った経験はあるかい?」
「社交ダンス!?」

反対側の手に、アーサーの反対側の手が重ねられる。余りにも近い異性の姿にどきっとさせられるが、それどころではない。


「大丈夫、其れならばゆっくり慣れていこうか。エスコートするよ、ウェント」


余りの恥ずかしさに、なんだか気が遠くなる気がした。慌てたアーサーの心配の声が響く。少し考えれば、ただちょっと女性扱いを受けただけであったのだが……



社交界は大変なものであると、思わされるのであった。



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本来のプロットより早いところでストーリーが切れてる悲しみ。
読了感謝。
私はウルダハの出身である。傭兵ではあるが、其の名はいつの間にか広く知れ渡り、身勝手では居られない身になってしまったことだ。

暁の協力者である冒険者。森のモーグリ達の認める吟遊詩人。
ウルダハ王宮が認めた自由騎士の一人。そして、一応ではあるが私は不滅隊の者なのである。

つくづく身を縛るものが多くなったと思わざるを得ない。
しかし、っそれが私の身分を保証し確かなものにしているのもまた事実だ。
それらに対して無礼を働くわけにもいかないだろう。


「それで、不滅隊を通じて私にと」
「ええ、騎士としてではなく"風の花嫁"その人として招かれてほしいとのことでして」


ルガディン族、ゼーウォルフである私は、伝統的な命名規則に則った名前を持っている。
また、その名前が持つ意味がそのまま異名として用いられる事も多い。
"風の花嫁"というのは私ウェントブリダの意味するところであるのだ。

ウルダハのナル回廊の一角、不滅隊の詰め所で渡された2つの手紙。
私はその中身に心底困惑していた。


1枚目は、差出人はナナモ女王。つまり、ウルダハ王宮からである。
形式ばった文章でウルダハへの貢献者である私を、舞踏会へ招待する内容が書かれていた。
添えられていた美しいマラカイトの指輪は、ナナシャマラカイトであろうか。
恐らく、舞踏会の場において本人認証をする為の装飾である事が伺える。

2枚目は、ジェンリンスからであった。
彼は銀冑団の現総長である。騎士としては上司のようなものであるのだが……
私が舞踏会に招待された事を受けて、些細ながら贈り物があるのだという内容が礼儀正しく綴られていた。
いつまでもまじめで真っ直ぐな彼が、私に贈る物とは何であろうか。


「狩猟と詩歌に生きる貴女には、本来無縁なものであるのは承知の上です。しかしながら、貴女の功績は評価されるべきものでもありますし、上層社会にも貴女の存在を正しく伝える必要があるのです」


どうか、ご理解の程をお願いしますと。
そうはいうものの、どうしたものであろうか。
ジェンリンスには、「舞踏会当日着ていくつもりの服で来てくれ」と言われ、私は宿屋で頭を抱える羽目となった。
革細工に理解はあるが、裁縫はあまりわからない。貴族社会に対する、自身のお披露目の機会であるのは確かなのだ。吟遊詩人として姿を見せるなら兎も角、それ以外において流石に戦闘衣装やアーディファクト、普段着などで行くわけにはいくまい。

そういえば、ボディガードとして式場の類へ赴くようになった時の為の男物のスーツがあったのではないだろうか。そう思い出して預けている荷物を探る。しばらくして買ったものの使われていない、新品同然のスーツがさらし布と一緒に見つかった。

「少々キツい気もするが……ややすれば慣れる、よな?」

男性物のぴっちりしたスーツを着るために、ルガディン族の身で唯一女性らしさを訴えている胸部の膨らみは少々邪魔になるようだ。其の為下着としてさらしを着込もうと考えたのだが、それはそれで……

「……息苦しい」


やはり人付き合いというものは色々大変であることだ、と思い知らされるのであった。
















フロンデール歩廊の片隅に、銀冑団の詰所は存在する。
少しだけ人目を気にして、私はその扉をノックして名乗りを上げた。


「失礼、ウェントブリダだ」
「入っておいで、ウェント」


扉の向こうから聞こえてきたのが、近しい関係の者の声であった気がして私は内心首を傾げる。
しかし留まる理由もない。
一礼して扉を開けた先、向こうにいたのは声の主アーサー・ラファエルを始め、総長ジェンリンス、そして……


「ナナモ様!?ラウバーン様までっ!?」

まさかの女王陛下とグランドカンパニーの盟主ラウバーンの2人の存在には驚きが隠せない。

「なんじゃ、其処まで驚く事か?」
「貴様が初めて社交界に出るのだから、少々土産をと思ってな」


思わず跪こうとする私を、ナナモ様は制止する。
てくてくと歩み寄って私を見上げ、彼女は笑った。


「お主の事はラウバーンからよく聞いておる。ウェントブリダ、お主も女であるのじゃから」


とてもとても可愛らしいお姿の筈なのだが、私の背中には冷や汗がよぎった気がした。
そしてその理由を考える間もなく、答えは姿を現した。

明らかに並の素材ではないと分かる、艶やかな生地であることが人目で分かる衣装を抱いて、奥から1人のエレゼン将が現れたのだ。
確か、彼女はラウバーンの御付でエリヌ・ロアユといっただろうか……


「それでは、ウェントブリダさん。此方のお召し物に着替えましょうか。女人なのですから、ドレスでなくては話が始まりませんよ」


恐らく土産とはそれだろう、と想像がついてしまう事が恨めしい。
碌な抵抗も出来ず、アーサーとジェンリンスに助けを求めようと視線を向けるが二人とも柔らかい笑顔で私を見送るだけであった。
黒衣森は、静かで柔らかだ。第二の故郷と言えるザナラーンの地は日は刺し夜風は凍るのだから、この優しい昼夜の時間差には最初驚かされたものだ。雨季の雨の多さを人伝に聞き、心弾ませたのもまた記憶に新しい。
しかし、ソーサラーと呼ばれる魔術師達はこれ程に動き辛いローブを着た上で時に全力疾走するというのか。
感嘆を覚えずには居られない。

そう、私は今、幻術士としてこのグリダニアの地に立っていた。



「それじゃ、今日は此処までにしておこうか。お疲れ様だよ、ウェント」
「ああ、何時もすまないな」


目の前にいるのは、額に傷を持つヒューランの男性である。何時もは鎧を纏っている彼も、今は柔らかいローブの類を身に纏っている。
彼の装いは魔術師らしさが目立つとんがり帽子に黒い前空きのローブ。バトルメイジと呼ばれるその装束は、一定層のソーサラー達にとって実力の証であり同時に憧れでもあった。


「もうそろそろ基礎は完璧かな。自由騎士の申し出に関しては俺の方から推薦しておきますよ」
「有り難い、助かるよアーサー」


アーサー=ラファエル。アルティコレートと私、共通の友であり自由騎士の称号を持つナイトである。その腕は現状最難関のひとつバハムートの迷宮の調査に置いても信頼してタンクを任せるに値する存在と私達が認識している程である。

そしてこの度騎士となる為の勉学を重ねるに当たって協力してくれる師でもある。その一環として、私の幻術士訓練もあった。当初はその予定はなかったのだが……


「しかし、驚いたな。まさか、ケアルが習得出来ないと呼び出されるとはね」


本来、幻術士は初歩として先ず土を持って敵を攻撃して足を鈍らせるストーンと癒しの初歩であるケアルの二つを学ぶ事が多い。しかし私は幻術士としての座学は十分に積んだ筈であるにも関わらず、ケアルを使うことが出来なかったのだ。



















「危なくなったら、私が癒すわ。だから、怖がらないで触れてみて」
「ああ……」

私に指導をしてくれたのは、何もアーサーだけではなかった。淡い水色のローブを纏う少女、シルフィーもまた協力者である。
自主鍛練と座学は怠らぬようにはしているものの、ストーンやエアロが使えるにも関わらずケアルを使うことが出来ない私の修業には誰かしら補佐につくことが多かったのだ。

何故ケアルが使えないのかに関して、私も道士達も分からずにいた。体内エーテル量が少ないという訳でもない。ルガディン族である私は元々種族柄ソーサラーは向かないとも言われているが、詩人であった頃私の其れが魔法の行使や詩人の歌の行使には問題ない量であるとも言われていた。自然を拒絶している訳でもなさそうだ。その場合、寧ろケアル以外の他の攻撃的な幻術の方が使えない事の方が多いとシルフィーは教えてくれた。
シルフィー自身がそうであったというのが、私としては驚きだ。精霊の声を聞ける彼女は、今は道士となる為の修業もしているらしい。


「このあたり……いたか」
「風の淀みね、気を付けて!」


形は違えど、力の一部を扱うことが出来ず、其れでもより上を望む私の姿を彼女は懐かしんだのだという。かつて彼女が一人の臆病なエレゼンに助けられたように、自分もそうしたいと。

二人で淀みを探しては、シルフィーに癒しの手を借りつつ、私自ら鎮めにかかる。自然と精霊の事を知るための地道な日々が続いていた。


石の礫に、スプライトは傷付き、力を弱めていく。風の刃は私の肌に裂傷を増やしていくが、癒しの力が柔らかく包み込み、塞いでいくのがわかる。少ししてスプライトが鎮まり、爽やかな風が歓喜を乗せて散っていくのを、シルフィーは自分のことのように幸せそうに目を細めて見送っていた。




「ウェントブリダ、いけそう?」
「……やってみる」


スプライトを鎮めた後は、ケアルの行使を試みるのが常であった。シルフィーが今一度自分にしてみせたように、シルフィーに癒しの術をかけることを試みる。少しでも自分の魔力を引き出せれば、もしかしたら成功するのではないか。そう考えたのだが、一瞬気が遠くなる思いがしただけで、ケアルは傷を癒すほどの力を発揮せず僅かな魔力の光がシルフィーに触れるのみで。


「……うーん」
「むうぅ」


二人して肩を落とす。
このままでは彼女の成長に間に合わない。私は心の中でひとりの少女の姿を描いては、自分の現状に心急く。


「取り敢えず、休憩にしましょ」
「それもそうだな、そろそろ昼飯時であることだし」


此処から一番近いレストエリアとなるとホウソーン家の山塞になるか。エーテライトのある拠点では冒険者向けの休憩所もある。テントのひとつに座り込んで弁当をひらいた。食生活を見かねたアルトから修業のある日にモーグリ便で届くお手製だ。


「じゃ、今日も有り難く貰うね?」


協力者を見越して二人分が包まれた風呂敷をひらいた処、其処から一人分ひょいっとシルフィーが取り上げた。はじめは遠慮していたものだが、今はこの通り。私より先に食べ出しては幸せそうな笑顔を晒していた。

「さてと、私も」


いただきます。料理を前に手を合わせてから同封のスプーンを手に取り箱を開く。腹持ちのよさそうなリゾットと、ピピラの蒸し焼き。冷めても美味しいのは流石であると思う。


「ご馳走さま、何時も通り宜しく伝えといて」

シルフィーが先に食べ終えたようで、器を風呂敷に戻す。別に急ぐ必要はないのだし、ゆっくりしていこう……そう思っていた。




この山塞に悲鳴の声が響くまでは。
「……それは、どういうつもり?」
「どういう、も何もひとつしかあるまい。私がナイトとして彼女の前に立つ。敵からも罵詈雑言からも護ってやる」


振り返ったアルトの視線から、目を逸らしてはいけないと感じていた。覚悟というものを、人々は往々にして目線を合わせられるか等といった相手の動きから探ろうとする。今は物怖じしている時ではない。


「言ったからには二言は許さないし、泣かせたりしたら『カミサマ』にチクって貰うわよ?」
「構わん、告げ口されるような失態をする気などないがな」


ついて出る言葉が、私にキツい条件を提示しているように見えてその実ララフェルの少女をただ少し過剰に心配しているだけというのが微笑ましい。笑顔になりそうなのを、堪えるのが精一杯だった。笑ってからかってやりたいところだが、今はそんなことの出来る話のタイミングではないのだから仕方ない。







「……わかったわ」

アルトが分かりやすく肩をすくめて見せた。呆れのこもった声色は、しかし何処か安堵や歓喜といった感情も抱いているように感じさせる。

私もほっと胸を撫で下ろす思いでいた。結局、最終判断を下すのは彼女であったしこっそり連れ出そうものなら誰かにチクられたって文句は言えない。彼女がそうやって知った時、私は無事ではすまないことだろう。


「結生」

ハッとした顔で、やり取りを見ていた視線をアルトの表情を伺うように動かすララフェルの少女。
不安で揺れる彼女の視線に、応えるかのようにアルトは笑った。
微かに口の線の先が上がるだけ、それでも、慈しむ目は柔らかい。

「彼女の目の届く内で、やってみる?」
「……!う、うん」








「やるからには、やめたいって言葉にしたらやめてもらうわ。結生もそうだけれど、ウェントあんたも」
「うん、大丈夫」
「分かっている」


厳しいと言われれば、そうやもしれぬ。だが、それが私と少女を心配してのことだとは重々承知してもいる。
視線を後ろにやるように此方に首を向ける、アルトの催促に私はそっと少女の目の前に跪く。ナナモ様の御前に跪くラウバーンをこの目で見てから、少しこの構図を羨ましく思っていたものなのだが……まさか本当に為す機会がくるとはね。
跪いてようやっと視線があう身長差、私は顔だけを上げて名を名乗る。

「ウェントブリダだ、お嬢さんの名前を聞いていいかい?」
「逢梨 結生……その、宜しくね?」














「結生は何かあったらリンクパールで尋ねなさい。勿論、ウェントに聞いてもいいけれども。ヒーラーのことは熟知しているつもりだから」

結生が頷くのを見て、アルトは満足そうに目を細めた。それから、此方を振り返りアーマリーチェストから何やら取り出し、差し出した。


「はい、これ使いなさい」
「いや、これは幻具ではないか。それを必要としているのは彼女の方ではないか?」

差し出されたのは、幻術士用の長杖だ。それも、本当に駆け出し間もない人間の為のもののようである。
確かに結生ではこの杖を使う時期は直ぐに来て直ぐ終わるのかもしれないが……


「ナイトになるのでしょう?」
「ああ、自由騎士というものがあってな。それになり秘伝を教われるよう、掛け合ってみようと思う」

恐らく彼女も何時までも幻術士でいることはないだろう。何時かはソウルクリスタルを手にする日が来るような、そんな気がする。そんなこと限られた人間のみに訪れるものであるのだが。


「……はぁ」

アルトが明らかに呆れるのが見えた。リンクパールに触れ、リンクシェルのひとつに声を掛けている。私も所属しているリンクシェルである為、彼女がそのリンクシェルの気さくなナイトの青年に私への教授を頼むような内容は聞こえてきた。
通信を終えて、アルトは突っ込んだ。


「あんたに幻術の心得がないからよ……ナイトになるのには幻術の知識も必要なのよ、知らなかったのね……」

あの喧騒の後の、更にあの宣誓の後だ。余りの恥ずかしさに私が崩れ落ちたのは言うまでもない。


「直ぐに、とはならないでしょうけど合間合間に学んでおきなさいな……」
「ああ……」


逆に言えば、そんな恥ずかしい失態を晒すほど、あの言葉は土壇場の閃きであり、其れまで考えもしなかった事柄であった。

たった一人の少女の為。
そんなナイトが、ちょっとだけウルダハの歴史に名を残すのは。もうちょっと、先の話。
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