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作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。  
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ラベンダーベッドの、ReCの仮宿。新しく設置された星飾りのシャンデリアの明かりの下、艶やかな木の色を見せる円形のテーブルの上で、思い思いに座り込む四人。

近くに配置されたキャノピーベッドが座り心地が良いからと、その上に座るアルティコレートとそのパートナーモアナ。
本人は罠にかかった、との事でハイランダーに実質縮んだ姿が落ち着かないのか片膝立ちのままのウェントブリダ。
テーブルの上のチョコレートケーキを取り合う自らのエギと、小さなミドガルズオルムの幻体を宥める女の子座りのアンフェルツィート。


四人は今回、パーティを組んで『光の戦士』としての仕事をこなしていた。旅の末、ひとつの結末を迎え、成果は大きかったものの、空気は重い。


「そういえば、そもそもウェントちゃんも“ブリダ”って付いてるよね?」
「ああ、ゼーウォルフには意味のある名を付ける習慣がある。女児に付ける単語のひとつだ」
「花嫁、だったかしら」
「ウェントブリダは、風の花嫁。ムーンブリダは……」


如何に英雄と祭り上げられようが、四人とも年端のいかない女の子に過ぎない。特に、暁に同族の女が入ってきたとはしゃいでいたルガディン二人にとってはダメージのでかいものだった。


「花嫁姿、見たかったものだがね……」
「まだ言うかい、お前。気持ちは分かるが」
「あれをバカップルと言わずしてどうするというのだね、それが……」


それが。
恐らく、彼女は受け止める為に敢えて言葉にしようとしたのだろう、だがそれが、続かない。



















『光の戦士』
超える力を持ち、更に光の加護を持つエオルゼアの英雄のことだ。
だが、実際は一人を指すのでもない。
ひとつの存在が引き合わせた、アルト、ウェント、アンフェルの三名は、これまでも光の戦士としての数々の行いを共にこなしてきた。
時にばらばらに動く事もあるし、誰かを誰かが止めるといった事もないわけではない。しかし、大きく事が動く時は、必ず3人揃って壁に挑んできた。

其処に、いまはもうひとり。
新しい仲間がいる。

「ウェント、アンフェル。既に知ってはいると思うけれども……改めて、紹介するわ」


エターナルバンド、と呼ばれる誓約の儀式が先日復刻された。永久の誓いを指輪に刻むものであるが、その誓いのかたちは人によって違う。
ReCのマスターも担うアンフェルは、ReCの新たなメンバーの一人に誓いの腕輪を預け彼女とReCを守ることを誓うつもりでいる。
そして、学者のエレゼンの彼女は……女の顔で、私達によく知った顔を引き合わせた

「わたくしの旦那様、モアナちゃんよ」


紹介されたのは、ゼーウォルフの女性であった。燃えるような紅い髪が、緑がかった肌色に映える。何らおかしいことはない。元々、彼女、アルティコレートは女好きであったのだ。しかし、本当にエターナルバンド迄結び、一生の供と呼ぶようになるのは少々意外なものであったが。

そんな事もあり、私達のパーティに、モンクであるモアナが混ざるようになり。
一連の依頼は、四人での最初の冒険であった。










「ミドガルズオルム……」
「伝承には聞いていたからね……戦えるか?興味があるんだ」
「超える力でみたあれだよね?」
「ああ、そうだな。戦艦をもってして相打たざるを得なかった相手だ、正面から戦うような事が無ければ良いのだが」

女騎士達の依頼に応じて、私達は黙約の塔と呼ばれる場に立っている。
基本的に、ドラゴン族は人間を敵視している。其れは、幻龍ミドガルズオルムでも変わらないはずだ。しかし、彼の龍の最後は、彼ら一族が争っている筈のエオルゼアの民の敵……帝国人の機械船、アグリアスとの相討ちであった。
その相討ちが、帝国の侵略妨害にかなりの功績を出したのは……恐らく間違いないだろう。
塔を上りながら、私は、彼と直接滅ぼしあうような事はないのではないかと、理由のない確信を抱き始めていた。



私がナイトとして先陣をきる。敵の殆どは意外にも怪鳥と帝国兵ばかりであった。私に敵視を向けた敵を、モンクのモアナが的確に一匹、或いは一人ずつ沈めていく。敵が複数いても、その体力を召喚師であるアンフェルのもたらす毒が蝕む。
勿論、無傷ですむという訳ではない。だが、与えられる傷は学者のアルトとその妖精の癒しによって塞がれていた。
燃える青燐タンクに髪の毛の先を燃やされアルトが半泣きになるのを聞きながら怪鳥の長を倒し、その次では火の海に惑いながらも帝国の浮遊機械を倒し……

「塔というよりは、これ……竜の体の上を歩いているかのようね」
「柱のような物体に、龍が巻きついているといった感じの方が近いの」

それもそうだろう、恐らくこの塔はアグリアスの一部とそれに巻きつくミドガルズオルムで構成されている。
死してもなお、アグリアスを再起させるつもりはない……ということか。
その執念に内心恐れ入りながらも、その塔を上りきった。

円形の空間に、形崩れのしていない、ミドガルズオルムの頭部が覗く。
腐敗のない龍の躯が二つあることに私達は目を合わせ、頷き、私は武器を抜く……

「ただでは済まないようだよ、気をつけな」

一歩踏み出すそのところに――声が響いた。
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(幾つに分割するか未定ですが、メリルちゃんメインの書き直しです)




ここ暫く、ReCの在り方は変わりつつある。新しく冒険者になることを選択した、3人のミコッテを加えて、私達はかつて踏破した地に彼女らを加えて出掛ける事も多くなった。


三つの尻尾と新しい三者三様の声を五感に収めながら、仮宿のソファにもたれ掛かる、私。増えたのは彼女達だけ、という訳でもない。

私の隣、ソファの片隅に、背を預け縮こまっているエレゼンの女性の姿。居心地悪い、というよりは居たたまれなさそうな彼女の、室内でも未だ気にするのか被ったままのカウルのフードをそっと引っ張った。

ぱさりと落ちるフードに隠されていたピンクブロンドの髪、驚いて振り返るグレーの瞳。

「此処で素性を隠す必要は無いんだよ?」

言葉は返ってこない。未だ治療中の彼女は、申し訳なさそうに目を伏せて首を横に振った。
私はそんな彼女を抱きしめる。


今、彼女は未だ失声症を抱えている。メリル・ロアユとして名を知られている彼女が、失ったものは名前だけではなく、かつて私も苦しんだ場所に、彼女もまた立っている。


私がかつて、別の名で認識されぬ事を苦しんでいたように。彼女もまた――

彼女、エリヌ・ロアユもまた、自分の名が持つ立場にあれぬ事に苦しんでいる。
















この世界には、この世界の、ちゃんとエリヌ・ロアユとして認識されているエレゼンの女性がいる。
では、このメリルちゃんは、というと。"死んだはず"の異世界のエリヌ・ロアユである可能性が高いのではないかと『カミサマ』は言う。
きっと、かつて『猫の私』がいたのもまた、異世界と呼べる世界であっただろうし、あまりにも非現実的ではあるもののその想定を否定する事は出来なかった。


「……本当に大丈夫なのかな」


私が彼女を見付けたのは、アルトちゃんと行った写本師捕縛作戦の帰りだった。アルトちゃんは写本師の護衛に同行し、報告はアルトちゃんのリテイナーのミスティカというミコッテさんがしてくれる事になった為、北ザナラーンの緩衝地を散歩していた。
その最中、強い血の匂いを感じた気がして……駆け寄ったダラガブの爪痕の影に、彼女は倒れていた。生と死の境を、まさに渡らんといったレベルの満身創痍。血濡れの彼女。発見がもう少し遅れていたら、発見者がヒーラーでなかったら、彼女は命を失っていたかもしれない。


よりによって、写本師騒ぎの真っ只中。私は彼女が人の目に晒される事を恐れた。リテイナーであるレイラ、マイラ、そして最近私に付き従ってくれるようになった鬼哭隊のル・ハイノ。彼女達の協力を得て、私はこの瀕死のエレゼンをラベンダーベッドの別宅へと連れ帰ったのだ。

この別宅は、後に正式にReCの仮宿になるのだけれども、それはもうちょっとだけ先の話。





懸命な治療の甲斐あって、彼女は峠を越し、命の危機は免れる事が出来た。未だ目を覚ますことのない、彼女を見て……わたしの御付きである鬼哭隊の衛士、ル・ハイノは懸念を呟く。

「しかし、余りにも……余りにも似すぎている。影武者等であれば一大事、他人の空似だとしても今存在を他人に知られようものなら」
「分かってるよハイノ」


他人の空似はまずないだろう、そう思わされる理由があったからこそ、とも言えた。彼女が纏っていた黒を基調としたハーネスは、あの写本師も好んで着ていたものだ。しかも、それは不滅隊の公式装束のひとつ、ウルダハンエリート。

「彼女が何者だとしても……折角助けた命だもの、護ってあげたい。その為には、この子の事は……」



隠して、あげなきゃ。
私はハイノと頷いた。
ドマの国にあると噂される、スティッキーライスより太く肉厚で豊かだと言われる米。カミサマはそれを知るようで、事細かにその魅力を語ってくれたものだが、生憎と手持ちはない。

代わりに、彼女の提案で今回は麦飯になった。パンよりも、マリネや煮物の味の方を楽しめるだろうとの考えではあるけれども……カミサマとの、二人がかりでの麦飯研究の成果を表に出すのは、此れが初めてでもあった。





「今回は公的なものではありませんし、わたくしとしても冒険しているものが幾つか御座いますわ。皆様のお口にあうといいのですが」

食卓に並ぶのは、ゲゲルジュやディルストヴェイツ、わたくしを知る物好きのメイド達。とはいえ、その人数は高位な者にどうしても数が限られ、その内の一人、演奏家のエレゼンの女性と、舞踊指導者のルガディンの女性が満足そうに微笑み返していた。

サシャの方はというと、柄にもなく緊張しているのか頬先の角張った微笑みに、尻尾が絶え間無く揺れている。ゲゲルジュが可愛いのう、と言うのには、やりませんからねと冗談っぽく返してやった。

「御主の独占欲は他人の比ではないからのう、流石のわしもかっさらおうとはせんよ!」
「ふふふ、貴方は本当に良き理解者で助かりますよ」

サシャの隣の席に腰かけて、わたくし達は魔法の呪文を唱えるのです。

「いただきます」


ってね♪













冒険の山であったディナータイムも問題なく事が済み、わたくし達は宛がわれたテントへとひきあげる。相変わらず、真ん中に大きなダブルサイズのベッドが存在感を主張するシンプルな貸出し用寝室へと引き下がる。ひとつの布団にくるまって、帰りの船の出る朝まで一晩を過ごす。


「サシャ」
「んー?」


自分ひとりのベッドの中より、暖かい温もり。少し丸まって寝ているもうひとりの姿に、愛しさを覚えながら、名前を呼ぶ。

「手、出して貰えるかしら」
「こう?かな?」

布団の中から出てきた白く綺麗な彼女の手首に、わたくしはそっと紐を結んだ。わたくしの髪色のようにしなやかな金糸と、サシャの髪色のように澄みきった銀糸の絡み合った紐の輪。

「本当は足につけるものらしいんだけど、擦りきれて知らぬ間に無くしてるのは何だか寂しい気がして」
「おお……?」


結んだのは、ミサンガの紐だった。金糸と銀糸でみつあみにされた美しい糸の束。


「二人の髪をモチーフに、って行きの船乗りさんがくださったのよ」


形あるものは、これっきりであるけれども。どうか良ければこれから先、サシャの心の中、思い出として今日とわたくしの記憶がかたちを残したら嬉しいな、って。


「サシャ、今日は有難う」

布団の中のサシャを強くだき寄せて。いまは二人とも横になっているから、二人の肩が触れ合う。海辺の夜は肌寒い、けれど、この空間は暖かい。

「アルティ?」
「ごめん、この方が暖かそうだったんだもん」


誰かの下に下るより……
わたくしはこうして気儘に好きなものを愛していたいのだろう。

そっと目を閉じる。
わたくしの謝罪に、くすりと笑ったサシャが、前髪を撫でる感覚が強く意識させられた。このまま抱いたまま眠ってしまおうか、そんなことを考えるわたくしの額に触れる柔らかな熱量は。

驚いて目を開け、視線で問うも、言葉の代わりに満面の笑みではぐらかされた。
その代わり、腕を背に回されてより密着するとまるで寄り掛かるようなかたちで目を閉じた。


嗚呼、暖かい。
こうやって抱き合って眠る贅沢を、一身に感じながら……優しい微睡みに迎えられていた。













帰りは客船に乗っての帰路だった。わざわざ個室まで用意していただいて、寒さが平気であった分、気が付いたら朝の睡魔に負けて転た寝してしまっていた。

サシャはどんな表情でそんなわたくしを見ていたのだろう。




下甲板でサシャと別れて。
暫し感謝のハグをして。名残惜しさを抱えながらも、早朝の商店街をエーテライト・プラザへ駆ける。プラザ傍の螺旋状の坂を上れば、わたくしの第二のホームだ。


「おう、帰ったかアルティコレート!」
「ただいま、リングサス」


扉を開けると、店の監督をしていた店長が迎えの挨拶をしてくれた。満面の笑みで返事を返す、わたくし。


「助言有難うね、どうだった?」
「ああ、諦めて帰っていったぞ。其れなりには食い下がられたが、『あいつが会いたがらなかったんだからそういうこった』、と追い払ったさ」

店長の返しにわたくしは満足そうに頷いた。この店長のお陰で、これからもわたくしはわたくしの心のままにスキレットを振るうことができるだろう。


「バカンスは楽しかったか?」
「勿論!収穫もありましたしね」

珍しく履いたサンダルが、露出させる足首に。
金糸と銀糸の織り込まれたミサンガが控え目に光を跳ね返して煌めいていた。
晴れ渡る快晴の空、日の光を跳ね返して銀色に輝く波、深く魅入られるような青い海。

そしてその海に浮かぶ巨大漁船。


「どう?此処まで海の上へ歩み寄る機会はそうないと思うの」

巨大漁船の甲板の船尾は、レストランが併設されていた。昼飯はあのフライングシャークのディルストヴェイツの作らしい。
船に乗る前にも挨拶はしにいったのだけれども、どうも明け方ゲゲルジュに御挨拶にいった後、彼から私の来訪を知らされていたらしく私の為に腕を振るいたいと言われたのだ。

「うん、そうね。こんな綺麗な青が広がっていたんだあ……」


感嘆の溜め息をサシャがつく。船尾の端、一番海が近く見える特等席が指定席として与えられていた。一度船が揺らぎもすれば危険な場所でもあるのだが、視線を少し外せば邪魔にならない場所に船員か警備員が控えているのが分かる。


「そうよ、この青の中に魚達は生きているの。けれども、この青の美しさを楽しめる生き物は多くないわ」
「え、どうして?」

私達はつい、自分の知る五感を他の動物にも当てはめがちだけれども。実際はそうではないらしい事を、聞いた事がある。


「海を青と認識出来る……それって全ての生き物の出来る事では無いそうよ」

私達は、豊かだと思う。
食物の辛味や苦味の多くは、食われない為の動植物自身の工夫だ。それすらも、美味しさとして調理出来る逞しさよ。

対面する絵描きである彼女は、表情に分かるほど驚いて、それから、少し嬉しそうに笑った。

それなら尚更、この素晴らしさをより伝えられる者でありたい、と。





「ところで、どうして飛び出して来たの?」

穏やかな海のように、ゆったりとした自由時間。手の込んだ料理に二人舌鼓をうちながら、話は弾む。


「縛られそうな気がしたのよ。専属って私好きじゃない」


好きな時に好きな人の為にスキレットを振るえないじゃない。そう口を尖らせて愚痴って見せると、サシャが小さく噴き出すように笑いだした。

「ちょっ、アルトちゃんの拗ね顔可愛いっ」
「だ、だってー!独占はしたいけど独占されたくないんだものっ」

慌てて弁明を試みるが、必死さがツボにハマってしまったか暫し可愛いコールは止まないのだった。

……満更じゃなかったけど。
悔しかったので、それは言葉にしない事にした。








日は頂点を下り、船も港へ戻る方向に舵を取り始めていた。席を立ち船尾に寄り、より近くに海を見るサシャの姿。

青く透き通った海に、時折黒い魚の影が現れては気ままに去っていく。風の香り、海の輝き、五感を通じて感じる水の世界の素晴らしきこと。ただ日が傾き始め、冷たさと塩気を孕んだ風に身を震わす背中を、そっと抱き締める。

すっぽりと覆われてしまったその身がいとおしい。ただ尻尾だけが自由気儘に、まるで相互に絡み合うかのようにわたくしの背中に回される。

恐怖は抱かない。ただ、もう少しだけ近くにありたくて。嬉しそうに見上げてきた彼女にかがみ込み、気付けばそっと口付けていた。












「あんたほんと尻軽とか言われても知らないわよ!?」
「ミスティカ、決してわたくしはとって食おうとかそんなつもりはないのですから」

夕暮れ、本来はゲゲルジュの使用人達が働く厨房の一角に、わたくしとわたくしのリテイナーがいた。
彼女はミスティカという茶髪のミコッテで、食材をわたくしに代わって管理してくれている大事なパートナーだ。

「ほんっとプレイガールなんだから、行き遅れるわよ」
「妥協なんてしないから良いのよーだ」

彼女に持ってきて貰ったワイルドオニオンやオリーブオイルを使って、作るのはサーモンのマリネだ。本当はスモークしたものを使うのだけれど、このコスタでは身のしまった新鮮なサーモンが取れるから、そっちにすることにした。

香り付けのバジル、甘酸っぱさを足すハニーレモン。レモンのメインはレモン汁の方だけれど、折角なので身の薄いスライスも盛り付ける事にした。


でも、メインディッシュはボイルドブリーム。桜色の魚、ビアナックブリームを使ったまろやかな煮込み料理だ。カミサマには、「そんな鯛を茹でちゃうの!?」と驚かれた事があるけれども、どうやらカミサマには、これに良く似た魚で鯛という魚がおり、それがもう蒸すように焼いて塩を振るだけで十分に旨いのだとか。

この魚、冒険者の間でもあまり食されないけれども。わたくしもかなり美味しい部類だと思っている。

今回のスープはそんな魚の淡白ながら濃厚な旨味を損なわない、あっさり目のミッドランドキャベツのスープ。チキンストックをベースに、フィンガーシュリンプの香ばしさと塩胡椒のアクセントが広がるだろう。




ゲゲルジュには勿論、サシャにも楽しんでいただけるとよいのだけれども。
コスタ・デル・ソル。
東ラノシア、ブラッドショアの開拓地であったこの地は、買い取ったゲゲルジュの手によってリゾート地に生まれ変わった土地なの。
ゲゲルジュ氏とは恩もあり、貸し借りもあり、わたくしにとっては良き理解者。

それには彼の地で働く高名な調理人の存在や、彼自身がわたくしの抱える性問題に理解があるなど、理由は多方面に渡る。もっとも、わたくしは好んで性癖を明かしたのではなく……クラフターの納品物を届けた際、踊り子に性的に食われそうになった、というか……実際食われたというか……


こほん、何はともあれ、話のつけやすい権力者であった事は紛れもない事実でして。


「デートって、急ね?」
「急でなくてはならなかった、かしらね。どちらかと申しますと」

満天の星空。
離れていく、リムサのエーテライト。
密やかにラノシアの海を渡るこの小舟には、あまり設備がないけれども……だからこそ星が美しい。

「でも、ロマンチックだと思いません?愛の逃避行……なんて舞台も」


船頭が渡してきたひとつの毛布に、二人でくるまって。なんだか恋人のようだわ。直ぐそこにサシャの顔があって、特別リップの塗られていない、自然な赤みの唇があって、其処に重ねてみたい……なんて邪を、わたくしはそっと脇に除けた。


「ふふっ、言われるとそうね♪アルティはロマンチストだなー」

サシャはそう笑ってわたくしに抱き付いてきて、邪を払った矢先の筈だったわたくしは顔を赤らめたまま暫し固まるしか出来ないのでした。













コスタ・デル・ソルには夜が終わる頃の到着でした。海が綺麗に見えるテントの一室をお借りして、昼頃まではのんびりと休息。設備の事もあるし、何より意識しっぱなしだった事もあって、夜逃げの舟では眠るなんて出来なかったもの!

先にサシャには休んで貰って、わたくしはこのコスタの主のもとへ。







「昼頃に出る大型漁船はあるかしら」
「それなら――号ぢゃろうな」


挨拶、というのもあるけれどもメインは今後の予定伺いです。テントの一室、子猫ちゃんに囲まれている彼の隣で問うのは船のスケジュール。

最近はじまったという、大型漁船に乗っての漁体験。主に冒険者の漁師の為、とも言われているけれどもコスタの海の良さに参加者は何も漁師に限らない。


「それなら、わたくしそちらに乗りますので、追手がかかっていたら言ってくださいまし。"わたくしのデートを邪魔しないでくださりません?"と」


わたくしがビスマルクにいないと分かれば、探せそうな範囲は当たってくるでしょう、その真っ最中であろう日中に、連れ出される事のない海の上へと逃げるのです。
拒絶の言葉をこの地の主に託し、わたくしは自然と笑みがこぼれます。


「お主も全く好きよのう」
「なあに、好き者はお互い様ではありませんか」

顔を見合わせてしまえば、それはこぼれる、程度にすみませんでした。

「ふふっ」
「ほっほっほっ」


立場も地位も大違い。
ですが、何となくこの方の傍らは気が楽になるのでした。繕う事もないからかもしれません。
わたくしも彼も変わり者です。普段は要らぬ謗りを避けて、発露を控えているだけのこと。

「まあ、漁果がありましたらディナーくらいは腕を振るいますから、それでお見逃しくださいな♪」
「ほう。折角の機会食いっぱぐれる訳にはいかんのう」


謝礼を約し、また顔を見合わせて笑い、そしてわたくしは一礼の後わたくしとサシャに宛がわれたテントへと引き下がりました。未だ日も上がらぬ夜明け前。

そっと、サシャの休む布団の中へ潜り込むとミコッテ特有の僅かな獣臭が、今はわたくしのこころを満たすのでした。

今日はわたくしはサシャのもので、サシャはわたくしのものなのだ、なんて。
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