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作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。  
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白い獣が一匹、北部森林の境樹の傍らでゆっくりと草を食んでいた。
エオルゼアには珍しい、馬の一種であるように見えるその獣の額には、美しい渦を巻いた一本の角が備わっていた。

その生き物はユニコーンであった。



草を食む、ユニコーンの傍らに、草笛を吹く小さな白い獣がいた。
丸く柔らかな白い身体と、短い四肢。特筆すべきは、その頭の赤いアンテナのようなぼんぼんだ。
その生き物は万人に見えるものではない。その生き物はモーグリと呼ばれる種であった。


二匹が木陰の緩やかな時間を享受する昼下がり、二匹には聞き慣れたオカリナの旋律が響く。
モーグリがふわり、小さな羽根を揺らしながら浮かび上がった。二度、三度、ぼんぼんを黄色に点滅させると、ユニコーンは小さく頷く。
モーグリは息を吸い込む素振りを見せる。不思議な浮遊音と共に、モーグリはふわりと宙へ浮き、そのまま南へと飛び去っていった。


グリダニア、旧市街に向けて。










オカリナから口を離す、一人のミコッテ。木製のハーフマスクを付けている彼女は、鬼哭隊の一員であることを示している。
傷まみれの槍を背負い、黄蛇門に背中を預ける、小柄な少女であるようだ。

何かを待つように、少女は腕組みをする。やがて、現れたのは一匹のモーグリ。


「首尾は」

ミコッテはただそれだけモーグリに尋ねた。心得たように、頷いて雰囲気付けのように小さな声で囁き始めた。









「……そうか」

信じがたい。
私が最初に抱いた感想は、実にそれであった。
このグリダニアの都市は、精霊の信託によって国是が決定され、精霊評議会、更に幻術士ギルドを介してその決定が伝達される。
何処から来たかも分からない、一人の根暗なシェーダーが、その幻術士ギルドから急に名を上げ、秘術であった白魔法を会得したのはいつのことであっただろう。


精霊に愛されていたのか。根暗娘は角尊でないにも関わらず、ヒューランでないにも関わらず、幻術を、白魔法をマスターしていった。




今も彼女は、精霊評議会の末席を預かる、ひとりの神官として役目を果たしている。
褐色肌に、灰銀の髪を靡かせて、彼女は異人の女神のようだ。かつて根暗で密やかに慎ましやかに生きていた姿は影を潜め、健気にいとおしそうに他者を愛する献身さもまた、彼女の評判を上げている。
根暗であった彼女を知らぬ者も多い。彼女は今の彼女になってから、表舞台に姿を見せるようにもなったのだ。


だが、そんな人も姿も良い彼女に……ひとつの噂が流れていた。
彼女は別人だ、という。
結論から言えば……それが正しかったのだ。
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服選びは難航していた。
別に、実はエレゼンサイズを探せばよかっただけのことであるのに、今の自分に前の感性で選んできた服が似合わなくなったのではないかという考えが先行して、わたしはそうしなかった。
しかし、幻術士として忠実であり、私的な時間を持たなかったわたしには、ではどのような服が良いのか、全く検討が付かなかったのだ。
今のわたしに相応しいものとなると、尚更であった。


「アンフェルさん」


そんなわたしに下方からかかる声。柔らかい、明るさを残した低音はララフェルのもの。視線を下げると、淡い紫の衣を抱いた彼と目があった。


「……ん、道化さん?どうしたの?」
「お悩みのようだったからね、これはあくまで僕のアイデアだけど」


あくまで、と言ったのはわたしの主体性を大事にしようと思ってのことかしら。背伸びをするように衣を差し出す彼から、屈んで衣を受け取った。改めて、それを拡げてみる。


「わ、ぁ……!」
「お?これは中々イケるんじゃない?一回着てみる、アンフェル姉?」

淡紫の……ラベンダーのような布地は、ベルベティーンなのだろうか、薄く艶やかで。腋と肩は大きく開かれ、肩と首には金の金属の飾り留め具が。それには更にわたしの瞳のような深い紅の宝玉の煌めきが嵌まっていた。

これを、アラビアンといっただろうか。桃色のロングスカートは、上の服の露出の強さを逆さにするかのように足首までしっかり覆われていて釣り鐘のような花を想像させるような優雅さが其処にあるような気がした。

褐色の、主張の強い肌の機嫌を柔らかなパステルは損ねる事がない。サシャに誘われるまま試着室で着替えながら、自分で自分に見とれていた。


「お、かっわいいじゃなーい、ねえアンフェル姉、髪を伸ばしたらもっと優雅なんじゃない?」


優雅さ。
其処にいたのは、少女ではない。
ひとりの女、そう感じた。



















新しい装いで街に繰り出す。戦闘用のヴァンヤ一式は、綺麗に店の人がたたんでくれて今はアルフの腕の中。靴もまた木靴ではなく、爪先しか隠さないドレスシューズだ。店の人がサービスに譲ってくれた薄手の黒いタイツの生地の靴下のお陰で、擦れて痛むこともないみたい。
服の明るさに釣られたように、なんだか心も暖かい。通りの店に寄っては、サシャに耳飾りを買ってもらい、ランに説明を貰いながら、仄かな香りのコロンを買ってみたり。道を進めば買い物が増え、次第にアルフの腕の中には小さな塔が出来るようになっていった。

商店街を歩き回って、エーテライト・プラザに戻る。冒険者で賑わうこの広間の奥のゆったりとした坂を五人で上る。
先は一転して豊かなる者達で溢れている。満席のように見えるレストラン『ビスマルク』に、ぽっかりあいたひとつのテーブル。
予約席、と書かれた小さな立て札だけが其処にある。
奥の厨房から顔を出した一人のコックに、周囲の客がざわめきたつのが聞こえてきた。彼女は紺のアーティファクトを着こなし、軽く靴の音を鳴らして空席に寄る。予約席の札を取り下げると、彼女はわたし達に手を振った。

金髪のエレゼンのコック。それが、アルティコレートであると気付くと、彼女は柔らかく微笑んだ。
黒渦団に所属し、リングサスのお墨付きを貰っていると専らの噂の彼女は、このリムサ・ロミンサの主メルウィブも指名する有名な調理師でもあったのだ。

誘われてわたし達は席に座る。
この姿になり、この世界に至り、知っているけど知らないこの地での、初めてのしっかりとした食事。いや、しっかりとした食事自体かなり久しいような気さえする。メニューはない。ただ、満面の笑顔のコックは、「それでは、少々お待ちくださいませ」とそう言って奥にひいていった。



暫くして強気そうな茶髪のミコッテがわたし達の元へ料理を運んできた。彼女はアルティコレートのリテイナーであるらしい。この業務はリテイナーとしてではないけどね?と一言断ってから礼をした。


焼きたてのナイトブレッド。
十字に切り込みの入れられた堅焼きのパン。硬く香ばしい外側と、柔らかくほんのり甘い内側の二面性。
リムサで有名な魚なのよ、と説明されて出されたダガースープは薄味である分淡白ながらも旨味がある、魚の味が生きていた。
メインディッシュはビーフシチュー。ダガースープと対照的に濃厚で主張の強い、水牛のシチュー。贅沢を強く感じさせる、とろける肉質はコスタの暴れ水牛を到底想像させる事はない。小皿に乗せられたスピナッチソテー。苦味をうまくバターで丸くしたほうれん草のソテーは、小さい頃あのアクの強さが苦手だった事をすっかり忘れさせていた。


こんなに贅沢を、豪華な食事をしてもいいのだろうか。そんなことすら頭に過った。実際の処は、過っても直ぐに忘れてしまうくらい、食卓においてもサシャ達は賑やかであった。


「改めてこうやってレストランで食べると、少し緊張しますね」
「そう?可愛いわねえ、ランは♪」
「ちょ、ちょっとサシャ、頬っぺたつつかないでくださいっ」

「その服も、食事も、気に入ってくれてよかったよ」
「こんなに人が一杯で、大変ではないのですか?」
「アルト姉さんは指名じゃないとビスマルクの厨房には入らないそうだし。それに、この食事会自体は前から計画されていたものだから大丈夫だよ」
「主賓なんだからつべこべ考えず食えって。深く考えない方が美味しいぜ?」


はにかむように、嬉しそうに笑う道化さんに少し申し訳なさを覚えそうになった処に、アルフさんの言葉が飛び込んできた。次の瞬間には目敏く見付けたサシャさんに小突かれていたけれども、わたしはその言葉にはっとする。

過去とか、価値とか、身の立ち位置とか。わたしは少し、囚われすぎているのだろうか。


「またあれなことになってますけれども、アンフェルさん。遠慮はいりませんし、もっと気楽に笑ってくださいね」
「ランさん……」
「そうよ、私達は今日から仲間だもの!」

言葉が背中を押すというのは、このような感覚であっただろうか。いつの間にか料理は粗方無くなっていて、コックは大皿に真っ赤なブラッドカーラントのタルトを持って現れた。


「アンフェル、どう?新しい仲間と、新しい世界は」
「……そうね。幸せよ、怖くなる位に」
リンクパールの向こうが、新しい仲間の来訪ににわかに騒がしくなるのが分かる。歓迎して頂いているのだと、分かる事が嬉しい。未だいまさっき入ったばかりであるというのに、此処に居場所があるのだと感じる。
あんまりにもリンクパールに耳を傾けているものだから、同席しているみんなには上の空のように見えたらしい。席を取り損ねて立ちっぱなしのアルフが心配そうにわたしの目の前で手を振ってはっとした。

「大丈夫?アンフェル姉」
「え?」
「あら、やっぱり聞いていなかったんですね。今、歓迎会の代わりに一緒にショッピングに出かけませんか。という話になっていたんです」
「今からパーティはちょっと難しいからね」


どうやらリンクパールで賑やかなやり取りをしながらも、此方は此方で話が盛り上がっていたみたい。戸惑うわたしを置いて話は進む。


「アンフェルは普段着を持ってないでしょう?ご好意に甘えたらどう」
「えっと、でも……わたし、お金も」
「ああ、そうだった。これは貴女のものよ、持っていきなさい」


かつて貧困に喘いでいたわたし、そんなわたしには信じられないずっしりとしたギルの音がわたしの目の前に置かれた革袋からする。

不審がってアルトを見上げる。少なくとも彼女はかつてのアンフェルを知っている。この大量のギルは何処から来ているの。そう、問いたい。


「さぁね」

視線の理由を察したのか、彼女は意地悪く笑った。これでは聞いても教えてくれないだろう、反応にわたしが肩を落としたのは仕方ないことだと思うの。


「ま、これで金銭的な問題はないし、何より生活用品がないのは辛いと思うわ。この機会に新しい仲間とゆっくりしてみたらどう?」

















「此処がリムサのマーケット……」

潮風の匂いが漂う、入り江の間に掛けられた石橋。屋根を伴うその石橋の両サイドに思い思いの店が軒をつらねている。

この地に多く暮らすと言われるルガディン族を始め、ミコッテやララフェル等の姿も多く見られる。印象に残るのは、草編みの装飾を並べ売るキキルン族の姿。


「あ、つまみ食いは程々にね、昼御飯はビスマルクだから」
「え、ビスマルク!?」
「を借りてのアルトさんの手料理披露ですけどね。サシャったら、アンフェル姉さんをからかいすぎないようにしてあげてくださいね?」
「だ、だって可愛いんだもの……」

いつの間にか、私を挟んで二人のミコッテ。猫耳を持つ彼女達に、見上げられている、というなんだかどきどきしちゃう違和感。
サシャはわたしが表情豊かで可愛いんだっていうけれど、絶対サシャも負けてないよ。


「やれやれだぜ」
「なにかいったの、もやしちゃん」
「……何でもねえ」


私以外の各々が思い思いの普段着を身に纏っていて、ローブわたしが居なければ冒険者だとは容易には想像が付かない。道化ちゃんと、もやしと呼ばれたアルフくんはお揃いのシャツを着ていて、もやしシャツというらしいけれど、なんでそんな名前なのかは教えてくれなかった。
アルフくんがもやしと呼ばれるのだし、アルフくんに関わる由来があるのかもしれない、なんて。


「兎に角、まずはアンフェルさんの服を買いにいこうか。僕らも選ぶから、ゆっくり考えよう」

頷く三人、差し伸べられる手と、絡まれる腕。結局服屋までずっとそんなのりのままだった。



「こういうのでいいかなぁ」

地味なタートルネックの服を手に取る。余り、ファッションには拘りがない。冒険者であった頃は専らローブで祈りを捧げていたし、その下は薄手のシャツやタイツであることも多かった。
なんとなく手に取ったその一枚を、ランちゃんがふとわたしの手から取る。

「でも、その服……多分……」


そのままわたしに当てると、明らかに丈が合わず、臍だしになってしまいそうな短さだった。それを見て、くすっと笑うランちゃんと何だかどきっとしてしまうわたしと。

「ああ、やっぱり。アンフェル姉さん、それミコッテサイズですよ。お姉さんは健康的な肌をしてますから、臍だしも似合いそうですが」


真っ赤になって固まるわたし。
姿見に短い丈のタートルネックを我が身に重ねて映した姿が、何だかとても妖麗で。余りにもかつてのイメージから離れていてとんでもなく恥ずかしくなってきて、わたしはそっとその服をもとあった場所へと戻していた。

とっくの昔に大人の年は越えていたのだけれども、大人っぽい自分の姿から、わたしは目を逸らそうとした。
それはミコッテらしからぬ、遠く離れたわたしの姿であったから。
『幻想の代償。』の続編となります。
登場キャラクターにはNPC、PCが含まれます。名前が出るPCに関しましてはそれぞれ御確認をとっております。
作中における設定は公式とは限りません。




私が別人のように変わっても、変わらぬリムサの都市。客室のひとつを出て、アルティコレートに連れられて階下へと降りる。宿屋の管理者に一礼して、冒険者ギルドに入っていく。

臆病な妹のわたしを引き回す快活な姉のよう。実際の年齢は逆で、わたしが少女の域を既に脱してしまっているというのも互いの知るところなのだけれども。今のアルティコレートはわたしには眩しくて、わたしより大きく見えたの。


「あっ、アルティ!」

こちらの方に向けられた声に、視線を向けた。昼間から人で賑やかな冒険者ギルド。お酒のにおいもするけれども、酒場でもあるのだから何時ものこと。そんなギルドのテーブルのひとつで、ミコッテが一人、手を振っている。


「待っていてくださいましたの?」
「だって、待ち遠しかったんだもの!アルティ、そろそろ目を覚ますかもって言ってたじゃない」


アルティコレートはわたしの手を引いてそのテーブルへと寄っていく。その席をよく見ると、声をかけてきたライムグリーンのミコッテ以外にも、石榴のような艶やかな紅い髪のミコッテと、その膝元の黒髪のララフェルが上と下でにこやかに話をしている。茶髪のヒューランが人数分の飲み物を席に置こうとしている処であるのが見えた。


「ぁ、アルティさん。そちらの方が?」
「ええ、そうよランちゃん。アンフェル、彼女達はcat's Whiskersって言うリンクシェルのメンバーよ」


リンクシェル。
身を強張らせたのを、感じたのだろうか。アルティコレートは振り返ってわたしの耳に囁いた。

「大丈夫よ、アンフェル。彼女達は貴女の日常を彩る事はあっても、貴女を束縛したりはしないわ」
「……」


ほら、自己紹介しましょうか。そうアルティコレートはわたしの背中を押してわたしの後方に寄り添った。嘗てのわたしでない名前を、もう一度自分の口で名乗ったら嘗ての名前は二度と戻って来ないような、そんな気がする。
けれども、その恐怖があってもなお、今は温もりにすがりたいとも感じていた。もう独りぼっちは嫌。震えるわたしの手を、こっそりアルティコレートが握ってくれた気がした。


「わたしは、アンフェルツィートと申します」

「私はサーシャ、サシャって呼んでくれると嬉しいな♪」
「ランと言います、アンフェルさん。宜しく御願いしますね」
「僕は道化と申します、これから宜しくお願いします」
「俺はアルフ。ま、そんなに緊張しないで気楽に接してくれれば良いぜ」


差し伸べられる三種三様の手。
一人一人と握手を交わし、アルフさんが引き下げてくれた席に座ると、皆も各々の席へとついての語り合いが始まった。






「さっきアルティが説明してくれたと思うけれど、私達はリンクシェルcat's Whiskersの一員なんだ。日常の交流を通じて、発見や創造をしていくリンクシェルだよ。私はその副リーダーをしているの」

考える、という能力の豊かさを人との関わりの中で見出だすサークル。だからこそ、人を束縛する理由はないし、強制力もなければ、立場や行動に規則があるわけではない。
彼女はそう言った。

「良ければ、アンフェル姉さんもどうかな?ずっと、独りだったってアルティから聞いたんだ。だからね、アンフェル姉さんにも色んな日常を体験して欲しいって思ってて」


友達がいる、豊かな日常を。
暖かいひだまりを。露に濡れても、肌を寄せあい寒さを耐えられる夜を。
好きなときに、他愛なくとも、語れる友を。



「色んな日常?」
「そう!」


日常。忘れかけていた冒険者の日々の傍ら、ウルダハの荷物置き場らしき片隅に集まって語らっていたっけ。みんなの名前は思い出せるのに、私自身の名前が思い出せないから、なんだか他人の記憶を見てるみたいに懐かしんでいた。

彼女達も、ウルダハの冒険者ギルドで飲食を楽しみながら、時に絵筆やペンを片手に語らっているのだと聞かされると、今の風景に想像の上のクイックサンドが重なって浮かぶ。


「……楽しそう」
「楽しいわよー!この私の御墨付きだもの!!」


嗚呼、とてもとてもその暖かさが恋しい。消えるか消えないか、蚊の鳴く声で呟いた。


「入りたい、です」

その言葉に返ってきたのは、サシャの満面の笑顔と……『リンクシェルcat's Whiskersに仮加入しました』というリンクパールからのアナウンス。
私はそっとガイダンスに従って、リンクシェルに正式加入を行った。


「ようこそ、cat's Whiskersへ!」
柔らかい光が、瞼の向こうから降り注いでくるのを感じて、わたしは目を覚ました。磯の香りが、鼻を擽る。ゆっくりと目を開けると、どうやらリムサの宿のようだ。
上半身を起こす。刺繍の入ったカミーズと、長い靴下が付属のパンタレットはわたしの愛用の下着だ。灰色に染められたそれらの合間から、褐色の肌が覗く。

身を起こした表紙に視界を遮った銀の髪を長い耳にかける。
頭が軽いな、とはおもったものの……その位置に耳があることに違和は抱かず。
ゆっくりとベッドから立ち上がり、慣れた手付きで軽くストレッチして……



「……え?」



視界を上げると、姿見があった。




あの海のような蒼が抜けたかのような、光を跳ね返す銀の短髪。
頭ひとつ分は高いと思われる、背。
かつての白い肌を幾ら焼いても届かないだろう、褐色の肌。
深緑のような緑を……燃やしたかのような深紅の瞳。
発育のよい、幼さのないプロポーションと胸。
尻尾がないのに、わたしはバランスを保って鏡の前に立っている。

お気に入り、と思い込んでいたカミーズとパンタレット。よく見ればあんな日々があったとは思えない、綺麗な新品。

旅の日記の横にある、見たこともない灰色の高貴そうなローブを、わたしの頭はヴァンヤヒーラーローブだと、それもわたしの戦装束だと認識していた。


「どういう……これは……」


思えばわたしに宿を取るようなお金もなかった筈ではないか。こんな健康な体つきもとうの昔に失っていた筈。
反射的に手をあてた胸の、そのふくよかさと張りに目眩がした。
これはわたしなのか。



扉を開ける音がした。
驚いてそちらを振り返ると、其処には妖精を連れた女性がいた。
金の長い髪、長い耳。妖精を連れた、学者。金の瞳に、ふちを彩る緑のメイク。
わたしが憧れて憧れて止まなかった、平行世界のエレゼンの冒険者。では、やはり此処は……



「貴女は……」
「会いたかったわ、アンフェル!」


女性はそういって、驚くわたしに飛び付いた。叫ばれた言葉を、わたしの頭が、わたしの名前だと認識したことに気が付く。違う、わたしはそんな名前ではなかった筈だ。そう思っても、他の名前は浮かばない。わたしの名前として思い出されるのは、ひとつの単語だけだった。


「既に知っているのかな。わたくしはアルティコレートと申しますわ、これから宜しくねっ!」
「あ、アンフェルツィート、です……」







「そうだわ、アンフェル!貴女に紹介したい人がたくさんいるのよ。取り敢えず、ローブを着てもらっていいかしら?」
「あ、うん。大丈夫……少し待っててくれるかな」


動けば、身体が覚えていることをひとつひとつ思い知らされる。わたしは望まれるままにヴァンヤローブを着込む。軽い音を鳴らす木靴迄はいて、幼く恋する者の影を追う猫の姿も、みすぼらしく貧困から噴水に身を浸していた人の姿も、もはや辿り着けそうにないくらい、遠く、浮かばぬ影。


「ど、どうかしら、わたし……」
「似合っているわ、アンフェル!さあ、行きましょう新しい冒険へ」









飲めば、思うがままの姿に、変わることの出来る幻想の代償に。
変化を強く強く望みすぎたひとりのミコッテは、その耳も尾も失いました。ミコッテであった、名前さえ……
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