作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
余り、リムサ・ロミンサの地にエレゼンの姿は馴染みがない。今は日中は冒険者の姿を散見するとはいえ、日が沈めば冒険者ギルドを除いてはその姿は稀となる。
そんな折、リムサ・ロミンサの入口と言ってもよいブルワークホールは厳重警戒が敷かれていた。客人の中身を思えば当然とも言える厳戒体制の中、金髪の調理師姿のエレゼンがアドミラルブリッジの奥へと姿を消していく。
それを咎める者は誰も居ない。彼女が誰で、何者であるかは黒渦の皆のよく知る処であり、そしてまた何故この場に彼女がいるのかも、容易に想像がつくからであった。
羨望からか、一人の黒渦の兵士であるミコッテが溜め息をつく。直後、彼女の耳は空を切る何かの音を捉えて視線を上げた。原因である、麻の小袋を反射的に捉えて拡げると、その中には堅焼きのクッキーが数枚納められていた。
慌てて見やれば、エレゼンの調理師がその姿をみてさぞ面白そうに笑っている。いつの間にか羨望の視線はミコッテの兵士の方に向いていた。
「好きになさい」
俄に兵士達が騒がしくなるが、調理師が二度兵士達を振り返る事はなかった。
黒渦団の一員であることを、意識する事は滅多にない。稀代の調理師であるかのように、持て囃されていることは知っている。この地がウルダハでなくて本当に良かったとわたくしは思う。でなければ、権力者の求めに応えるしかない日々が直ぐ其処に迫っていただろうし、先のように気紛れで贈るなんて事は許されない事だろう。
提督でなければ、わたくしを拘束することは敵わない。そんな見立てがわたくしの自由を守っているのは重々承知の上だ。
だからこそ、提督の求めには唯一必ず応えることにしている。
しかし、今日の子も驚く顔の可愛かったこと。出来る限り新参の兵士やこの悪戯を知らなさそうな相手を狙って菓子を投げ渡すのは、わたくしの密かな楽しみだ。提督に呼ばれる場の殆どではわたくしとて武装解除をしている都合、教われては無事に済まない。貴人として護衛される礼のつもりもまたある。
「……しかし、相手が相手では懇談会の気分ね」
今日料理を振る舞う相手を思い、苦笑い。付け慣れない眼鏡のズレを直してから、わたくしは腰のスキレットに触れた。
未だ、真新しいスキレット。アーティザンと呼ばれる、ある高名な職人の作である。間に合って良かったと、心底思う。
「最高のディナータイムを。今夜を忘れられない思い出にしてあげますわ」
そんな折、リムサ・ロミンサの入口と言ってもよいブルワークホールは厳重警戒が敷かれていた。客人の中身を思えば当然とも言える厳戒体制の中、金髪の調理師姿のエレゼンがアドミラルブリッジの奥へと姿を消していく。
それを咎める者は誰も居ない。彼女が誰で、何者であるかは黒渦の皆のよく知る処であり、そしてまた何故この場に彼女がいるのかも、容易に想像がつくからであった。
羨望からか、一人の黒渦の兵士であるミコッテが溜め息をつく。直後、彼女の耳は空を切る何かの音を捉えて視線を上げた。原因である、麻の小袋を反射的に捉えて拡げると、その中には堅焼きのクッキーが数枚納められていた。
慌てて見やれば、エレゼンの調理師がその姿をみてさぞ面白そうに笑っている。いつの間にか羨望の視線はミコッテの兵士の方に向いていた。
「好きになさい」
俄に兵士達が騒がしくなるが、調理師が二度兵士達を振り返る事はなかった。
黒渦団の一員であることを、意識する事は滅多にない。稀代の調理師であるかのように、持て囃されていることは知っている。この地がウルダハでなくて本当に良かったとわたくしは思う。でなければ、権力者の求めに応えるしかない日々が直ぐ其処に迫っていただろうし、先のように気紛れで贈るなんて事は許されない事だろう。
提督でなければ、わたくしを拘束することは敵わない。そんな見立てがわたくしの自由を守っているのは重々承知の上だ。
だからこそ、提督の求めには唯一必ず応えることにしている。
しかし、今日の子も驚く顔の可愛かったこと。出来る限り新参の兵士やこの悪戯を知らなさそうな相手を狙って菓子を投げ渡すのは、わたくしの密かな楽しみだ。提督に呼ばれる場の殆どではわたくしとて武装解除をしている都合、教われては無事に済まない。貴人として護衛される礼のつもりもまたある。
「……しかし、相手が相手では懇談会の気分ね」
今日料理を振る舞う相手を思い、苦笑い。付け慣れない眼鏡のズレを直してから、わたくしは腰のスキレットに触れた。
未だ、真新しいスキレット。アーティザンと呼ばれる、ある高名な職人の作である。間に合って良かったと、心底思う。
「最高のディナータイムを。今夜を忘れられない思い出にしてあげますわ」
PR
聖アダマ・ランダマ教会には、身寄りのない者達の墓が多い。死した冒険者が得るものが墓石だけとよく言われるのは、冒険者の出自や縁者が殆どの場合分からないまま終わることが多いからであるかもしれない。
今の私達であると、もしかしたら縁者を騙る者もあるやもしれないが……
「今度こそ、誰にも妨げられる事なく安らかに眠ってくれ」
レイヨが逃げるように去ってしまい、私達は動く力を失った一人の女性の遺体をそっと棺に収めてこの場に戻ってきた。私が彼女を墓石の下に用意された石棺に輸送用の木棺ごと横たえると、四人がかりで石棺の蓋を閉じた。
未だ、墓石は壊されたまま。
また相応しい石を探しておいてやろう。恐らく、私達による二度目の死も、痛く恐ろしいものであっただろうから、せめてその詫びに。
「おやすみなさい、リアヴィヌ」
四人の中で一番関係の深かったであろう、アルトが立て膝をつき、祈りを捧げた。神官にもみえる彼女の学者の装いは、ことこの場においては神聖なものに見えた。
「にしても、またヴォイドなんだ」
「力求める者の影にヴォイドあり、とも言えるのよユイ。彼らは何時も、弱い者の心の闇を狙ってる」
呆れるようなユイの呟きに、アルトは心底憎たらしいといった風に吐き捨てた。彼女がヴォイド嫌いなのは今に始まった事ではないし、タムタラのエッダに対する態度も相当辛辣なものだった。
それは、彼女の学者としての、そして何より黒魔としての、経験が生んだ嫌悪感であったのだろう。だが、ふと気付いた事がある。
彼女は移動の足にアーリマンを使っている。ヴォイドの妖異であると分かりながら、何故彼女はそのアーリマンを好んで乗るのか。アーリマンの方もヴォイドを嫌悪する彼女に、どうして、どうやってなついたのか。
解散の折、ユニコーンを呼ぶユイ、ボム達を呼ぶアンフェルに続き、何時ものアーリマンを呼び出した彼女に、それとなく問い掛けた。
よじ登る為に羽根に手をかけたまま振り返る彼女の他に、名を上げられた事に気付いたのであろう、アーリマンの大きな一つ目が此方を見た。
「あー、うん。それはね……」
アルトがアーリマンの背を撫でる。アーリマンが幸せそうに目を細めてそれを受け入れている。
「こいつは酔狂な、わたくしの命の恩人なのよ」
今の私達であると、もしかしたら縁者を騙る者もあるやもしれないが……
「今度こそ、誰にも妨げられる事なく安らかに眠ってくれ」
レイヨが逃げるように去ってしまい、私達は動く力を失った一人の女性の遺体をそっと棺に収めてこの場に戻ってきた。私が彼女を墓石の下に用意された石棺に輸送用の木棺ごと横たえると、四人がかりで石棺の蓋を閉じた。
未だ、墓石は壊されたまま。
また相応しい石を探しておいてやろう。恐らく、私達による二度目の死も、痛く恐ろしいものであっただろうから、せめてその詫びに。
「おやすみなさい、リアヴィヌ」
四人の中で一番関係の深かったであろう、アルトが立て膝をつき、祈りを捧げた。神官にもみえる彼女の学者の装いは、ことこの場においては神聖なものに見えた。
「にしても、またヴォイドなんだ」
「力求める者の影にヴォイドあり、とも言えるのよユイ。彼らは何時も、弱い者の心の闇を狙ってる」
呆れるようなユイの呟きに、アルトは心底憎たらしいといった風に吐き捨てた。彼女がヴォイド嫌いなのは今に始まった事ではないし、タムタラのエッダに対する態度も相当辛辣なものだった。
それは、彼女の学者としての、そして何より黒魔としての、経験が生んだ嫌悪感であったのだろう。だが、ふと気付いた事がある。
彼女は移動の足にアーリマンを使っている。ヴォイドの妖異であると分かりながら、何故彼女はそのアーリマンを好んで乗るのか。アーリマンの方もヴォイドを嫌悪する彼女に、どうして、どうやってなついたのか。
解散の折、ユニコーンを呼ぶユイ、ボム達を呼ぶアンフェルに続き、何時ものアーリマンを呼び出した彼女に、それとなく問い掛けた。
よじ登る為に羽根に手をかけたまま振り返る彼女の他に、名を上げられた事に気付いたのであろう、アーリマンの大きな一つ目が此方を見た。
「あー、うん。それはね……」
アルトがアーリマンの背を撫でる。アーリマンが幸せそうに目を細めてそれを受け入れている。
「こいつは酔狂な、わたくしの命の恩人なのよ」
*此処に出てくるあの子は『死に損ねたらどうする?』のあの子です。
未だ朝早く、その冷たさに微かな霧の広がるリムサ・ロミンサ。しかし市場の朝は早いもので、朝市の誘い声が響く。
冒険者が増えてからというものの、カウルを頭まですっぽりと着こんでいても然程不審がられないというのは、今は都合のよいことであった。
「潮の香り、っていい匂いね。あの頃は見向きもしてなかった」
「後悔してるの?」
「ええ、少し。気付かないままだったのよ?勿体無い事をしていたんだわ」
そんな朝のリムサ・ロミンサ。海に面したこぢんまりとしたカフェテリアで、わたくしはある人物と小さなスイーツタイムを楽しんでいた。
深くカウルを頭まですっぽり被っている、病的に青白い肌のエレゼンの女性。
――誰が思おうか、彼女が動く死者であることを。
シェーダーという種が存在する為、然程青白い肌は問題にはならなかった。蘇生者の腕が酷く良かったのか、肉体的な欠損や腐食は殆どなく、微かな異臭はカウルに織り込まれたハーブで防がれている。紫色の唇には、血色豊かな色の口紅を。
彼女の名はリアヴィヌ。
あれから、結局わたくし達は彼女を殺してやる事が出来なかった。レイヨの精神が相当に磨耗していたことを考え、彼には告げずにわたくし達はこっそり彼女を仮宿へ連れ帰った。
心と身体の主導権を奪わぬように、新たな魔力の契約をし、今の彼女はわたくしが維持している。そうしなくても生きていけないことはない。けれども、生命活動を止めている身体はそれが無ければ緩やかに腐敗していき、滅んでしまう。わたくし達は出来うる限り、彼女を人間に近いままで生かしてやりたいと思ったのだ。
ネクロマンシーは、当然純粋な黒魔の知恵ではない。其処には巴術の技術もあるし、忌むべきヴォイドがもたらした魔法も存在する。
此処にヴォイドが直接絡んで来なかったことを、幸運と思う他ない。突かれるような心の隙は幾らでもあったのだから。
「……アルト?どうしたの、食べないの?」
「え、あ、食べるに決まってるわっ!?」
どうやら、考え込むあまり手が止まっていたらしい。指摘されて慌ててパフェにスプーンを伸ばした。あまりこういう飾ったスイーツを食べないので、この時間は至福の時だ。
目の前の彼女もまた、自分の選んだパフェへとスプーンを伸ばす。消化する機能は生きているのか、なんて実はさっぱり考えていない。問題になるのなら、後でなんとかしようと投げ捨てた。
何より、彼女に彼女が死者であることを意識させるのが気まずかった。
「まるで普通の女の子ね、私達」
「普通の女の子じゃない」
「そうだったわね」
なんて、笑いながら。
リムサのマーケットに降りる。
立ち並ぶ店を二人で見て回る。彼女の手は柔らかなドレスグローブに覆われていて、脆い彼女の指を守っている。
「……あら、これ綺麗」
「お嬢ちゃん御目が高いね!それは霊銀を使ったある指輪のレプリカさ。ささやかながら魔除けの効果もある」
それは肉体的な怪我からに限らない。街の店で売られる程度のものであれば、彼女の身を銀や破邪から守ることも出来るようだった。
「……」
そっと、指輪を置くリアヴィヌが見えた。肉体的には守ることは出来ても、その心まで守ることは出来ないのかもしれない。
日が上りきる前にリムサを出る。
黒魔道士とカウルの女性、という異色のペアはやっぱりどうしたって目立つもの。私達だって、追及は怖い。
「今日は有難うね、楽しかったわ」
「そう、思って貰えてたなら嬉しいんだけど……」
彼女の幸せって、何だろう。
未だ朝早く、その冷たさに微かな霧の広がるリムサ・ロミンサ。しかし市場の朝は早いもので、朝市の誘い声が響く。
冒険者が増えてからというものの、カウルを頭まですっぽりと着こんでいても然程不審がられないというのは、今は都合のよいことであった。
「潮の香り、っていい匂いね。あの頃は見向きもしてなかった」
「後悔してるの?」
「ええ、少し。気付かないままだったのよ?勿体無い事をしていたんだわ」
そんな朝のリムサ・ロミンサ。海に面したこぢんまりとしたカフェテリアで、わたくしはある人物と小さなスイーツタイムを楽しんでいた。
深くカウルを頭まですっぽり被っている、病的に青白い肌のエレゼンの女性。
――誰が思おうか、彼女が動く死者であることを。
シェーダーという種が存在する為、然程青白い肌は問題にはならなかった。蘇生者の腕が酷く良かったのか、肉体的な欠損や腐食は殆どなく、微かな異臭はカウルに織り込まれたハーブで防がれている。紫色の唇には、血色豊かな色の口紅を。
彼女の名はリアヴィヌ。
あれから、結局わたくし達は彼女を殺してやる事が出来なかった。レイヨの精神が相当に磨耗していたことを考え、彼には告げずにわたくし達はこっそり彼女を仮宿へ連れ帰った。
心と身体の主導権を奪わぬように、新たな魔力の契約をし、今の彼女はわたくしが維持している。そうしなくても生きていけないことはない。けれども、生命活動を止めている身体はそれが無ければ緩やかに腐敗していき、滅んでしまう。わたくし達は出来うる限り、彼女を人間に近いままで生かしてやりたいと思ったのだ。
ネクロマンシーは、当然純粋な黒魔の知恵ではない。其処には巴術の技術もあるし、忌むべきヴォイドがもたらした魔法も存在する。
此処にヴォイドが直接絡んで来なかったことを、幸運と思う他ない。突かれるような心の隙は幾らでもあったのだから。
「……アルト?どうしたの、食べないの?」
「え、あ、食べるに決まってるわっ!?」
どうやら、考え込むあまり手が止まっていたらしい。指摘されて慌ててパフェにスプーンを伸ばした。あまりこういう飾ったスイーツを食べないので、この時間は至福の時だ。
目の前の彼女もまた、自分の選んだパフェへとスプーンを伸ばす。消化する機能は生きているのか、なんて実はさっぱり考えていない。問題になるのなら、後でなんとかしようと投げ捨てた。
何より、彼女に彼女が死者であることを意識させるのが気まずかった。
「まるで普通の女の子ね、私達」
「普通の女の子じゃない」
「そうだったわね」
なんて、笑いながら。
リムサのマーケットに降りる。
立ち並ぶ店を二人で見て回る。彼女の手は柔らかなドレスグローブに覆われていて、脆い彼女の指を守っている。
「……あら、これ綺麗」
「お嬢ちゃん御目が高いね!それは霊銀を使ったある指輪のレプリカさ。ささやかながら魔除けの効果もある」
それは肉体的な怪我からに限らない。街の店で売られる程度のものであれば、彼女の身を銀や破邪から守ることも出来るようだった。
「……」
そっと、指輪を置くリアヴィヌが見えた。肉体的には守ることは出来ても、その心まで守ることは出来ないのかもしれない。
日が上りきる前にリムサを出る。
黒魔道士とカウルの女性、という異色のペアはやっぱりどうしたって目立つもの。私達だって、追及は怖い。
「今日は有難うね、楽しかったわ」
「そう、思って貰えてたなら嬉しいんだけど……」
彼女の幸せって、何だろう。
アルティコレート=ローザトラウム。
黒渦に所属する、エレゼンの学者である彼女は……しかして、未だ多くのリムサの人々にとって、別の形で有名であった。
あるビスマルクの深夜。
仕込みに忙しいコック達が駆けずり回る傍ら、その調理場の端を借りて一人のんびりと鍋とにらめっこをしているエレゼンがいた。
明らかに仕込みでは無さそうなそれを咎める者は誰もいない。というのも彼女はビスマルクの従業員ではなく、客のいないこの時間を狙ってこのビスマルクに併設された調理師ギルドに顔を出す珍客であったのだ。
「よ、調子はどうだ」
「大分安定はしてきたわ。それでも、数が要るから時間は掛かりそうだけれども……」
ギルド員であり、店員であるヒューラン族の男性イングハムはそんな彼女に声をかけた。鍋から視線を外さず彼女は声に応える。イングハムは目的に集中する彼女から、鍋へと視線を移す。
果肉が未だ残る、鮮やかな赤い海。つんとした葡萄由来の酢の臭いと、僅かなシナモンの香り。木べらでゆっくりと焦げ付く事のないように煮詰められているのは処理済みのトマトピューレといった処か。ポモドーロソースのような、シンプルなトマトソースが現在主流であるエオルゼアに、彼女が今挑んでいるような味付きのトマトソースは馴染みが薄い。
トマトケチャップと呼ばれるトマトを利用した万能調味料。しかし、そのレシピは万人が知るものではない。
「50皿分だっけか?そんなに大量に要求してタラン爺さんとやらは何が望みなんだろうな」
「腕を試したいんでしょ?渡した料理をそのまま捨てられたら、ちょっとめげるけれども」
秘伝書、と呼ばれるレシピ集がある。その秘伝書と、もうひとつ、質の良い主道具を持ち込んだ流れの職人がいる。ただ職人は実力に煩い。秘伝書を得るにも主道具を得るにも、質の良い作品を求めてきた。
「まあ、渡した後どうなるかなんて気にしねえ方がお前の場合身のためかもな」
「そうね」
「処で、こっちはなんだ?」
自分の仕事は果たして終わっているのだろうか、イングハムは鍋しきの上に置かれている小さめの鍋に目をやった。中身は、似たような赤い海が広がっている。しかし色は僅かに濁り、鮮やかさを損なっている。
「最初に試した試作品。ちょっと要求された品質には届かないかなあって」
アルトは、鍋の向こうに置いたままの、ラプトルのモモ肉を見やって意地悪く笑った。そして、今忙しく動き回って腹も空いているだろう店員達と、イングハムに聞こえるよう、呟いた。
「ラプトルのトマト煮とか、後で作っちゃおうかなって」
「聞かなきゃ良かった!!腹がすくじゃねえかよ!」
「そう思ったらお仕事に戻ったらどう?」
厨房に暫し笑い声が響くのだった。
一通り仕込みが終わったビスマルクの厨房で、彼女は壁に背を預け一時の休息をとっていた。
ビスマルクの店員達はそれぞれの寝床についたのだろう、其処にいるのは彼女くらいだ。彼女のやりたかったことも一段落済んでおり、大鍋は片付けられ何本かの大きな瓶にトマトケチャップが詰められていた。
「お、アルティコレート。帰ってなかったのか」
「ん……ぅ、リングサス?」
「おう、ちぃと仕入れの方で一悶着あってな。仕込みの方は……全部終わってんな、よしよし」
厨房に入ってきたのは、大柄なルガディンの男性であった。名前をリングサスといい、この調理師ギルドのマスターである。今日は外部で催しがあり店をあけていた店長は、厨房の片隅で眠っていたアルトに声をかけた。入り口から調理場へと降りながら、仕込みの進行度を確かめる。
「提督からお前さんに手紙だ、仕事みたいだぞ」
「……なに、わたくし指名?」
そうしてアルトの前までやってきて、手渡したのは確かにメルウィブ提督の封書であった。有り難がる事もなくその封を開いた彼女は、中身を読んで眠たい目を擦りながら立ち上がった。
「提督も意地悪ね。相手が相手じゃなきゃこのくそ忙しい時期断ってやりますのに」
「ほう?何が書いてあったんだ?」
彼女は答えない。代わりに、書面を見せて苦笑いした。
リングサスもまた、苦笑いを浮かべるのに然程時間はかからない。
黒渦に所属する、エレゼンの学者である彼女は……しかして、未だ多くのリムサの人々にとって、別の形で有名であった。
あるビスマルクの深夜。
仕込みに忙しいコック達が駆けずり回る傍ら、その調理場の端を借りて一人のんびりと鍋とにらめっこをしているエレゼンがいた。
明らかに仕込みでは無さそうなそれを咎める者は誰もいない。というのも彼女はビスマルクの従業員ではなく、客のいないこの時間を狙ってこのビスマルクに併設された調理師ギルドに顔を出す珍客であったのだ。
「よ、調子はどうだ」
「大分安定はしてきたわ。それでも、数が要るから時間は掛かりそうだけれども……」
ギルド員であり、店員であるヒューラン族の男性イングハムはそんな彼女に声をかけた。鍋から視線を外さず彼女は声に応える。イングハムは目的に集中する彼女から、鍋へと視線を移す。
果肉が未だ残る、鮮やかな赤い海。つんとした葡萄由来の酢の臭いと、僅かなシナモンの香り。木べらでゆっくりと焦げ付く事のないように煮詰められているのは処理済みのトマトピューレといった処か。ポモドーロソースのような、シンプルなトマトソースが現在主流であるエオルゼアに、彼女が今挑んでいるような味付きのトマトソースは馴染みが薄い。
トマトケチャップと呼ばれるトマトを利用した万能調味料。しかし、そのレシピは万人が知るものではない。
「50皿分だっけか?そんなに大量に要求してタラン爺さんとやらは何が望みなんだろうな」
「腕を試したいんでしょ?渡した料理をそのまま捨てられたら、ちょっとめげるけれども」
秘伝書、と呼ばれるレシピ集がある。その秘伝書と、もうひとつ、質の良い主道具を持ち込んだ流れの職人がいる。ただ職人は実力に煩い。秘伝書を得るにも主道具を得るにも、質の良い作品を求めてきた。
「まあ、渡した後どうなるかなんて気にしねえ方がお前の場合身のためかもな」
「そうね」
「処で、こっちはなんだ?」
自分の仕事は果たして終わっているのだろうか、イングハムは鍋しきの上に置かれている小さめの鍋に目をやった。中身は、似たような赤い海が広がっている。しかし色は僅かに濁り、鮮やかさを損なっている。
「最初に試した試作品。ちょっと要求された品質には届かないかなあって」
アルトは、鍋の向こうに置いたままの、ラプトルのモモ肉を見やって意地悪く笑った。そして、今忙しく動き回って腹も空いているだろう店員達と、イングハムに聞こえるよう、呟いた。
「ラプトルのトマト煮とか、後で作っちゃおうかなって」
「聞かなきゃ良かった!!腹がすくじゃねえかよ!」
「そう思ったらお仕事に戻ったらどう?」
厨房に暫し笑い声が響くのだった。
一通り仕込みが終わったビスマルクの厨房で、彼女は壁に背を預け一時の休息をとっていた。
ビスマルクの店員達はそれぞれの寝床についたのだろう、其処にいるのは彼女くらいだ。彼女のやりたかったことも一段落済んでおり、大鍋は片付けられ何本かの大きな瓶にトマトケチャップが詰められていた。
「お、アルティコレート。帰ってなかったのか」
「ん……ぅ、リングサス?」
「おう、ちぃと仕入れの方で一悶着あってな。仕込みの方は……全部終わってんな、よしよし」
厨房に入ってきたのは、大柄なルガディンの男性であった。名前をリングサスといい、この調理師ギルドのマスターである。今日は外部で催しがあり店をあけていた店長は、厨房の片隅で眠っていたアルトに声をかけた。入り口から調理場へと降りながら、仕込みの進行度を確かめる。
「提督からお前さんに手紙だ、仕事みたいだぞ」
「……なに、わたくし指名?」
そうしてアルトの前までやってきて、手渡したのは確かにメルウィブ提督の封書であった。有り難がる事もなくその封を開いた彼女は、中身を読んで眠たい目を擦りながら立ち上がった。
「提督も意地悪ね。相手が相手じゃなきゃこのくそ忙しい時期断ってやりますのに」
「ほう?何が書いてあったんだ?」
彼女は答えない。代わりに、書面を見せて苦笑いした。
リングサスもまた、苦笑いを浮かべるのに然程時間はかからない。
I can't understand.
No. I want not to understand.
because...
『カミサマ』のワガママ。
それは、わたくしとウェントにとって絶対だ。『カミサマ』が望んだから、この出会いは生まれた。其れを、後悔はしないでしょうけれども……
出会いは、別れの始まりである。
だから、今苦しんでいるのは『カミサマ』のワガママ、それが為。
でも、苦しんでいる、何て言いたくないの。
だって相手が悪いんじゃないんだもの。原因だけどさ、悪いって言葉は違うんだもの。
絵を描く冒険者達のリンクシェルがあるんだ。私も入りたいから、アルト。君達にも付き合って貰いたい。
ある日『カミサマ』はそう、わたくし達に望んだ。その後直ぐに個人通信がとんできた。恐らく『カミサマ』が先に手配していたのでしょう。個人通信の主はリンクシェルのマスターで、とんとん拍子に話が進んだ。
マスターさんは、柔らかい桃色のミコッテであった。ぱっと思ったのが、別のリンクシェルのマスターであった。彼女もまた桃色の髪をしたミコッテであったが、それ以上に彼女を思い出す理由があった。
惹かれた、と感じたのだ。
ほがらかな明るさ、陰りを抱かせない素朴さ。マスターらしいマスターというものは、二種類に別れると思っている。一人はあるハイランダーの女性のように、強くしたたかで心配る、策略家。もうひとつは、彼女らのような……
そう、アイドル。
このマスターさんは、アイドルだと感じた。彼女に集う仲間は、きっと、きっと好意から集っていて、きっととても優しい人が集まっているのでしょう。そんな、そんな気持ちを膨らませた。
ただ、今は。
マスターさんよりも、もっとわたくしの心を奪っている人がいる。
そのリンクシェルには、マスコットのような、いとおしくなるミコッテが……
ミコッテが……
言葉にしたくない。けれども、事実は変わらない。だから言おう。『いた』のだ。
……過去形で。
鮮やかな紫のミコッテだった。
渦巻く風のような髪に、その色に近いダルマティカと呼ばれる胴衣を着ていた。とても牧歌的な彼女は、学者を目指す巴術士であった。
一目で気に入ったの。『カミサマ』の御縁だとか、そもそもわたくしの知らない世界の為のリンクシェルだってこととか。どうでも良くなるくらいに。どうでもよくないけれども。
二人とも、エレゼンのわたくしも、ルガディンのウェントも、好いてくれた。ポージングして見せたり、いろんな防具や武器を見せてみせた。
紫のミコッテちゃんは、未だジョブも持たない身。わたくしが見せる蛮神の本や、珍しい杖や、衣装や、何もかもに驚き、目を輝かせ、そしてわたくしも同時にその姿に目を奪われた。
だからこそ、コートが欲しいと言われた時、わたくしはウェントを呼んで二人で仕立てたのだ。わたくし達の材料で、ウェントの銘が入っている、それで、彼女が何色が相応しいか悩んであれやこれや楽しんでいる。
その姿から目を離せなかった。気に入った色が決まるのが、少し心惜しかった。
ロランベリーレッドの彼女は苺見たいにキュートだった。
二人だけの楽しみにするよりも、愛くるしい彼女を皆にも見せて広めたい。思ったわたくし達は同じコートをマスターにも仕立てる事にした。紫の彼女とウェントと三人で、マスターに相応しい色を悩んだ。
白も良かった。けれども、マスターには柔らかいキャラメルのブラウンを選んだ。甘く、愛されるマスターでありますようにと。
翌日、紫の彼女とわたくしはハイブリッジにいた。
目的はひとつ、この橋を防衛してタイニースクウィエルをてにいれる為。恩人にしか売られない珍品を求めてわたくしは彼女とキキルン達を待ち構えていた。
割と結果は散々だった。
彼女は何度か倒れさせてしまったし、わたくしは民を浚われない為に加勢してやることも出来なかった。ひと、一人は無力だったけれども、わたくしが民を守っている間に彼女は他の冒険者達とボスキキルンを退けていた。
一連の騒動の後、二匹鼻先を付き合わせるタイニースクウィエルが其処にいた。
その後、あの噂のレジーローレンスにも二人で挑んだ。
オチューは嫌いだった。かつて、オーラムで散々苦しめられたのもある。けれども、あの時はなにも不安に思うこともなかった。タンクもいないのに、それでも。
倒れてもそれに嫌気を覚えないと、分かっていたから。彼女と共に挑むことに、楽しさを抱いていた。
また、強敵に二人で挑もう。
名を馳せ、称号を与えられるような強敵は他にもいる。軽く、曖昧だったけれども、それは確かに次の約束。
彼女はいない。
誰もいないリンクシェル通信に、彼女の声を求めて叫ぶ。
今日は彼女はもう寝た筈だった。なのに、何時の間にか、彼女の名前がリンクシェルのリストから消えていた。未だ、まだ、きっとマスターすら知らない。けれども、知ってしまったわたくしは叫ぶ。
どこへいったの。
約束はまだ、のこっているよ。
木苺のタルト、足りなかったならもっと作るから。
一緒に釣りに行くのではなかったの。妖精と共に冒険するのではなかったの。
声を聞かせて、何処か遠くへいくなんて言わないで。
わかりたくないよ、理解したくないよ。
たった数日で眠れなくなるくらいに、苦しくなるくらいなら。
そんな事を思ってしまいそうなそんな自分を認めたくないよ。
No. I want not to understand.
because...
『カミサマ』のワガママ。
それは、わたくしとウェントにとって絶対だ。『カミサマ』が望んだから、この出会いは生まれた。其れを、後悔はしないでしょうけれども……
出会いは、別れの始まりである。
だから、今苦しんでいるのは『カミサマ』のワガママ、それが為。
でも、苦しんでいる、何て言いたくないの。
だって相手が悪いんじゃないんだもの。原因だけどさ、悪いって言葉は違うんだもの。
絵を描く冒険者達のリンクシェルがあるんだ。私も入りたいから、アルト。君達にも付き合って貰いたい。
ある日『カミサマ』はそう、わたくし達に望んだ。その後直ぐに個人通信がとんできた。恐らく『カミサマ』が先に手配していたのでしょう。個人通信の主はリンクシェルのマスターで、とんとん拍子に話が進んだ。
マスターさんは、柔らかい桃色のミコッテであった。ぱっと思ったのが、別のリンクシェルのマスターであった。彼女もまた桃色の髪をしたミコッテであったが、それ以上に彼女を思い出す理由があった。
惹かれた、と感じたのだ。
ほがらかな明るさ、陰りを抱かせない素朴さ。マスターらしいマスターというものは、二種類に別れると思っている。一人はあるハイランダーの女性のように、強くしたたかで心配る、策略家。もうひとつは、彼女らのような……
そう、アイドル。
このマスターさんは、アイドルだと感じた。彼女に集う仲間は、きっと、きっと好意から集っていて、きっととても優しい人が集まっているのでしょう。そんな、そんな気持ちを膨らませた。
ただ、今は。
マスターさんよりも、もっとわたくしの心を奪っている人がいる。
そのリンクシェルには、マスコットのような、いとおしくなるミコッテが……
ミコッテが……
言葉にしたくない。けれども、事実は変わらない。だから言おう。『いた』のだ。
……過去形で。
鮮やかな紫のミコッテだった。
渦巻く風のような髪に、その色に近いダルマティカと呼ばれる胴衣を着ていた。とても牧歌的な彼女は、学者を目指す巴術士であった。
一目で気に入ったの。『カミサマ』の御縁だとか、そもそもわたくしの知らない世界の為のリンクシェルだってこととか。どうでも良くなるくらいに。どうでもよくないけれども。
二人とも、エレゼンのわたくしも、ルガディンのウェントも、好いてくれた。ポージングして見せたり、いろんな防具や武器を見せてみせた。
紫のミコッテちゃんは、未だジョブも持たない身。わたくしが見せる蛮神の本や、珍しい杖や、衣装や、何もかもに驚き、目を輝かせ、そしてわたくしも同時にその姿に目を奪われた。
だからこそ、コートが欲しいと言われた時、わたくしはウェントを呼んで二人で仕立てたのだ。わたくし達の材料で、ウェントの銘が入っている、それで、彼女が何色が相応しいか悩んであれやこれや楽しんでいる。
その姿から目を離せなかった。気に入った色が決まるのが、少し心惜しかった。
ロランベリーレッドの彼女は苺見たいにキュートだった。
二人だけの楽しみにするよりも、愛くるしい彼女を皆にも見せて広めたい。思ったわたくし達は同じコートをマスターにも仕立てる事にした。紫の彼女とウェントと三人で、マスターに相応しい色を悩んだ。
白も良かった。けれども、マスターには柔らかいキャラメルのブラウンを選んだ。甘く、愛されるマスターでありますようにと。
翌日、紫の彼女とわたくしはハイブリッジにいた。
目的はひとつ、この橋を防衛してタイニースクウィエルをてにいれる為。恩人にしか売られない珍品を求めてわたくしは彼女とキキルン達を待ち構えていた。
割と結果は散々だった。
彼女は何度か倒れさせてしまったし、わたくしは民を浚われない為に加勢してやることも出来なかった。ひと、一人は無力だったけれども、わたくしが民を守っている間に彼女は他の冒険者達とボスキキルンを退けていた。
一連の騒動の後、二匹鼻先を付き合わせるタイニースクウィエルが其処にいた。
その後、あの噂のレジーローレンスにも二人で挑んだ。
オチューは嫌いだった。かつて、オーラムで散々苦しめられたのもある。けれども、あの時はなにも不安に思うこともなかった。タンクもいないのに、それでも。
倒れてもそれに嫌気を覚えないと、分かっていたから。彼女と共に挑むことに、楽しさを抱いていた。
また、強敵に二人で挑もう。
名を馳せ、称号を与えられるような強敵は他にもいる。軽く、曖昧だったけれども、それは確かに次の約束。
彼女はいない。
誰もいないリンクシェル通信に、彼女の声を求めて叫ぶ。
今日は彼女はもう寝た筈だった。なのに、何時の間にか、彼女の名前がリンクシェルのリストから消えていた。未だ、まだ、きっとマスターすら知らない。けれども、知ってしまったわたくしは叫ぶ。
どこへいったの。
約束はまだ、のこっているよ。
木苺のタルト、足りなかったならもっと作るから。
一緒に釣りに行くのではなかったの。妖精と共に冒険するのではなかったの。
声を聞かせて、何処か遠くへいくなんて言わないで。
わかりたくないよ、理解したくないよ。
たった数日で眠れなくなるくらいに、苦しくなるくらいなら。
そんな事を思ってしまいそうなそんな自分を認めたくないよ。
プロフィール
HN:
虚向風音
性別:
非公開
P R