作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。
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ドマの国にあると噂される、スティッキーライスより太く肉厚で豊かだと言われる米。カミサマはそれを知るようで、事細かにその魅力を語ってくれたものだが、生憎と手持ちはない。
代わりに、彼女の提案で今回は麦飯になった。パンよりも、マリネや煮物の味の方を楽しめるだろうとの考えではあるけれども……カミサマとの、二人がかりでの麦飯研究の成果を表に出すのは、此れが初めてでもあった。
「今回は公的なものではありませんし、わたくしとしても冒険しているものが幾つか御座いますわ。皆様のお口にあうといいのですが」
食卓に並ぶのは、ゲゲルジュやディルストヴェイツ、わたくしを知る物好きのメイド達。とはいえ、その人数は高位な者にどうしても数が限られ、その内の一人、演奏家のエレゼンの女性と、舞踊指導者のルガディンの女性が満足そうに微笑み返していた。
サシャの方はというと、柄にもなく緊張しているのか頬先の角張った微笑みに、尻尾が絶え間無く揺れている。ゲゲルジュが可愛いのう、と言うのには、やりませんからねと冗談っぽく返してやった。
「御主の独占欲は他人の比ではないからのう、流石のわしもかっさらおうとはせんよ!」
「ふふふ、貴方は本当に良き理解者で助かりますよ」
サシャの隣の席に腰かけて、わたくし達は魔法の呪文を唱えるのです。
「いただきます」
ってね♪
冒険の山であったディナータイムも問題なく事が済み、わたくし達は宛がわれたテントへとひきあげる。相変わらず、真ん中に大きなダブルサイズのベッドが存在感を主張するシンプルな貸出し用寝室へと引き下がる。ひとつの布団にくるまって、帰りの船の出る朝まで一晩を過ごす。
「サシャ」
「んー?」
自分ひとりのベッドの中より、暖かい温もり。少し丸まって寝ているもうひとりの姿に、愛しさを覚えながら、名前を呼ぶ。
「手、出して貰えるかしら」
「こう?かな?」
布団の中から出てきた白く綺麗な彼女の手首に、わたくしはそっと紐を結んだ。わたくしの髪色のようにしなやかな金糸と、サシャの髪色のように澄みきった銀糸の絡み合った紐の輪。
「本当は足につけるものらしいんだけど、擦りきれて知らぬ間に無くしてるのは何だか寂しい気がして」
「おお……?」
結んだのは、ミサンガの紐だった。金糸と銀糸でみつあみにされた美しい糸の束。
「二人の髪をモチーフに、って行きの船乗りさんがくださったのよ」
形あるものは、これっきりであるけれども。どうか良ければこれから先、サシャの心の中、思い出として今日とわたくしの記憶がかたちを残したら嬉しいな、って。
「サシャ、今日は有難う」
布団の中のサシャを強くだき寄せて。いまは二人とも横になっているから、二人の肩が触れ合う。海辺の夜は肌寒い、けれど、この空間は暖かい。
「アルティ?」
「ごめん、この方が暖かそうだったんだもん」
誰かの下に下るより……
わたくしはこうして気儘に好きなものを愛していたいのだろう。
そっと目を閉じる。
わたくしの謝罪に、くすりと笑ったサシャが、前髪を撫でる感覚が強く意識させられた。このまま抱いたまま眠ってしまおうか、そんなことを考えるわたくしの額に触れる柔らかな熱量は。
驚いて目を開け、視線で問うも、言葉の代わりに満面の笑みではぐらかされた。
その代わり、腕を背に回されてより密着するとまるで寄り掛かるようなかたちで目を閉じた。
嗚呼、暖かい。
こうやって抱き合って眠る贅沢を、一身に感じながら……優しい微睡みに迎えられていた。
帰りは客船に乗っての帰路だった。わざわざ個室まで用意していただいて、寒さが平気であった分、気が付いたら朝の睡魔に負けて転た寝してしまっていた。
サシャはどんな表情でそんなわたくしを見ていたのだろう。
下甲板でサシャと別れて。
暫し感謝のハグをして。名残惜しさを抱えながらも、早朝の商店街をエーテライト・プラザへ駆ける。プラザ傍の螺旋状の坂を上れば、わたくしの第二のホームだ。
「おう、帰ったかアルティコレート!」
「ただいま、リングサス」
扉を開けると、店の監督をしていた店長が迎えの挨拶をしてくれた。満面の笑みで返事を返す、わたくし。
「助言有難うね、どうだった?」
「ああ、諦めて帰っていったぞ。其れなりには食い下がられたが、『あいつが会いたがらなかったんだからそういうこった』、と追い払ったさ」
店長の返しにわたくしは満足そうに頷いた。この店長のお陰で、これからもわたくしはわたくしの心のままにスキレットを振るうことができるだろう。
「バカンスは楽しかったか?」
「勿論!収穫もありましたしね」
珍しく履いたサンダルが、露出させる足首に。
金糸と銀糸の織り込まれたミサンガが控え目に光を跳ね返して煌めいていた。
代わりに、彼女の提案で今回は麦飯になった。パンよりも、マリネや煮物の味の方を楽しめるだろうとの考えではあるけれども……カミサマとの、二人がかりでの麦飯研究の成果を表に出すのは、此れが初めてでもあった。
「今回は公的なものではありませんし、わたくしとしても冒険しているものが幾つか御座いますわ。皆様のお口にあうといいのですが」
食卓に並ぶのは、ゲゲルジュやディルストヴェイツ、わたくしを知る物好きのメイド達。とはいえ、その人数は高位な者にどうしても数が限られ、その内の一人、演奏家のエレゼンの女性と、舞踊指導者のルガディンの女性が満足そうに微笑み返していた。
サシャの方はというと、柄にもなく緊張しているのか頬先の角張った微笑みに、尻尾が絶え間無く揺れている。ゲゲルジュが可愛いのう、と言うのには、やりませんからねと冗談っぽく返してやった。
「御主の独占欲は他人の比ではないからのう、流石のわしもかっさらおうとはせんよ!」
「ふふふ、貴方は本当に良き理解者で助かりますよ」
サシャの隣の席に腰かけて、わたくし達は魔法の呪文を唱えるのです。
「いただきます」
ってね♪
冒険の山であったディナータイムも問題なく事が済み、わたくし達は宛がわれたテントへとひきあげる。相変わらず、真ん中に大きなダブルサイズのベッドが存在感を主張するシンプルな貸出し用寝室へと引き下がる。ひとつの布団にくるまって、帰りの船の出る朝まで一晩を過ごす。
「サシャ」
「んー?」
自分ひとりのベッドの中より、暖かい温もり。少し丸まって寝ているもうひとりの姿に、愛しさを覚えながら、名前を呼ぶ。
「手、出して貰えるかしら」
「こう?かな?」
布団の中から出てきた白く綺麗な彼女の手首に、わたくしはそっと紐を結んだ。わたくしの髪色のようにしなやかな金糸と、サシャの髪色のように澄みきった銀糸の絡み合った紐の輪。
「本当は足につけるものらしいんだけど、擦りきれて知らぬ間に無くしてるのは何だか寂しい気がして」
「おお……?」
結んだのは、ミサンガの紐だった。金糸と銀糸でみつあみにされた美しい糸の束。
「二人の髪をモチーフに、って行きの船乗りさんがくださったのよ」
形あるものは、これっきりであるけれども。どうか良ければこれから先、サシャの心の中、思い出として今日とわたくしの記憶がかたちを残したら嬉しいな、って。
「サシャ、今日は有難う」
布団の中のサシャを強くだき寄せて。いまは二人とも横になっているから、二人の肩が触れ合う。海辺の夜は肌寒い、けれど、この空間は暖かい。
「アルティ?」
「ごめん、この方が暖かそうだったんだもん」
誰かの下に下るより……
わたくしはこうして気儘に好きなものを愛していたいのだろう。
そっと目を閉じる。
わたくしの謝罪に、くすりと笑ったサシャが、前髪を撫でる感覚が強く意識させられた。このまま抱いたまま眠ってしまおうか、そんなことを考えるわたくしの額に触れる柔らかな熱量は。
驚いて目を開け、視線で問うも、言葉の代わりに満面の笑みではぐらかされた。
その代わり、腕を背に回されてより密着するとまるで寄り掛かるようなかたちで目を閉じた。
嗚呼、暖かい。
こうやって抱き合って眠る贅沢を、一身に感じながら……優しい微睡みに迎えられていた。
帰りは客船に乗っての帰路だった。わざわざ個室まで用意していただいて、寒さが平気であった分、気が付いたら朝の睡魔に負けて転た寝してしまっていた。
サシャはどんな表情でそんなわたくしを見ていたのだろう。
下甲板でサシャと別れて。
暫し感謝のハグをして。名残惜しさを抱えながらも、早朝の商店街をエーテライト・プラザへ駆ける。プラザ傍の螺旋状の坂を上れば、わたくしの第二のホームだ。
「おう、帰ったかアルティコレート!」
「ただいま、リングサス」
扉を開けると、店の監督をしていた店長が迎えの挨拶をしてくれた。満面の笑みで返事を返す、わたくし。
「助言有難うね、どうだった?」
「ああ、諦めて帰っていったぞ。其れなりには食い下がられたが、『あいつが会いたがらなかったんだからそういうこった』、と追い払ったさ」
店長の返しにわたくしは満足そうに頷いた。この店長のお陰で、これからもわたくしはわたくしの心のままにスキレットを振るうことができるだろう。
「バカンスは楽しかったか?」
「勿論!収穫もありましたしね」
珍しく履いたサンダルが、露出させる足首に。
金糸と銀糸の織り込まれたミサンガが控え目に光を跳ね返して煌めいていた。
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晴れ渡る快晴の空、日の光を跳ね返して銀色に輝く波、深く魅入られるような青い海。
そしてその海に浮かぶ巨大漁船。
「どう?此処まで海の上へ歩み寄る機会はそうないと思うの」
巨大漁船の甲板の船尾は、レストランが併設されていた。昼飯はあのフライングシャークのディルストヴェイツの作らしい。
船に乗る前にも挨拶はしにいったのだけれども、どうも明け方ゲゲルジュに御挨拶にいった後、彼から私の来訪を知らされていたらしく私の為に腕を振るいたいと言われたのだ。
「うん、そうね。こんな綺麗な青が広がっていたんだあ……」
感嘆の溜め息をサシャがつく。船尾の端、一番海が近く見える特等席が指定席として与えられていた。一度船が揺らぎもすれば危険な場所でもあるのだが、視線を少し外せば邪魔にならない場所に船員か警備員が控えているのが分かる。
「そうよ、この青の中に魚達は生きているの。けれども、この青の美しさを楽しめる生き物は多くないわ」
「え、どうして?」
私達はつい、自分の知る五感を他の動物にも当てはめがちだけれども。実際はそうではないらしい事を、聞いた事がある。
「海を青と認識出来る……それって全ての生き物の出来る事では無いそうよ」
私達は、豊かだと思う。
食物の辛味や苦味の多くは、食われない為の動植物自身の工夫だ。それすらも、美味しさとして調理出来る逞しさよ。
対面する絵描きである彼女は、表情に分かるほど驚いて、それから、少し嬉しそうに笑った。
それなら尚更、この素晴らしさをより伝えられる者でありたい、と。
「ところで、どうして飛び出して来たの?」
穏やかな海のように、ゆったりとした自由時間。手の込んだ料理に二人舌鼓をうちながら、話は弾む。
「縛られそうな気がしたのよ。専属って私好きじゃない」
好きな時に好きな人の為にスキレットを振るえないじゃない。そう口を尖らせて愚痴って見せると、サシャが小さく噴き出すように笑いだした。
「ちょっ、アルトちゃんの拗ね顔可愛いっ」
「だ、だってー!独占はしたいけど独占されたくないんだものっ」
慌てて弁明を試みるが、必死さがツボにハマってしまったか暫し可愛いコールは止まないのだった。
……満更じゃなかったけど。
悔しかったので、それは言葉にしない事にした。
日は頂点を下り、船も港へ戻る方向に舵を取り始めていた。席を立ち船尾に寄り、より近くに海を見るサシャの姿。
青く透き通った海に、時折黒い魚の影が現れては気ままに去っていく。風の香り、海の輝き、五感を通じて感じる水の世界の素晴らしきこと。ただ日が傾き始め、冷たさと塩気を孕んだ風に身を震わす背中を、そっと抱き締める。
すっぽりと覆われてしまったその身がいとおしい。ただ尻尾だけが自由気儘に、まるで相互に絡み合うかのようにわたくしの背中に回される。
恐怖は抱かない。ただ、もう少しだけ近くにありたくて。嬉しそうに見上げてきた彼女にかがみ込み、気付けばそっと口付けていた。
「あんたほんと尻軽とか言われても知らないわよ!?」
「ミスティカ、決してわたくしはとって食おうとかそんなつもりはないのですから」
夕暮れ、本来はゲゲルジュの使用人達が働く厨房の一角に、わたくしとわたくしのリテイナーがいた。
彼女はミスティカという茶髪のミコッテで、食材をわたくしに代わって管理してくれている大事なパートナーだ。
「ほんっとプレイガールなんだから、行き遅れるわよ」
「妥協なんてしないから良いのよーだ」
彼女に持ってきて貰ったワイルドオニオンやオリーブオイルを使って、作るのはサーモンのマリネだ。本当はスモークしたものを使うのだけれど、このコスタでは身のしまった新鮮なサーモンが取れるから、そっちにすることにした。
香り付けのバジル、甘酸っぱさを足すハニーレモン。レモンのメインはレモン汁の方だけれど、折角なので身の薄いスライスも盛り付ける事にした。
でも、メインディッシュはボイルドブリーム。桜色の魚、ビアナックブリームを使ったまろやかな煮込み料理だ。カミサマには、「そんな鯛を茹でちゃうの!?」と驚かれた事があるけれども、どうやらカミサマには、これに良く似た魚で鯛という魚がおり、それがもう蒸すように焼いて塩を振るだけで十分に旨いのだとか。
この魚、冒険者の間でもあまり食されないけれども。わたくしもかなり美味しい部類だと思っている。
今回のスープはそんな魚の淡白ながら濃厚な旨味を損なわない、あっさり目のミッドランドキャベツのスープ。チキンストックをベースに、フィンガーシュリンプの香ばしさと塩胡椒のアクセントが広がるだろう。
ゲゲルジュには勿論、サシャにも楽しんでいただけるとよいのだけれども。
そしてその海に浮かぶ巨大漁船。
「どう?此処まで海の上へ歩み寄る機会はそうないと思うの」
巨大漁船の甲板の船尾は、レストランが併設されていた。昼飯はあのフライングシャークのディルストヴェイツの作らしい。
船に乗る前にも挨拶はしにいったのだけれども、どうも明け方ゲゲルジュに御挨拶にいった後、彼から私の来訪を知らされていたらしく私の為に腕を振るいたいと言われたのだ。
「うん、そうね。こんな綺麗な青が広がっていたんだあ……」
感嘆の溜め息をサシャがつく。船尾の端、一番海が近く見える特等席が指定席として与えられていた。一度船が揺らぎもすれば危険な場所でもあるのだが、視線を少し外せば邪魔にならない場所に船員か警備員が控えているのが分かる。
「そうよ、この青の中に魚達は生きているの。けれども、この青の美しさを楽しめる生き物は多くないわ」
「え、どうして?」
私達はつい、自分の知る五感を他の動物にも当てはめがちだけれども。実際はそうではないらしい事を、聞いた事がある。
「海を青と認識出来る……それって全ての生き物の出来る事では無いそうよ」
私達は、豊かだと思う。
食物の辛味や苦味の多くは、食われない為の動植物自身の工夫だ。それすらも、美味しさとして調理出来る逞しさよ。
対面する絵描きである彼女は、表情に分かるほど驚いて、それから、少し嬉しそうに笑った。
それなら尚更、この素晴らしさをより伝えられる者でありたい、と。
「ところで、どうして飛び出して来たの?」
穏やかな海のように、ゆったりとした自由時間。手の込んだ料理に二人舌鼓をうちながら、話は弾む。
「縛られそうな気がしたのよ。専属って私好きじゃない」
好きな時に好きな人の為にスキレットを振るえないじゃない。そう口を尖らせて愚痴って見せると、サシャが小さく噴き出すように笑いだした。
「ちょっ、アルトちゃんの拗ね顔可愛いっ」
「だ、だってー!独占はしたいけど独占されたくないんだものっ」
慌てて弁明を試みるが、必死さがツボにハマってしまったか暫し可愛いコールは止まないのだった。
……満更じゃなかったけど。
悔しかったので、それは言葉にしない事にした。
日は頂点を下り、船も港へ戻る方向に舵を取り始めていた。席を立ち船尾に寄り、より近くに海を見るサシャの姿。
青く透き通った海に、時折黒い魚の影が現れては気ままに去っていく。風の香り、海の輝き、五感を通じて感じる水の世界の素晴らしきこと。ただ日が傾き始め、冷たさと塩気を孕んだ風に身を震わす背中を、そっと抱き締める。
すっぽりと覆われてしまったその身がいとおしい。ただ尻尾だけが自由気儘に、まるで相互に絡み合うかのようにわたくしの背中に回される。
恐怖は抱かない。ただ、もう少しだけ近くにありたくて。嬉しそうに見上げてきた彼女にかがみ込み、気付けばそっと口付けていた。
「あんたほんと尻軽とか言われても知らないわよ!?」
「ミスティカ、決してわたくしはとって食おうとかそんなつもりはないのですから」
夕暮れ、本来はゲゲルジュの使用人達が働く厨房の一角に、わたくしとわたくしのリテイナーがいた。
彼女はミスティカという茶髪のミコッテで、食材をわたくしに代わって管理してくれている大事なパートナーだ。
「ほんっとプレイガールなんだから、行き遅れるわよ」
「妥協なんてしないから良いのよーだ」
彼女に持ってきて貰ったワイルドオニオンやオリーブオイルを使って、作るのはサーモンのマリネだ。本当はスモークしたものを使うのだけれど、このコスタでは身のしまった新鮮なサーモンが取れるから、そっちにすることにした。
香り付けのバジル、甘酸っぱさを足すハニーレモン。レモンのメインはレモン汁の方だけれど、折角なので身の薄いスライスも盛り付ける事にした。
でも、メインディッシュはボイルドブリーム。桜色の魚、ビアナックブリームを使ったまろやかな煮込み料理だ。カミサマには、「そんな鯛を茹でちゃうの!?」と驚かれた事があるけれども、どうやらカミサマには、これに良く似た魚で鯛という魚がおり、それがもう蒸すように焼いて塩を振るだけで十分に旨いのだとか。
この魚、冒険者の間でもあまり食されないけれども。わたくしもかなり美味しい部類だと思っている。
今回のスープはそんな魚の淡白ながら濃厚な旨味を損なわない、あっさり目のミッドランドキャベツのスープ。チキンストックをベースに、フィンガーシュリンプの香ばしさと塩胡椒のアクセントが広がるだろう。
ゲゲルジュには勿論、サシャにも楽しんでいただけるとよいのだけれども。
コスタ・デル・ソル。
東ラノシア、ブラッドショアの開拓地であったこの地は、買い取ったゲゲルジュの手によってリゾート地に生まれ変わった土地なの。
ゲゲルジュ氏とは恩もあり、貸し借りもあり、わたくしにとっては良き理解者。
それには彼の地で働く高名な調理人の存在や、彼自身がわたくしの抱える性問題に理解があるなど、理由は多方面に渡る。もっとも、わたくしは好んで性癖を明かしたのではなく……クラフターの納品物を届けた際、踊り子に性的に食われそうになった、というか……実際食われたというか……
こほん、何はともあれ、話のつけやすい権力者であった事は紛れもない事実でして。
「デートって、急ね?」
「急でなくてはならなかった、かしらね。どちらかと申しますと」
満天の星空。
離れていく、リムサのエーテライト。
密やかにラノシアの海を渡るこの小舟には、あまり設備がないけれども……だからこそ星が美しい。
「でも、ロマンチックだと思いません?愛の逃避行……なんて舞台も」
船頭が渡してきたひとつの毛布に、二人でくるまって。なんだか恋人のようだわ。直ぐそこにサシャの顔があって、特別リップの塗られていない、自然な赤みの唇があって、其処に重ねてみたい……なんて邪を、わたくしはそっと脇に除けた。
「ふふっ、言われるとそうね♪アルティはロマンチストだなー」
サシャはそう笑ってわたくしに抱き付いてきて、邪を払った矢先の筈だったわたくしは顔を赤らめたまま暫し固まるしか出来ないのでした。
コスタ・デル・ソルには夜が終わる頃の到着でした。海が綺麗に見えるテントの一室をお借りして、昼頃まではのんびりと休息。設備の事もあるし、何より意識しっぱなしだった事もあって、夜逃げの舟では眠るなんて出来なかったもの!
先にサシャには休んで貰って、わたくしはこのコスタの主のもとへ。
「昼頃に出る大型漁船はあるかしら」
「それなら――号ぢゃろうな」
挨拶、というのもあるけれどもメインは今後の予定伺いです。テントの一室、子猫ちゃんに囲まれている彼の隣で問うのは船のスケジュール。
最近はじまったという、大型漁船に乗っての漁体験。主に冒険者の漁師の為、とも言われているけれどもコスタの海の良さに参加者は何も漁師に限らない。
「それなら、わたくしそちらに乗りますので、追手がかかっていたら言ってくださいまし。"わたくしのデートを邪魔しないでくださりません?"と」
わたくしがビスマルクにいないと分かれば、探せそうな範囲は当たってくるでしょう、その真っ最中であろう日中に、連れ出される事のない海の上へと逃げるのです。
拒絶の言葉をこの地の主に託し、わたくしは自然と笑みがこぼれます。
「お主も全く好きよのう」
「なあに、好き者はお互い様ではありませんか」
顔を見合わせてしまえば、それはこぼれる、程度にすみませんでした。
「ふふっ」
「ほっほっほっ」
立場も地位も大違い。
ですが、何となくこの方の傍らは気が楽になるのでした。繕う事もないからかもしれません。
わたくしも彼も変わり者です。普段は要らぬ謗りを避けて、発露を控えているだけのこと。
「まあ、漁果がありましたらディナーくらいは腕を振るいますから、それでお見逃しくださいな♪」
「ほう。折角の機会食いっぱぐれる訳にはいかんのう」
謝礼を約し、また顔を見合わせて笑い、そしてわたくしは一礼の後わたくしとサシャに宛がわれたテントへと引き下がりました。未だ日も上がらぬ夜明け前。
そっと、サシャの休む布団の中へ潜り込むとミコッテ特有の僅かな獣臭が、今はわたくしのこころを満たすのでした。
今日はわたくしはサシャのもので、サシャはわたくしのものなのだ、なんて。
東ラノシア、ブラッドショアの開拓地であったこの地は、買い取ったゲゲルジュの手によってリゾート地に生まれ変わった土地なの。
ゲゲルジュ氏とは恩もあり、貸し借りもあり、わたくしにとっては良き理解者。
それには彼の地で働く高名な調理人の存在や、彼自身がわたくしの抱える性問題に理解があるなど、理由は多方面に渡る。もっとも、わたくしは好んで性癖を明かしたのではなく……クラフターの納品物を届けた際、踊り子に性的に食われそうになった、というか……実際食われたというか……
こほん、何はともあれ、話のつけやすい権力者であった事は紛れもない事実でして。
「デートって、急ね?」
「急でなくてはならなかった、かしらね。どちらかと申しますと」
満天の星空。
離れていく、リムサのエーテライト。
密やかにラノシアの海を渡るこの小舟には、あまり設備がないけれども……だからこそ星が美しい。
「でも、ロマンチックだと思いません?愛の逃避行……なんて舞台も」
船頭が渡してきたひとつの毛布に、二人でくるまって。なんだか恋人のようだわ。直ぐそこにサシャの顔があって、特別リップの塗られていない、自然な赤みの唇があって、其処に重ねてみたい……なんて邪を、わたくしはそっと脇に除けた。
「ふふっ、言われるとそうね♪アルティはロマンチストだなー」
サシャはそう笑ってわたくしに抱き付いてきて、邪を払った矢先の筈だったわたくしは顔を赤らめたまま暫し固まるしか出来ないのでした。
コスタ・デル・ソルには夜が終わる頃の到着でした。海が綺麗に見えるテントの一室をお借りして、昼頃まではのんびりと休息。設備の事もあるし、何より意識しっぱなしだった事もあって、夜逃げの舟では眠るなんて出来なかったもの!
先にサシャには休んで貰って、わたくしはこのコスタの主のもとへ。
「昼頃に出る大型漁船はあるかしら」
「それなら――号ぢゃろうな」
挨拶、というのもあるけれどもメインは今後の予定伺いです。テントの一室、子猫ちゃんに囲まれている彼の隣で問うのは船のスケジュール。
最近はじまったという、大型漁船に乗っての漁体験。主に冒険者の漁師の為、とも言われているけれどもコスタの海の良さに参加者は何も漁師に限らない。
「それなら、わたくしそちらに乗りますので、追手がかかっていたら言ってくださいまし。"わたくしのデートを邪魔しないでくださりません?"と」
わたくしがビスマルクにいないと分かれば、探せそうな範囲は当たってくるでしょう、その真っ最中であろう日中に、連れ出される事のない海の上へと逃げるのです。
拒絶の言葉をこの地の主に託し、わたくしは自然と笑みがこぼれます。
「お主も全く好きよのう」
「なあに、好き者はお互い様ではありませんか」
顔を見合わせてしまえば、それはこぼれる、程度にすみませんでした。
「ふふっ」
「ほっほっほっ」
立場も地位も大違い。
ですが、何となくこの方の傍らは気が楽になるのでした。繕う事もないからかもしれません。
わたくしも彼も変わり者です。普段は要らぬ謗りを避けて、発露を控えているだけのこと。
「まあ、漁果がありましたらディナーくらいは腕を振るいますから、それでお見逃しくださいな♪」
「ほう。折角の機会食いっぱぐれる訳にはいかんのう」
謝礼を約し、また顔を見合わせて笑い、そしてわたくしは一礼の後わたくしとサシャに宛がわれたテントへと引き下がりました。未だ日も上がらぬ夜明け前。
そっと、サシャの休む布団の中へ潜り込むとミコッテ特有の僅かな獣臭が、今はわたくしのこころを満たすのでした。
今日はわたくしはサシャのもので、サシャはわたくしのものなのだ、なんて。
ビスマルクの高名な調理人、アルティコレートは趣味人である。調理は金の為にやっている訳ではない、ということだ。彼女は冒険者としての名声も、金も持っているからだろう。だから彼女は、金で動くことは稀である。他人の指名でスキレットを振るうなんてこと、もっての他。リムサ・ロミンサを統治する提督メルウィブ・ブルーフィスウィン、彼女ただ一人を除いては……
しかしまあ、顔も知れ、力もコネもある彼女。逆を言えば、その責任を思えば、簡単には断ることが難しいとも言える。
提督の指名しか受けないというのも、ひとつの脅しにしか過ぎない。違う方向であれば、彼女より金も権力もあるものはたくさんいる。
その日、ビスマルクに一人のメイドが訪ねてきた。あるウルダハの商人の使いであるという。ウルダハは金持ちが集まって国を纏めている国。人ひとりとは言え、面向かって雇用を望まれては断った時の影響がはかれない。何かを盾にとられたりする可能性すらある。
軍学者でもある、彼女はこう考えた……。この交渉、舞台に上るべきではない、と。
我が身の自由と信念を守るために。
「事前に店長が助言くださらなかったらどうなっていたことかしら」
メイドが訪ねてきたのは、わたくしの居ぬ間を狙ってのことでした。アポイントメントを取る気は見せながら、わたくしに対しては不意を突くつもりであったのです。
約束の日は翌日日中。わたくしにもし話が行ってなければ、わたくしはその日も調理場におり、その邂逅を回避する事は難しかったでしょう。
暗い闇に包まれたリムサの下甲板層へ、わたくしはビスマルクから降りていきました。夜間でも冒険者で賑わうエーテライト・プラザを、人目を避けるように商店街へと抜けていきました。
既に、逃げ先には連絡を入れ、それっぽい約束をでっち上げて頂いておりますが、なにかいい案は此方でも考えられないものか。
「……あれは」
マーケットの中腹から、漁師ギルドへ降りる橋を、逆に向かう影が知り合いのものであることに気が付きました。彼処からは、ミスト・ヴィレッジからの船も着いています、恐らくはアストの家からの帰りでしょうか。
雪のような白い髪が月の光に照らされているのを、少しいとおしいと思いながら。
「あら、良いところにサシャ!」「……お?」
石橋から木橋へと飛び下りながら声をかける。声に気付いたミコッテの女性……サシャ・フェンディの視線がわたくしを探し、捉える……その直前がタイムリミット。
「ごめん、一日付き合ってくださいまし!」
「きゃっ!?わ、わ、ちょっとアルティー?」
通りすがり際に脇に腕を差し込み、片腕を捕らえ。無理矢理に近い形でわたくしは彼女を連れ出した。きっと遠目にわたくしが見付けられても、ただの駆け落ちに見えたでしょう。
「船頭さん、お待たせしたわ!」「よう金糸の嬢ちゃん、主人から話はうかがってますぜ。今すぐ、でいいんだな」
「ええ、わたくしが抜け出したとばれる前に直ぐ!」
根回しのはやい連絡先で本当に助かった。あの人に対しては貸しも借りもあり、時々は気紛れに場にでる事もあるからか。
「どうしても、デートの相手が入り用だったの。ねえ、サシャ。今夜わたくしの恋人になってくださらない?」
小舟の行き先……それは、ラノシアのリゾート。
コスタ・デル・ソル。
しかしまあ、顔も知れ、力もコネもある彼女。逆を言えば、その責任を思えば、簡単には断ることが難しいとも言える。
提督の指名しか受けないというのも、ひとつの脅しにしか過ぎない。違う方向であれば、彼女より金も権力もあるものはたくさんいる。
その日、ビスマルクに一人のメイドが訪ねてきた。あるウルダハの商人の使いであるという。ウルダハは金持ちが集まって国を纏めている国。人ひとりとは言え、面向かって雇用を望まれては断った時の影響がはかれない。何かを盾にとられたりする可能性すらある。
軍学者でもある、彼女はこう考えた……。この交渉、舞台に上るべきではない、と。
我が身の自由と信念を守るために。
「事前に店長が助言くださらなかったらどうなっていたことかしら」
メイドが訪ねてきたのは、わたくしの居ぬ間を狙ってのことでした。アポイントメントを取る気は見せながら、わたくしに対しては不意を突くつもりであったのです。
約束の日は翌日日中。わたくしにもし話が行ってなければ、わたくしはその日も調理場におり、その邂逅を回避する事は難しかったでしょう。
暗い闇に包まれたリムサの下甲板層へ、わたくしはビスマルクから降りていきました。夜間でも冒険者で賑わうエーテライト・プラザを、人目を避けるように商店街へと抜けていきました。
既に、逃げ先には連絡を入れ、それっぽい約束をでっち上げて頂いておりますが、なにかいい案は此方でも考えられないものか。
「……あれは」
マーケットの中腹から、漁師ギルドへ降りる橋を、逆に向かう影が知り合いのものであることに気が付きました。彼処からは、ミスト・ヴィレッジからの船も着いています、恐らくはアストの家からの帰りでしょうか。
雪のような白い髪が月の光に照らされているのを、少しいとおしいと思いながら。
「あら、良いところにサシャ!」「……お?」
石橋から木橋へと飛び下りながら声をかける。声に気付いたミコッテの女性……サシャ・フェンディの視線がわたくしを探し、捉える……その直前がタイムリミット。
「ごめん、一日付き合ってくださいまし!」
「きゃっ!?わ、わ、ちょっとアルティー?」
通りすがり際に脇に腕を差し込み、片腕を捕らえ。無理矢理に近い形でわたくしは彼女を連れ出した。きっと遠目にわたくしが見付けられても、ただの駆け落ちに見えたでしょう。
「船頭さん、お待たせしたわ!」「よう金糸の嬢ちゃん、主人から話はうかがってますぜ。今すぐ、でいいんだな」
「ええ、わたくしが抜け出したとばれる前に直ぐ!」
根回しのはやい連絡先で本当に助かった。あの人に対しては貸しも借りもあり、時々は気紛れに場にでる事もあるからか。
「どうしても、デートの相手が入り用だったの。ねえ、サシャ。今夜わたくしの恋人になってくださらない?」
小舟の行き先……それは、ラノシアのリゾート。
コスタ・デル・ソル。
夜の深い深い海、月明かりが差し込んで飛沫に色を付けている。円形のテーブルには、真っ白のテーブルクロスがかかっている。3:1に分けられた椅子。片側にはこのリムサの主メルウィブが座し、その対面にはグリダニアの著名な道士達。ラヤ・オ・センナ、ア・ルン・センナ、そして、アンフェルツィート。
護衛、という予定の筈だったのに。そう、当の本人縮こまっていた。鎮撫の儀を為した、白魔道士の彼女には、当然相応の地位があるのだが、ラヤ・オとア・ルンが護衛という名目で騙さねば表舞台に出てこない程に引っ込み思案でその自覚もない人物であった。
妹達に美味しいものを食べさせてやりたいとの長女カヌ・エ・センナの計らいでもあり、この度見付かった北部森林のバハムートの迷宮に対する、防衛と警戒の意識共有の為でもあり、そして何よりグリダニアの角尊である二人とそれを支えるアンフェルツィートへの自然調査依頼の交渉の場でもあった。
この重要な場に、リムサから出せる最高級の食事を。そうして彼女、アルティコレートは指名されたのである。まあ、カヌ・エ様ともあれば殆どの調理師は呼び出すことが出来るだろう。彼女が提督の呼び出し以外を受け付けない事としているのも恐らく選択理由のひとつであったと考えられる。
アルティコレートとアンフェルツィートは冒険者仲間であり、それ故にまるで懇談会のようだとアルティコレートは評したのだが。
海の幸を主にした料理が並ぶ中、真剣に四人が話す姿をアルティコレートは遠目に眺めていた。
ラグナロク級第三艦。
ダラガブはバハムートの拘束艦であったのだ。そして、其処に残されたものは、つまりどうなっていることか……
かつてアルティコレート達がもたらしたその答えは、今ウェントブリダ達の手で確固たるものへと変わっている。
「バハムートの眷属と化していた、か……」
「はい、恐らくは……あの方も。厳戒のもとに置くべきであろうことは、恐らくは変わりません」
国の為、防護の為。話すアンフェルは珍しく真剣だった。
それはまた、何れ話すとして。
一通りの食事が平らげられ、おおよその話し合いも終わり、その真剣な空気をわたくしは破りに行く。
メインディッシュは既に出た後だけれども、こっちだってわたくしにとってはメインディッシュだ。
「御話お疲れ様ですわ、本日のデザート……ザッハトルテでございます。ふふっ、提督もたんと召し上がってくださいまし」
進み出て差し出す、黒くなめらかなケーキに、目を輝かせる姉弟と、喉を鳴らす猫みたいなエレゼンと。
満足そうに上品な笑い方を見せる、提督の姿がわたくしには御馳走だった。
護衛、という予定の筈だったのに。そう、当の本人縮こまっていた。鎮撫の儀を為した、白魔道士の彼女には、当然相応の地位があるのだが、ラヤ・オとア・ルンが護衛という名目で騙さねば表舞台に出てこない程に引っ込み思案でその自覚もない人物であった。
妹達に美味しいものを食べさせてやりたいとの長女カヌ・エ・センナの計らいでもあり、この度見付かった北部森林のバハムートの迷宮に対する、防衛と警戒の意識共有の為でもあり、そして何よりグリダニアの角尊である二人とそれを支えるアンフェルツィートへの自然調査依頼の交渉の場でもあった。
この重要な場に、リムサから出せる最高級の食事を。そうして彼女、アルティコレートは指名されたのである。まあ、カヌ・エ様ともあれば殆どの調理師は呼び出すことが出来るだろう。彼女が提督の呼び出し以外を受け付けない事としているのも恐らく選択理由のひとつであったと考えられる。
アルティコレートとアンフェルツィートは冒険者仲間であり、それ故にまるで懇談会のようだとアルティコレートは評したのだが。
海の幸を主にした料理が並ぶ中、真剣に四人が話す姿をアルティコレートは遠目に眺めていた。
ラグナロク級第三艦。
ダラガブはバハムートの拘束艦であったのだ。そして、其処に残されたものは、つまりどうなっていることか……
かつてアルティコレート達がもたらしたその答えは、今ウェントブリダ達の手で確固たるものへと変わっている。
「バハムートの眷属と化していた、か……」
「はい、恐らくは……あの方も。厳戒のもとに置くべきであろうことは、恐らくは変わりません」
国の為、防護の為。話すアンフェルは珍しく真剣だった。
それはまた、何れ話すとして。
一通りの食事が平らげられ、おおよその話し合いも終わり、その真剣な空気をわたくしは破りに行く。
メインディッシュは既に出た後だけれども、こっちだってわたくしにとってはメインディッシュだ。
「御話お疲れ様ですわ、本日のデザート……ザッハトルテでございます。ふふっ、提督もたんと召し上がってくださいまし」
進み出て差し出す、黒くなめらかなケーキに、目を輝かせる姉弟と、喉を鳴らす猫みたいなエレゼンと。
満足そうに上品な笑い方を見せる、提督の姿がわたくしには御馳走だった。
プロフィール
HN:
虚向風音
性別:
非公開
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