作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。
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(光の戦士は実在して、プレイヤーが『カミサマ』として憑依してるという設定)
終わりが始まりである、とはよくいったものだ。
時には心を曇らせたまま、時には超常の力を私達に丸投げして。
何時にもなく憂鬱な『カミサマ』との旅。
それもそう、なのかもしれない。
――歴史を動かすものってのは、何時だって疫病神だから。
『カミサマ』はそういって、旅路のなか、何度も私達に停滞を薦めた。
今なら止まれる、と。今なら失わなくて済むかもしれないと。
――私達は生きているのだ、どうせいつか死ぬのだよ。
私はそう返したのだったか――
祝賀の席。
私達、光の戦士には――他者に見せられるような笑顔はなく。
密やかに祝賀の席を抜け出しては、各々の場へと転がり込んでいた。
それぞれ理由は様々で、それぞれ場所も違うけれど、おもいはひとつ。
――これは勝利と、いえるのだろうか。
聡い彼女は、こういうだろう。『勝利にしていかねば、ならぬのです』と。
優しい彼女は、こういうだろう。『勝利と思わねば、辛過ぎるよ』と。
そして私は、ひとつの答えを出すだろう。
『勝利はそもそも、犠牲を美化する為にあるのだろう』と。
「オルシュファン様」
交流が再開した折には、是非ともわたくしと、わたくしの旦那様と。
釣りをしましょう、ラノシアの大海で。そう零した約束を、思い出す。
一方的に提案した約束だった。返事すら聞かなかった。
不確約な約束。でもそれがあるからこそ、未来をと願っていられた。
未来も彼は失われないと、妄信的に考えていられたのかもしれない。
「軍学者としては、失格でしたかもしれません」
いのちが失われるのは、何時も一瞬。彼だけじゃない、イゼルだって。
もう少し、予測できていれば、身構えていれば、咄嗟の対応がうまくいけば。
最善がこれであるとは、どうしても思えないのは、きっとわたくしが軍師であるから。
「わたくしはこれを、勝利とは言いたくありません……
余りにも、余りにも、失ったものが多すぎるのです」
喜びに沸き立つ祝賀の席では、到底言えぬ心の言葉。
嘆いても戻らぬ、戦友の命。後ろを向いては進まぬ、歩みの跡。
「けれど現実は塗り替えられませんから」
深く深く、眠りに易き森の緑の法衣を。
ふわり雪の上に広げ、彼女は祈る。
「せめてご心配はおかけしません。見守っているだけでは物足りなくなるような
賑やかで美しい都を――未来を、形作っていきますわ」
「歴史家が、この戦を辛勝でもなく、『勝利であった』といえますよう」
「いぜる」
「ねえ、いぜる。何処までいったの?」
黄昏色に染まる雲海の中空で、召喚師が問う。きっとあの激闘のあった場所。
エーテルに還った彼女が「いきつく」場所などたったひとつ。
わかっていても、認められずに。
「シヴァのエギを、生み出したら。貴女に会える?」
蛮神の力を制御し、使い魔とし、操るのが召喚師。
しかし、今彼女は知った。蛮神とは祈りとエーテルがもたらす偶像に過ぎぬと。
彼女の祈りが氷の乙女を蛮神として、使い魔として、手繰り寄せたとしても。
「それもまた氷結の幻想に過ぎない……よね」
それは今度は彼女が生む、ひとときの夢でしかない。
「あんまりだよ!オルシュファン様もエスティニアン様も、イゼルも、イゼルも……」
彼女を乗せる名のある竜は、ただ静かに彼女の慟哭を聞く。
彼女が思いっきり泣けるように、その心を阻害することないように。
「イゼルとも一緒に帰ってこれないなんて!」
いつしか涙声混じり、少女は叫ぶ。
幼子の駄々のようなその声で涙を振り払うように顔を振り。
「こんなの勝利って言えないよ――!」
『気は済んだか、娘』
「……ごめんなさい、ミドガルズオルム。我侭に付き合って貰っちゃって」
いつの間にか黄昏の雲は日の陰りと共に、薄闇を孕み柔らかな藍色となっていた。
静かな静かな雲海に、竜の羽ばたきの音だけが響く。
「……勝ったんだ。勝ち得たものは、あったんだ。そう思わないと、ちょっと辛過ぎるね。
その勝ち得たものを無駄にしない為にも私達は、進まなきゃね……」
終わりが始まりである、とはよくいったものだ。
時には心を曇らせたまま、時には超常の力を私達に丸投げして。
何時にもなく憂鬱な『カミサマ』との旅。
それもそう、なのかもしれない。
――歴史を動かすものってのは、何時だって疫病神だから。
『カミサマ』はそういって、旅路のなか、何度も私達に停滞を薦めた。
今なら止まれる、と。今なら失わなくて済むかもしれないと。
――私達は生きているのだ、どうせいつか死ぬのだよ。
私はそう返したのだったか――
祝賀の席。
私達、光の戦士には――他者に見せられるような笑顔はなく。
密やかに祝賀の席を抜け出しては、各々の場へと転がり込んでいた。
それぞれ理由は様々で、それぞれ場所も違うけれど、おもいはひとつ。
――これは勝利と、いえるのだろうか。
聡い彼女は、こういうだろう。『勝利にしていかねば、ならぬのです』と。
優しい彼女は、こういうだろう。『勝利と思わねば、辛過ぎるよ』と。
そして私は、ひとつの答えを出すだろう。
『勝利はそもそも、犠牲を美化する為にあるのだろう』と。
「オルシュファン様」
交流が再開した折には、是非ともわたくしと、わたくしの旦那様と。
釣りをしましょう、ラノシアの大海で。そう零した約束を、思い出す。
一方的に提案した約束だった。返事すら聞かなかった。
不確約な約束。でもそれがあるからこそ、未来をと願っていられた。
未来も彼は失われないと、妄信的に考えていられたのかもしれない。
「軍学者としては、失格でしたかもしれません」
いのちが失われるのは、何時も一瞬。彼だけじゃない、イゼルだって。
もう少し、予測できていれば、身構えていれば、咄嗟の対応がうまくいけば。
最善がこれであるとは、どうしても思えないのは、きっとわたくしが軍師であるから。
「わたくしはこれを、勝利とは言いたくありません……
余りにも、余りにも、失ったものが多すぎるのです」
喜びに沸き立つ祝賀の席では、到底言えぬ心の言葉。
嘆いても戻らぬ、戦友の命。後ろを向いては進まぬ、歩みの跡。
「けれど現実は塗り替えられませんから」
深く深く、眠りに易き森の緑の法衣を。
ふわり雪の上に広げ、彼女は祈る。
「せめてご心配はおかけしません。見守っているだけでは物足りなくなるような
賑やかで美しい都を――未来を、形作っていきますわ」
「歴史家が、この戦を辛勝でもなく、『勝利であった』といえますよう」
「いぜる」
「ねえ、いぜる。何処までいったの?」
黄昏色に染まる雲海の中空で、召喚師が問う。きっとあの激闘のあった場所。
エーテルに還った彼女が「いきつく」場所などたったひとつ。
わかっていても、認められずに。
「シヴァのエギを、生み出したら。貴女に会える?」
蛮神の力を制御し、使い魔とし、操るのが召喚師。
しかし、今彼女は知った。蛮神とは祈りとエーテルがもたらす偶像に過ぎぬと。
彼女の祈りが氷の乙女を蛮神として、使い魔として、手繰り寄せたとしても。
「それもまた氷結の幻想に過ぎない……よね」
それは今度は彼女が生む、ひとときの夢でしかない。
「あんまりだよ!オルシュファン様もエスティニアン様も、イゼルも、イゼルも……」
彼女を乗せる名のある竜は、ただ静かに彼女の慟哭を聞く。
彼女が思いっきり泣けるように、その心を阻害することないように。
「イゼルとも一緒に帰ってこれないなんて!」
いつしか涙声混じり、少女は叫ぶ。
幼子の駄々のようなその声で涙を振り払うように顔を振り。
「こんなの勝利って言えないよ――!」
『気は済んだか、娘』
「……ごめんなさい、ミドガルズオルム。我侭に付き合って貰っちゃって」
いつの間にか黄昏の雲は日の陰りと共に、薄闇を孕み柔らかな藍色となっていた。
静かな静かな雲海に、竜の羽ばたきの音だけが響く。
「……勝ったんだ。勝ち得たものは、あったんだ。そう思わないと、ちょっと辛過ぎるね。
その勝ち得たものを無駄にしない為にも私達は、進まなきゃね……」
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グリダニア新市街。
エーテライトプラザから西に離れたところにある双蛇党の本部では、ちょっとした騒ぎになっていた。
レアヌ達が拾ってきたオーバーテクノロジーを持った少女の一件である。
本部へ連れ込まれた彼女は、身体的には何の異常も無いことが確認された。何もなければ、その内目を覚ます事だろう。
しかし、問題となったのは、その彼女の持ち物だ。
彼女の近くに落ちていた、言わば銃剣といえる武器を始め、彼女は幾つかの銃火器を持っていた。
しかし、彼女の手持ちから銃弾は見付けられず。
いまのエオルゼアにエネルギー弾の技術はない、が、彼女の武装の弾はそれであるようにみえてならない。
「アラグの遺物を見ているかのような気分だな……それか、ライトニングの一件のようだ」
いくさびとの休日 2/6(後半)
夢を、見ていた。
仲間である筈の、アークス達から逃げるように、
私は奥へと駆け抜けていく。
私の命を討ち取らんとする彼らを、
時に大砲で撃ちとばし、長銃で撃ちぬき、銃剣で切りはらう。
それで、命までは取らぬ事は分かっていた。
それでも、肉を斬る感覚に、悲鳴に、強制送還の音に。
心が軋むのを、気付かない振りは出来なかった。
名も知らない一般アークスなら、それでもまだ。
けれど、逃げる先に立ち塞がったのは、先輩のアークスで。
目を見れば、言葉を交わせば、彼らもやはり暗示に囚われている事を思い知る。
銃口を向けながら、心の奥底で悲鳴を上げた。
他人がいる手前、強がって見せながら……
銃声が、響く。
「……っ!」
あれは過去だ。
つい最近の過去。
だから夢であるのは分かりきった事だ。
荒れた心拍を抑えるかのように、胸に手を当てた。
自身の拍動を微かに感じる。生きているのか、なんて思ったのはつい少し前に死を覚悟していたからだろうか。
「……ここは」
木製のベッドに、布のシーツ。小さな木造建築らしき一室に、どうやら私は寝かされているらしい。
惑星ナベリウスにはここまでの文化を持つ生物はいない。
どうやら、知らない星に飛ばされてしまったみたいだ。
……本当に、“違う星”だろうか
「いや、まさかな」
あの時自棄になって浮かべた言葉を思い出す。
どうせなら誰も私を知らないところへ。星ですらなく、世界すら違えば、確かに私を知るものなど誰もいない。
「まあ、それならそれでもいいか」
諦めのように呟いた言葉に、どうしてか心が痛んだ。
あの地にいても心苦しい癖に、どうしてだろう。
改めて、あたりを見渡す。
私が今着ているのは、ある伝承に伝わる天使の装束のレプリカ、「パニス・レプカ」
常に持ち歩いている休日着ではあるが、あの時着ていた覚えはない。
真っ白なシーツに、真っ白な掛け布団に、素朴な色合いが機械より自然に近い文化を思わせる。
木枠の窓の外から、森の木々の間を抜けた柔らかい光が差し込んでいる。
ベッドの傍らに、私のバックパックが置かれていることに気付いた。
その隣に愛用の銃剣、バウガーディンも無事なようだ。
大砲のフラントレイター、長銃のヴァルツフェニクスが圧縮パックに入っている。
幾つかの回復薬と、本来着ていた筈のものも含めた数着のコスチュームも入っている。
おおよそ中身は記憶と変わらない。情けない事にテレパイプを忘れていたのまで含めてである。
ただひとつ、マグのシャトがない。いや、あれはいないというべきか。
補助装置である「マグ」には自意識があり自立稼動をしている。
その仕組みは使用者であるアークスの私達でも詳しく知らないのだけれど、ペットみたいな扱いをされている事も多い。私も愛玩しているたちだ。
(しょうがない。探してやるしかないかなあ。どうも私、誰かに拾われたみたいだし)
取り敢えずこの軽装でいてもしょうがないし着替えよう。
そう思ってバックパックを置きなおしたところで木製の扉が開いた。
長耳の男女。ニューマン……にしては大きい。
なんせニューマン女性の最高身長は2mをぎりぎり越さない197cmと言われているのだ。
小さい者は140を越さないことすらある。2人は仮にニューマンだとしてもかなり高身長な部類には違いない。
もっとも、私の知らない星或いは世界であるならば、私の知らない人種であるのが妥当なのだけれど。
「目が覚めていたのか、気分は悪くないか?」
しかし驚く事に、彼は私と言葉が通じるらしい。
いや、正確に言えば異言語を話している。その意が何故だか理解できるのだ。
心配してくれているらしいその男性に、おそるおそる私も言葉を返す。
「大丈夫、ありがとう。貴方がたが助けてくれたのか?」
口をついで出たのもまた、異言語だった。どうやら今の私はこの星の言葉を無意識に話せるらしい。
「ええ、そういう事になるわ。体調の方が問題なければ悪いけれど少し質問に付き合ってくれる?」
「ん、ああ。構わないよ」
「星を渡る船の者……」
「それで、マルカートくんには戻るアテが今のところ無いと」
「ああ、バックパックにはテレポーターを作成する為の道具がなかったし。あったとしても私がここにいることが伝わっているか怪しい」
中空に情報端末を展開して見せる。驚く二人をよそに、見てみればオフラインの文字。
どうやらキャンプシップと繋がっていないだけでなく、オラクル船団の感知範囲外でもあるらしい。
「これが、オラクル文字?」
「うん、私は本当は君達と違う言語を使ってる。翻訳手段はあるんだけど、何時もならある程度のデータと本部の協力が必要なんだ。今この時点で会話が通じている理由は私にもわからない」
惑星を旅する私達は、「海」の弟シャオの演算能力によって自動相互翻訳を行い交流を図っている。
知識の海、アカシックレコード。私の世界ではそれは失われてしまったけれど、その血縁者がシャオで、彼もまた膨大な知識と、類まれな演算能力を持っている。
しかしながら飽くまで計算の末に結論を導き出すに過ぎず、その為には検証する為のデータとシャオの存在がいる。
端末がオフラインでは、少なくともシャオにこの状況は伝わっていない筈だ。
では何故話が通じるのか。都合が良いから深くは気にしない事にしたが。
「……参ったなあ」
しかしながら、問題は山積みだった。
違う星の民、と彼女は言った。
とても信じられない事ではあるが、彼女の武装や先程見せられた情報端末とやらを見せられては信じるしか無い。
彼女が帝国のスパイである可能性も全く無いわけではないが、それでもその帝国の技術すら彼女は上回っているように思える。
「そうだな、行く宛が無ければ俺達双蛇党の方で保護しよう」
「……すまないな、まあ元々武装警察のようなものの所属だ。戦力がいるなら……」
「いや、いい。寧ろその武装は使うな」
彼女の武器は未知数だ。
興味はあるが、人目に付けば噂となり、帝国の耳に入る可能性もある。
しかし、同時に彼女は自衛手段を失う事になる。彼女を保護するのは人道的な観点からだ、だが彼女にオーバーテクノロジーの行使の禁止を求めるのは……
打算的、としか言いようが無い。
彼女はまだ、帝国を知らない。正義も悪もない彼女なら、切欠さえあれば帝国の側に転ぶ可能性もある。
「えー、このせ……星にもエネミーはいるんだろう?」
「ああ、だが身の安全はこちらで確保する。だから悪いが……」
「わ、わかったわかったって。戻る手段が見付かるまで、宜しくお願いいたします」
やれやれといった風に要望に応じる彼女に、ほんの少し罪悪感を抱いた。穏便に事が済むと良いのだが……そう思った事は、後々考えれば所謂フラグというものであったのかもしれない。
エーテライトプラザから西に離れたところにある双蛇党の本部では、ちょっとした騒ぎになっていた。
レアヌ達が拾ってきたオーバーテクノロジーを持った少女の一件である。
本部へ連れ込まれた彼女は、身体的には何の異常も無いことが確認された。何もなければ、その内目を覚ます事だろう。
しかし、問題となったのは、その彼女の持ち物だ。
彼女の近くに落ちていた、言わば銃剣といえる武器を始め、彼女は幾つかの銃火器を持っていた。
しかし、彼女の手持ちから銃弾は見付けられず。
いまのエオルゼアにエネルギー弾の技術はない、が、彼女の武装の弾はそれであるようにみえてならない。
「アラグの遺物を見ているかのような気分だな……それか、ライトニングの一件のようだ」
いくさびとの休日 2/6(後半)
夢を、見ていた。
仲間である筈の、アークス達から逃げるように、
私は奥へと駆け抜けていく。
私の命を討ち取らんとする彼らを、
時に大砲で撃ちとばし、長銃で撃ちぬき、銃剣で切りはらう。
それで、命までは取らぬ事は分かっていた。
それでも、肉を斬る感覚に、悲鳴に、強制送還の音に。
心が軋むのを、気付かない振りは出来なかった。
名も知らない一般アークスなら、それでもまだ。
けれど、逃げる先に立ち塞がったのは、先輩のアークスで。
目を見れば、言葉を交わせば、彼らもやはり暗示に囚われている事を思い知る。
銃口を向けながら、心の奥底で悲鳴を上げた。
他人がいる手前、強がって見せながら……
銃声が、響く。
「……っ!」
あれは過去だ。
つい最近の過去。
だから夢であるのは分かりきった事だ。
荒れた心拍を抑えるかのように、胸に手を当てた。
自身の拍動を微かに感じる。生きているのか、なんて思ったのはつい少し前に死を覚悟していたからだろうか。
「……ここは」
木製のベッドに、布のシーツ。小さな木造建築らしき一室に、どうやら私は寝かされているらしい。
惑星ナベリウスにはここまでの文化を持つ生物はいない。
どうやら、知らない星に飛ばされてしまったみたいだ。
……本当に、“違う星”だろうか
「いや、まさかな」
あの時自棄になって浮かべた言葉を思い出す。
どうせなら誰も私を知らないところへ。星ですらなく、世界すら違えば、確かに私を知るものなど誰もいない。
「まあ、それならそれでもいいか」
諦めのように呟いた言葉に、どうしてか心が痛んだ。
あの地にいても心苦しい癖に、どうしてだろう。
改めて、あたりを見渡す。
私が今着ているのは、ある伝承に伝わる天使の装束のレプリカ、「パニス・レプカ」
常に持ち歩いている休日着ではあるが、あの時着ていた覚えはない。
真っ白なシーツに、真っ白な掛け布団に、素朴な色合いが機械より自然に近い文化を思わせる。
木枠の窓の外から、森の木々の間を抜けた柔らかい光が差し込んでいる。
ベッドの傍らに、私のバックパックが置かれていることに気付いた。
その隣に愛用の銃剣、バウガーディンも無事なようだ。
大砲のフラントレイター、長銃のヴァルツフェニクスが圧縮パックに入っている。
幾つかの回復薬と、本来着ていた筈のものも含めた数着のコスチュームも入っている。
おおよそ中身は記憶と変わらない。情けない事にテレパイプを忘れていたのまで含めてである。
ただひとつ、マグのシャトがない。いや、あれはいないというべきか。
補助装置である「マグ」には自意識があり自立稼動をしている。
その仕組みは使用者であるアークスの私達でも詳しく知らないのだけれど、ペットみたいな扱いをされている事も多い。私も愛玩しているたちだ。
(しょうがない。探してやるしかないかなあ。どうも私、誰かに拾われたみたいだし)
取り敢えずこの軽装でいてもしょうがないし着替えよう。
そう思ってバックパックを置きなおしたところで木製の扉が開いた。
長耳の男女。ニューマン……にしては大きい。
なんせニューマン女性の最高身長は2mをぎりぎり越さない197cmと言われているのだ。
小さい者は140を越さないことすらある。2人は仮にニューマンだとしてもかなり高身長な部類には違いない。
もっとも、私の知らない星或いは世界であるならば、私の知らない人種であるのが妥当なのだけれど。
「目が覚めていたのか、気分は悪くないか?」
しかし驚く事に、彼は私と言葉が通じるらしい。
いや、正確に言えば異言語を話している。その意が何故だか理解できるのだ。
心配してくれているらしいその男性に、おそるおそる私も言葉を返す。
「大丈夫、ありがとう。貴方がたが助けてくれたのか?」
口をついで出たのもまた、異言語だった。どうやら今の私はこの星の言葉を無意識に話せるらしい。
「ええ、そういう事になるわ。体調の方が問題なければ悪いけれど少し質問に付き合ってくれる?」
「ん、ああ。構わないよ」
「星を渡る船の者……」
「それで、マルカートくんには戻るアテが今のところ無いと」
「ああ、バックパックにはテレポーターを作成する為の道具がなかったし。あったとしても私がここにいることが伝わっているか怪しい」
中空に情報端末を展開して見せる。驚く二人をよそに、見てみればオフラインの文字。
どうやらキャンプシップと繋がっていないだけでなく、オラクル船団の感知範囲外でもあるらしい。
「これが、オラクル文字?」
「うん、私は本当は君達と違う言語を使ってる。翻訳手段はあるんだけど、何時もならある程度のデータと本部の協力が必要なんだ。今この時点で会話が通じている理由は私にもわからない」
惑星を旅する私達は、「海」の弟シャオの演算能力によって自動相互翻訳を行い交流を図っている。
知識の海、アカシックレコード。私の世界ではそれは失われてしまったけれど、その血縁者がシャオで、彼もまた膨大な知識と、類まれな演算能力を持っている。
しかしながら飽くまで計算の末に結論を導き出すに過ぎず、その為には検証する為のデータとシャオの存在がいる。
端末がオフラインでは、少なくともシャオにこの状況は伝わっていない筈だ。
では何故話が通じるのか。都合が良いから深くは気にしない事にしたが。
「……参ったなあ」
しかしながら、問題は山積みだった。
違う星の民、と彼女は言った。
とても信じられない事ではあるが、彼女の武装や先程見せられた情報端末とやらを見せられては信じるしか無い。
彼女が帝国のスパイである可能性も全く無いわけではないが、それでもその帝国の技術すら彼女は上回っているように思える。
「そうだな、行く宛が無ければ俺達双蛇党の方で保護しよう」
「……すまないな、まあ元々武装警察のようなものの所属だ。戦力がいるなら……」
「いや、いい。寧ろその武装は使うな」
彼女の武器は未知数だ。
興味はあるが、人目に付けば噂となり、帝国の耳に入る可能性もある。
しかし、同時に彼女は自衛手段を失う事になる。彼女を保護するのは人道的な観点からだ、だが彼女にオーバーテクノロジーの行使の禁止を求めるのは……
打算的、としか言いようが無い。
彼女はまだ、帝国を知らない。正義も悪もない彼女なら、切欠さえあれば帝国の側に転ぶ可能性もある。
「えー、このせ……星にもエネミーはいるんだろう?」
「ああ、だが身の安全はこちらで確保する。だから悪いが……」
「わ、わかったわかったって。戻る手段が見付かるまで、宜しくお願いいたします」
やれやれといった風に要望に応じる彼女に、ほんの少し罪悪感を抱いた。穏便に事が済むと良いのだが……そう思った事は、後々考えれば所謂フラグというものであったのかもしれない。
どれくらいの間光の海に呑まれていたのだろう。
それだけで、このテレプールの転移が異常であることはわかる。
しかし、わかるのはそれだけで、目を開ける事も出来ない。身体は何一つ動かせない。
まるでフォトンの海に沈んでいく感覚に、死すらも覚悟する。
世間で英雄と喚ばれようが世界を救おうが。
当人の心はぼろぼろで、その末路もこんな有様で。
我が身のあまりの酷さに、心の中で狂った笑いが浮かんで消えた。
嗚呼いっそ次目が覚める時は、誰も私のことを知らなくたって──
──悪いものではないかもしれないなあ。
【いくさびとの休日 2/6】
黒衣森、中央森林。グリダニアを南に出てすぐに広がるこの地方は敵も少なく、危険も少ない。
森は密度が低く、ひらけていて見晴らしも良い。
市街の巡回の次、隊に宛がわれた任務はこの中央森林の哨戒であった。
バノック練兵場、グリーンティア択伐地、そしてベントブランチ牧場に挨拶をし、最後にエバーシェードに寄り長老の木の安全を確かめるのがこの哨戒の目的である。
今日、一行は既にベントブランチ牧場への挨拶も済ませ、最後の巡回地点へと向かうところであった。
「道中は特に異常なし、と」
小隊の長、レアヌ・カトリィは長老の木への一本道を見据えながら言葉を零した。
道中、いたずら好きのキキルン族や、好戦的なダイアマイトもおり、小さな戦闘こそあったものの、流石に正規の隊が困る相手ではない。
「後は、此処だけね」
大精霊の宿るという、長老の木。回りを泉に囲まれたこの大樹は、この黒衣森で一番大切な樹ともいえる。
しかしながら、精霊の樹であるためか、強い魔物が近付く事も少なく、レアヌ達も然程警戒する事無く樹のもとへと近付いていく。
ウルズに勝るとも劣らない、清涼な空気と微かな葉を揺らす風の音。
あまりの美しさに溜め息が出るような、光景。
「あれ?なにか、ううん、誰かいますよー?」
が、そこに異物があることに隊の一人、カスリは気が付く。
大樹のくすんだ茶色の幹に、一際映える金の髪。
真っ白なキャミソールのようなドレスワンピースを身に纏い、投げ出されている四肢はその先まで黒く長い艶のあるグローブとブーツに覆われている。
傍らには武器と思われるものも落ちている。
その姿形は銃のようであるが、その銃口の片側に刃も取り付けられている。
「手傷……は無いようですね。気を失っているだけのようです」
「隊長、これ変ですよ-。銃口みたいなものがあるのに、弾を入れる処が見当たらないですー」
「この子、何者なのかしら……」
精霊達は、この倒れている彼女を異物として見做している様子は無い。
それは例えばドライアドといった、精霊の影響下にある魔物達が彼女を襲う様子の無いことからも明らかで、レアヌは戸惑う。
ただ、この大樹の下が安全である保証がある訳でもなく、そもそも放っておけば彼女は野垂れ死ぬ可能性すらある。
「仕方ないわ、この子を本部へつれていきましょう。ジン、彼女の所持品と思われるものを拾い集めて。……触るのはいいけれど壊さないでよ、カスリ」
幹に身を預ける少女の背中と、投げ出された足の下に、それぞれ片腕を潜らせて抱き上げる。
カスリが何やら噴き出した気がするが、レアヌには何故か分からない。
隊員を促し、自らも歩き出す。
人気の無くなったエバーシェードに、小さな影が現れた。
黒ベースの体に、紫の目と耳をもつ、狐のような尻尾を持った宙を浮くネコのようなもの。
それは迷うこと無くこの場を去ったレアヌ達の後を追うようにエバーシェードを飛び出していった。
それだけで、このテレプールの転移が異常であることはわかる。
しかし、わかるのはそれだけで、目を開ける事も出来ない。身体は何一つ動かせない。
まるでフォトンの海に沈んでいく感覚に、死すらも覚悟する。
世間で英雄と喚ばれようが世界を救おうが。
当人の心はぼろぼろで、その末路もこんな有様で。
我が身のあまりの酷さに、心の中で狂った笑いが浮かんで消えた。
嗚呼いっそ次目が覚める時は、誰も私のことを知らなくたって──
──悪いものではないかもしれないなあ。
【いくさびとの休日 2/6】
黒衣森、中央森林。グリダニアを南に出てすぐに広がるこの地方は敵も少なく、危険も少ない。
森は密度が低く、ひらけていて見晴らしも良い。
市街の巡回の次、隊に宛がわれた任務はこの中央森林の哨戒であった。
バノック練兵場、グリーンティア択伐地、そしてベントブランチ牧場に挨拶をし、最後にエバーシェードに寄り長老の木の安全を確かめるのがこの哨戒の目的である。
今日、一行は既にベントブランチ牧場への挨拶も済ませ、最後の巡回地点へと向かうところであった。
「道中は特に異常なし、と」
小隊の長、レアヌ・カトリィは長老の木への一本道を見据えながら言葉を零した。
道中、いたずら好きのキキルン族や、好戦的なダイアマイトもおり、小さな戦闘こそあったものの、流石に正規の隊が困る相手ではない。
「後は、此処だけね」
大精霊の宿るという、長老の木。回りを泉に囲まれたこの大樹は、この黒衣森で一番大切な樹ともいえる。
しかしながら、精霊の樹であるためか、強い魔物が近付く事も少なく、レアヌ達も然程警戒する事無く樹のもとへと近付いていく。
ウルズに勝るとも劣らない、清涼な空気と微かな葉を揺らす風の音。
あまりの美しさに溜め息が出るような、光景。
「あれ?なにか、ううん、誰かいますよー?」
が、そこに異物があることに隊の一人、カスリは気が付く。
大樹のくすんだ茶色の幹に、一際映える金の髪。
真っ白なキャミソールのようなドレスワンピースを身に纏い、投げ出されている四肢はその先まで黒く長い艶のあるグローブとブーツに覆われている。
傍らには武器と思われるものも落ちている。
その姿形は銃のようであるが、その銃口の片側に刃も取り付けられている。
「手傷……は無いようですね。気を失っているだけのようです」
「隊長、これ変ですよ-。銃口みたいなものがあるのに、弾を入れる処が見当たらないですー」
「この子、何者なのかしら……」
精霊達は、この倒れている彼女を異物として見做している様子は無い。
それは例えばドライアドといった、精霊の影響下にある魔物達が彼女を襲う様子の無いことからも明らかで、レアヌは戸惑う。
ただ、この大樹の下が安全である保証がある訳でもなく、そもそも放っておけば彼女は野垂れ死ぬ可能性すらある。
「仕方ないわ、この子を本部へつれていきましょう。ジン、彼女の所持品と思われるものを拾い集めて。……触るのはいいけれど壊さないでよ、カスリ」
幹に身を預ける少女の背中と、投げ出された足の下に、それぞれ片腕を潜らせて抱き上げる。
カスリが何やら噴き出した気がするが、レアヌには何故か分からない。
隊員を促し、自らも歩き出す。
人気の無くなったエバーシェードに、小さな影が現れた。
黒ベースの体に、紫の目と耳をもつ、狐のような尻尾を持った宙を浮くネコのようなもの。
それは迷うこと無くこの場を去ったレアヌ達の後を追うようにエバーシェードを飛び出していった。
周囲が皆、敵となる。
そんな状況、犯罪者で会ったとしても稀なこと。
ましてや、その敵が皆命を奪うつもりで此方を見ているだなんて。
そんな恐怖体験、他に体験するものがでるだろうか。
出ないだろうな、きっと。
【いくさびとの休日】
旅団『オラクル』
その中に存在する『アークス』なる組織の拠点船、アークスシップのひとつ
4番艦『アンスール』
ふらりと任務用の小型船であるキャンプシップに乗り込んでいく少女の影を、不安げに見送るクエスト管理官。
この船はいま、問題児を抱えていた。
其れがまさに、いま任務に出て行った少女だ。
長い金髪、未発達がちではあるが、ラインの美しい肢体。その背中には一丁の長銃を背負っているが、彼女のメインの獲物は大砲だ。
一見、普通の少女に見える彼女の……問題は、態度。
彼女はクエスト管理官からクエストを受けない。
いつもああやって直接キャンプシップに乗り込み、其処で無人の簡易カウンターから受けている。
彼女は、味方であるはずのアークスを、避けている。
「……本当に、放っておいていいんでしょうか」
「しゃあねえだろ、あいつ自身がそれを望んでんだ」
独りごちた管理官に返事を返す声。
気さくな男性の声だが、それが重役のものであると気付き、管理官は慌てて居住まいを正す。
「あー、そうあらたまんでも大丈夫だ。で、あいつは何処行きのクエストを受けた?」
「……惑星ハルコタンのようですね。またダーカーの殲滅に行かれるようです」
惑星ハルコタン。
独自の文化を築く惑星。
黒の民と、白の民。ふたつの国は不可侵。
しかしその均衡を、他者を侵食するダーカーという存在とその長ダークファルスが壊してしまった。
ダーカーが侵食するのは万物。
それゆえに余りにも危険で、何者とも相容れない。
人間だって侵食される。
アークスは、そのダーカーに対抗する為に作られた組織だ。
それだけが仕事、というわけではないが、その一員であるのだからダーカー討伐自体は何等おかしいことではない。
彼女において問題なのは、その頻度。
「ありがとうさん、そうか、またか……」
「本人の希望であり、ゼノ様の了承もある以上、野暮なのは分かっています……ですが、あまりに彼女は……」
クエスト管理官が、少女のクエスト履歴を開きながら漏らす。
朝から夜迄、ただひたすらダーカー討伐に関するクエストを繰り返している履歴。
それは専ら単独行動であることも記録されている。
「気持ちはわかるんだがな」
見せられた男性、アークスの司令塔である六芒均衡、『四』のゼノは困った声で返した。
「いまのあいつにしてやれることは、事故死しないよう見張らせてやるくらいだからな……」
元々、戦うことは好きな方だった。
かけひきはもっと好きで、戦技大会では大騒ぎしたものだ。
元々、ダーカーは嫌いだった。
全てを侵食して理性を奪い、仲間とするダーカーのやり口は何だか気に入らなかったのだ。
化け物はより高みを目指すうち、その姿かたちは人間に近付いていくものなのだと、友は言っていた。
何故人間なのかはわからない。
けれど、ダーカーの親玉であるダークファルスも同じ結論に至ったのかもしれない。彼らは専ら人間を侵食して我が身とする。
やはり其れが、気に食わなかった。
元々そんな人間だから、任務に没頭する日々は辛くない筈だと思っていた。
忙殺されていれば、独りも辛くないと思っていた。
「あれ、打ち止め?今日は呆気ないなあ」
惑星ハルコタンの白の民の街。
賽子のようなダーカーが黒い霧と散っていくのを私は見送る。
ただただダーカーと戦う日々は、相手が居なくなると、急に空虚で不安になる。
別に四六時中任務をしていなきゃいけない理由はないのだが、私にはアークスシップに長居したくない理由があった。
同業者、アークスに対する恐怖である。
詳しく人に語れる程、まだ心の傷は癒えていない。誰かに吐露することが出来たら、私の傷は癒えるのだろうか。けれど、アークスといえるアークスは殆どがみな、その一件を知っている。
視線を受けると身が竦む。
それに気付いてか、哀れみや心配の視線も絶えない。
そっと私から視線をそらすものも居れば、私に謝ろうと個人に宛がわれるマイルームまでやってきたものもいた。
私を、あの事件を、知らないものはいない。
その事実が私を苦しめる。
味方を味方と認識出来なくなってしまった我が身を、誰も彼も、悪いと思うことはなく、寧ろ哀れみ心配する。
味方に身構える罪悪感や、味方を敵視する恐怖もある。気まずくてとてもじゃないが、パーティは組めない。
視線が痛くて、人の居る場所にいられなくなった。
「居ないものは仕方ないや、他の任地に行こう」
アークスシップに戻る事無く、新たに別の任務を受ける。
惑星ナベリウス、森林のダーカー討伐だ。
惑星ナベリウスという星はダークファルスのうちの一神【巨躯】が封印されていた惑星。
今は封印が開放されてしまったが、それでもダーカーの数は多い。
キャンプシップから該当地域へは、テレプールと呼ばれる没入型転移装置で移動する。
テレプールに飛び込めば定められた座標へ降り立つ事ができるというわけだ。
該当地域へ到着したとのアナウンスがあり、同時にテレプールへの道も開かれる。
いざ降りたとうと、その目前に立ったとき……キャンプシップの船体が激しく揺れた。
「わわわ、まっず」
『マルカート!キャンプシップの様子が変だ、戻ってこれるかいっ』
慌てて手摺りを掴もうと手を伸ばす。
しかし、掴めたものはなく。
「ごめ、シャオ、無理……!」
私は座標も不確かなテレプールへと落ちていく。
鮮やかに明るい水色の光に、意識すら焼き落とされながら。
そんな状況、犯罪者で会ったとしても稀なこと。
ましてや、その敵が皆命を奪うつもりで此方を見ているだなんて。
そんな恐怖体験、他に体験するものがでるだろうか。
出ないだろうな、きっと。
【いくさびとの休日】
旅団『オラクル』
その中に存在する『アークス』なる組織の拠点船、アークスシップのひとつ
4番艦『アンスール』
ふらりと任務用の小型船であるキャンプシップに乗り込んでいく少女の影を、不安げに見送るクエスト管理官。
この船はいま、問題児を抱えていた。
其れがまさに、いま任務に出て行った少女だ。
長い金髪、未発達がちではあるが、ラインの美しい肢体。その背中には一丁の長銃を背負っているが、彼女のメインの獲物は大砲だ。
一見、普通の少女に見える彼女の……問題は、態度。
彼女はクエスト管理官からクエストを受けない。
いつもああやって直接キャンプシップに乗り込み、其処で無人の簡易カウンターから受けている。
彼女は、味方であるはずのアークスを、避けている。
「……本当に、放っておいていいんでしょうか」
「しゃあねえだろ、あいつ自身がそれを望んでんだ」
独りごちた管理官に返事を返す声。
気さくな男性の声だが、それが重役のものであると気付き、管理官は慌てて居住まいを正す。
「あー、そうあらたまんでも大丈夫だ。で、あいつは何処行きのクエストを受けた?」
「……惑星ハルコタンのようですね。またダーカーの殲滅に行かれるようです」
惑星ハルコタン。
独自の文化を築く惑星。
黒の民と、白の民。ふたつの国は不可侵。
しかしその均衡を、他者を侵食するダーカーという存在とその長ダークファルスが壊してしまった。
ダーカーが侵食するのは万物。
それゆえに余りにも危険で、何者とも相容れない。
人間だって侵食される。
アークスは、そのダーカーに対抗する為に作られた組織だ。
それだけが仕事、というわけではないが、その一員であるのだからダーカー討伐自体は何等おかしいことではない。
彼女において問題なのは、その頻度。
「ありがとうさん、そうか、またか……」
「本人の希望であり、ゼノ様の了承もある以上、野暮なのは分かっています……ですが、あまりに彼女は……」
クエスト管理官が、少女のクエスト履歴を開きながら漏らす。
朝から夜迄、ただひたすらダーカー討伐に関するクエストを繰り返している履歴。
それは専ら単独行動であることも記録されている。
「気持ちはわかるんだがな」
見せられた男性、アークスの司令塔である六芒均衡、『四』のゼノは困った声で返した。
「いまのあいつにしてやれることは、事故死しないよう見張らせてやるくらいだからな……」
元々、戦うことは好きな方だった。
かけひきはもっと好きで、戦技大会では大騒ぎしたものだ。
元々、ダーカーは嫌いだった。
全てを侵食して理性を奪い、仲間とするダーカーのやり口は何だか気に入らなかったのだ。
化け物はより高みを目指すうち、その姿かたちは人間に近付いていくものなのだと、友は言っていた。
何故人間なのかはわからない。
けれど、ダーカーの親玉であるダークファルスも同じ結論に至ったのかもしれない。彼らは専ら人間を侵食して我が身とする。
やはり其れが、気に食わなかった。
元々そんな人間だから、任務に没頭する日々は辛くない筈だと思っていた。
忙殺されていれば、独りも辛くないと思っていた。
「あれ、打ち止め?今日は呆気ないなあ」
惑星ハルコタンの白の民の街。
賽子のようなダーカーが黒い霧と散っていくのを私は見送る。
ただただダーカーと戦う日々は、相手が居なくなると、急に空虚で不安になる。
別に四六時中任務をしていなきゃいけない理由はないのだが、私にはアークスシップに長居したくない理由があった。
同業者、アークスに対する恐怖である。
詳しく人に語れる程、まだ心の傷は癒えていない。誰かに吐露することが出来たら、私の傷は癒えるのだろうか。けれど、アークスといえるアークスは殆どがみな、その一件を知っている。
視線を受けると身が竦む。
それに気付いてか、哀れみや心配の視線も絶えない。
そっと私から視線をそらすものも居れば、私に謝ろうと個人に宛がわれるマイルームまでやってきたものもいた。
私を、あの事件を、知らないものはいない。
その事実が私を苦しめる。
味方を味方と認識出来なくなってしまった我が身を、誰も彼も、悪いと思うことはなく、寧ろ哀れみ心配する。
味方に身構える罪悪感や、味方を敵視する恐怖もある。気まずくてとてもじゃないが、パーティは組めない。
視線が痛くて、人の居る場所にいられなくなった。
「居ないものは仕方ないや、他の任地に行こう」
アークスシップに戻る事無く、新たに別の任務を受ける。
惑星ナベリウス、森林のダーカー討伐だ。
惑星ナベリウスという星はダークファルスのうちの一神【巨躯】が封印されていた惑星。
今は封印が開放されてしまったが、それでもダーカーの数は多い。
キャンプシップから該当地域へは、テレプールと呼ばれる没入型転移装置で移動する。
テレプールに飛び込めば定められた座標へ降り立つ事ができるというわけだ。
該当地域へ到着したとのアナウンスがあり、同時にテレプールへの道も開かれる。
いざ降りたとうと、その目前に立ったとき……キャンプシップの船体が激しく揺れた。
「わわわ、まっず」
『マルカート!キャンプシップの様子が変だ、戻ってこれるかいっ』
慌てて手摺りを掴もうと手を伸ばす。
しかし、掴めたものはなく。
「ごめ、シャオ、無理……!」
私は座標も不確かなテレプールへと落ちていく。
鮮やかに明るい水色の光に、意識すら焼き落とされながら。
確りとした止めを刺さなかったからか。最後に頭を打ったからか。生前をあまりにも求められたが為に、魂まで黄泉返っていた為か。
「本当に、貴女リアヴィヌなの?」
「生憎ね。……久しぶりね、四人とも」
思えば、彼女は古い友のようなものであったな、とふと思い出す。止まっていた彼女の時間と、動き続けていた私達の時間の溝。
私に抱き締められている状況に大した驚きも見せないで、身構えたままのウェントを、不安がるアンフェルを、訝しそうに見上げるユイを、彼女は見やった。
「ユイ、何だか大人びた?」
「其処のお姉ちゃんが見てられないだけです」
「ああ、冒険中のこいつは知らなかったものね」
あの頃は、未だ。腕の中に大事にしまっていた養い子のユイ。
「ウェント、貴女ナイトになったのね」
「守りたいものが出来たからさ、でなくてはこんな危険に身は晒すまい」
「……そうね、彼もあっという間のことだった」
ウェントは彼女に出会った頃、初めて弓を取った。弓術士としては、彼女が先輩であったとも言えた。
「貴女も冒険者だったのね、意外だわ……アンフェル」
「かつての私はどんな人だったのですか?」
「え?……そうね。タムタラに行く前、貴女に祈って貰ったのよ。私は覚えているわ、見ず知らずの私に貴女が真剣だったこと」
其処にいたのは、アンフェルではないアンフェル。静かにグリダニアの地で祈りを捧げていたらしい、幻術士のアンフェルは、昔から本質は変わっていないのかもしれない。
三種三様の会話。空白を埋めるようなやり取りを、彼女はとても楽しそうにした。幸せそうに、目を細める彼女の青く血の気のない唇だけが、彼女が死者であることを思い出させる。
「アルト、大きくなった気がするわ」
彼女の時間は、終わったまま。新たに時砂が足されることはない。
「エレゼンの容姿なんて、数年でも大して変わらないわよ」
「そうなんだけど。自棄酒に付き合ってくれたあの頃は、もっと……。ううん、大人になったのね、って」
かつて、同じ砂の家に集っていた。
ただ、何も考えないで下働きをするのが全てであった彼女と、あの頃は何度も酒に酔った。
彼女は、忘れたくて。私は、なりたての大人の楽しみに酔いたくて。
いつもどちらかがつぶれるまで飲んで、気がついたらへんてこな事になっていたこともあった。
「……私はあの頃のままなのね」
彼女の顔が、曇る。
目を伏せても、涙は流れる事はない。抱き締めるわたくしに、身体をよせて、生温い体温が残酷な迄にひんやりと冷たく感じた。
「リアヴィヌ」
「眠るべきだと思う?貴女達なら、痛くないようにやってくれるのかもしれないけど」
此処にいる彼女は死んでいる。
けれども、今この状況を説明するなら、死に損ねたというのが正しいのかもしれない。魔物になって、理を外れて、本来彼女は、彼女として目を覚ますには色々と足りなかった筈だった。
エッダは、彼女に、身体も魂も求めた。だから、彼女の身体には、何らかの手段で無理矢理に喚び戻された彼女の魂が収められていた。だから、その身体で目を覚ましてしまったのかもしれない。
不幸な、ことに。
「死ぬのが怖いの、あの、何もかもが今度こそ私の手から離れていく感覚が」
わたくしの体温を分けて貰おうとでもするかのように。熱を持たない彼女は、わたくしにすがった。
すがるほか、なかったのでしょう。
***
取り敢えず、「死に損ねたらどうする?」としては此処でおちておきます。救いがなさそうなタイミングで。
「本当に、貴女リアヴィヌなの?」
「生憎ね。……久しぶりね、四人とも」
思えば、彼女は古い友のようなものであったな、とふと思い出す。止まっていた彼女の時間と、動き続けていた私達の時間の溝。
私に抱き締められている状況に大した驚きも見せないで、身構えたままのウェントを、不安がるアンフェルを、訝しそうに見上げるユイを、彼女は見やった。
「ユイ、何だか大人びた?」
「其処のお姉ちゃんが見てられないだけです」
「ああ、冒険中のこいつは知らなかったものね」
あの頃は、未だ。腕の中に大事にしまっていた養い子のユイ。
「ウェント、貴女ナイトになったのね」
「守りたいものが出来たからさ、でなくてはこんな危険に身は晒すまい」
「……そうね、彼もあっという間のことだった」
ウェントは彼女に出会った頃、初めて弓を取った。弓術士としては、彼女が先輩であったとも言えた。
「貴女も冒険者だったのね、意外だわ……アンフェル」
「かつての私はどんな人だったのですか?」
「え?……そうね。タムタラに行く前、貴女に祈って貰ったのよ。私は覚えているわ、見ず知らずの私に貴女が真剣だったこと」
其処にいたのは、アンフェルではないアンフェル。静かにグリダニアの地で祈りを捧げていたらしい、幻術士のアンフェルは、昔から本質は変わっていないのかもしれない。
三種三様の会話。空白を埋めるようなやり取りを、彼女はとても楽しそうにした。幸せそうに、目を細める彼女の青く血の気のない唇だけが、彼女が死者であることを思い出させる。
「アルト、大きくなった気がするわ」
彼女の時間は、終わったまま。新たに時砂が足されることはない。
「エレゼンの容姿なんて、数年でも大して変わらないわよ」
「そうなんだけど。自棄酒に付き合ってくれたあの頃は、もっと……。ううん、大人になったのね、って」
かつて、同じ砂の家に集っていた。
ただ、何も考えないで下働きをするのが全てであった彼女と、あの頃は何度も酒に酔った。
彼女は、忘れたくて。私は、なりたての大人の楽しみに酔いたくて。
いつもどちらかがつぶれるまで飲んで、気がついたらへんてこな事になっていたこともあった。
「……私はあの頃のままなのね」
彼女の顔が、曇る。
目を伏せても、涙は流れる事はない。抱き締めるわたくしに、身体をよせて、生温い体温が残酷な迄にひんやりと冷たく感じた。
「リアヴィヌ」
「眠るべきだと思う?貴女達なら、痛くないようにやってくれるのかもしれないけど」
此処にいる彼女は死んでいる。
けれども、今この状況を説明するなら、死に損ねたというのが正しいのかもしれない。魔物になって、理を外れて、本来彼女は、彼女として目を覚ますには色々と足りなかった筈だった。
エッダは、彼女に、身体も魂も求めた。だから、彼女の身体には、何らかの手段で無理矢理に喚び戻された彼女の魂が収められていた。だから、その身体で目を覚ましてしまったのかもしれない。
不幸な、ことに。
「死ぬのが怖いの、あの、何もかもが今度こそ私の手から離れていく感覚が」
わたくしの体温を分けて貰おうとでもするかのように。熱を持たない彼女は、わたくしにすがった。
すがるほか、なかったのでしょう。
***
取り敢えず、「死に損ねたらどうする?」としては此処でおちておきます。救いがなさそうなタイミングで。
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