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作中の『カミサマ』とは、Articolato Rosatraum Waentbryda Sterwilfin White Mithra Oblige Saccade のプレイヤーのこと。  
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十二神大聖堂。
私は、その聖堂内に設けられていた、ひとつの部屋におりました。

「気付いてあげられなくて、本当にごめんなさい……」

作業机がひとつ、その上に白い封筒に納められた書。私はそれを手にし、涙が溢れます。

"何時かこの部屋が暴かれた日の為に"

そう書かれた封書の中身は……"アンフェルツィート"の遺書でした。
ユニコーンに暴かれたこの部屋にいまいるのはわたくしだけですが、もう少しすれば本来の部屋の主もくる事でしょう。世界には、この部屋の主として定義された、別人なのであり、本物の彼女は本当に身を投げてしまわれたのだともまた、ユニコーンから伺いました。
ユニコーンが渡してきた、ぼろぼろの帽子は、確かに彼女が道士として被っていた帽子。


わたくしはそれを抱いて、そっと声を殺し泣きました。もうすぐくる人にこの涙を見せる訳にはいかないでしょう。
彼女にとってもまた、辛い部屋に違いないでしょうから。







「センナ様は此方におられます」

運命の時が来た。
あの部屋の扉を開く。先に来ていたセンナ様の後ろ姿が見えた。
真っ白な部屋、閉められたレースのカーテン。深い木の色をした作業机、その上の白い一通の封筒。
隣に立つ『アンフェルツィート』が目を見開き凍り付くのが見えた。先に聞いた話では、この『アンフェルツィート』に"アンフェルツィート"としての記憶は自分の存在を混同するようになってから僅かに覚えるようになったらしいのだと聞いていたが。

「この部屋に、覚えはありますか」

息を飲むばかりで、返事はない。
本当にユニコーンの言う通り、身体だけ同じ……別人であったのか。前の身体の持ち主を追憶し、望まれるままに倣った結果、本物そっくりになりきる事を覚えてしまった、全くの他人であったのか。

「ありませんか、此処は貴女が死を決意した部屋です」
「ぁ、ああ、ああぁ……!」


隣の彼女が、頭を抱えて蹲る。罪悪感を抱くものの、此処で止めては、彼女は染み付いたなりきりをもう自分で剥がせない。


「貴女は……海に身を投げた、アンフェルツィートではありませんね?」
「ちが、や、嫌ああぁ……」


精神負荷が意識の線を焼き千切ってしまったのか、彼女はとうとう崩れ落ちた。助けおこし、命には別状無いことを確かめる。心配そうに振り返るセンナ様に、「気をやってしまわれただけです」と返し、アンフェル様を抱き上げた。
背の高さの割に、彼女は軽い。
作業室の奥に設けられた簡易ベッドに寝かせてやることにした。


「自分が別人であることを受け入れられなくなるまで、心底なりきってしまわれていたのですね……」
「でしょう、ね。此処までとは……思っておらず」


望まれるまま、演じ続け。
次第にそれを幸せに感じるようになり。地位も人望もあるその環境にすがるようにしがみつき。何時しか我すら忘れていた。
苦痛に顔を歪めたまま意識を失っているいまの彼女は、何を思っているのだろう。


「苦しかったでしょう、貴女に貴女以外を求められたこと。此処まで来てしまった以上、もう思い出さない方が幸せだったのかもしれませんね、貴女が何者であったかということ」

そっとセンナ様がアンフェル様の頬に触れた。その輪郭を優しくなぞる。海に身を投げた筈なのに、なんの障害も持たぬ違和感を除けば、彼女の姿は確かに"アンフェルツィート"その人だ。


「ただそうだとしても……この件の真実と、偽らざる貴女の心を確かめたかったのです」


他人として生きる生。
それが、本当の本当に幸せなのか。私達は思えずにいた。

「アンフェルツィートではない、貴女と……きちんと、お話がしたいのです」


















ふと、暗闇のなかにいることに気が付いた。
真っ暗で何も見えない処、私の片腕を引く姿がある。
褐色の肌、灰銀の髪。深紅の瞳が笑いかける。わたしかな?
引かれるままにそちらに向かおうと思うと、もう一方の腕を誰かに引かれた。

柔らかな肌色、鮮やかな紺青の髪。萌える草色の瞳が怒りを露に私の逆手を引く。はっ、とした。あれ、わたし?

どちらに手を引くのも私だと、私の記憶は訴えた。けれども、そんな筈がない。私はひとりだ、と真っ黒くろすけの私の姿を見て思う。どちらに応じるべきか戸惑っているうちに、二人は本気で引っ張り始めた。

やめて、助けて、『わたし』が裂けちゃうよ!
そう叫ぼうとして……私は飛び起きた。


「あれ……?」
「大丈夫ですか?」


知らないけれども、見覚えのある部屋。褐色の肌も、視界に入る灰銀の髪も、私の筈だ。けれども、なんでだろう。違う。私じゃない。


「なんで、わたし、そうじゃない……」


頭が痛い。息が上がる。どうして私はこんな姿をしているのか。いや、そんなことを言うならば私の本当の姿って?そう考えると、夢の中の猫の姿が浮かぶ。嘘だ、そんなわけない。尻尾を触られた記憶なんてないのに。


「私、誰……?」
「アンフェルツィート様……?」
「違う、私、そんな名前、違う。違うのに、私、他の名前……」


呼ばれた名前は、この姿の名前だとはっきり繋がった。けれども、私はこの姿では本来無かった気がして。では、私の本当の名前は?
違う名前で呼ばれる記憶を辛うじて引き出す。しかし、その記憶に映像も音もない。違う名前を呼ばれたという、意識だけが。


「……名前、私の名前……ない、見当たらない、私……」

狼狽える事しか出来ない私の背中を、センナ様が優しくさする。鬼哭隊の人は、私じゃないわたしの名前を呼ぶけれど、それは私の名前が無いからで、私を案じているのは分かる。


「無理をしないでくださいね、貴女は長い間その意識を押し込め、忘れて生きてきたのです……直ぐには思い出せぬのも仕方のないこと」


そう言えば、私は誰として生きてきたん、だっけ。間もない記憶はすらすらと浮かぶ。今日も、アンフェルツィートは道士のひとりとして、かつ双蛇党のひとりとしてカヌ・エ様の望みに応えて会合を……


「ぁ、カヌ・エ様……本日のご用件、は……?」


いけない、混乱していて、忘れていた。その上介抱までされているだなんて。私ったら、なんて情けないの。

「貴女とお話しをしたくて、此処までお連れしたのです。名の無い貴女と」
「……」

名無しの私。そう言われて言葉に詰まる。そうだ、私には、地位も名前も姿すらない。ここにあるのは、この身体とこの身体の名とこの身体の地位。
決して忌み嫌うような感情はアンフェルツィートには抱いてはいない。言うならば、新しいわたし、のような、そんな気持ちは抱いてもいたし。
けれども、私は求められる新しい私であろうと願ううちに……名の無い私であるという意識を、失っていたのか。


「そう……」


まだ混濁する意識のまま、私は紡いだ。他ならぬ、名もない私が、思うこと。抱く幸せのかたち。みんなが幸せなら、幸せの為に、この身体と、アンフェルツィートという人物がいるなら。
確かに私は名無しの私を忘れていた。けれども、海に身を投げたアンフェルツィートとはまた違う思考と選択の中に生きてもいると、私は思う。私はかつてのアンフェルツィートそのままになろうとしているのではなく、私なりに『アンフェルツィート』として名付けられた立場で生きようとしていた、と。


「本当に、それで良いのかしら……結局、誰も貴女を……名無しの貴女を貴女に求めないなんて」
「そう、ですね……でも、覚えていてくれたし、ユニコーンが。それに幸せなの、今のアンフェルだって、私のものだもん」


幸せだった。それは確かだった。
だからこそ名無しの私を忘れるくらい、アンフェルと呼ばれた私に没入していたんだろう。


「其処まで心配なら、覚えててくれたら、嬉しい、かな……?」


はっとするカヌ・エ様の姿を見て、望みすぎたかと一瞬後悔するけれども。

「そうですね……では、私と彼女だけでも。多くの人にこの真実を伝える事は出来ないでしょうから……わたくし達だけでも貴女の存在を覚えておきましょう」


はじめは、とてもとても辛かった事を覚えている。
私が私でなくなる感覚、私じゃない私が求められる感覚。確かに、カヌ・エ様の言う通りだった。けれども、アンフェルと呼ばれた私には、かつての私には出来ないたくさんのことがあって。生まれ変わった気がして。次第に好きになったのだ。
そしたら私が世界の考えているアンフェルそのものではなかった事も、名無しの私も忘れてしまって、受け入れるのに時間をとってしまったけれども。


これからは、名無しの私も覚えていてくれるひとがいる……



わたし、要らない子じゃないんだな。だって、わたしの幸せを祈ってくれる、ひとがいるもの。だから、わたしを忘れるほどのめり込んでなりきる必要もまた、もうないんだ。
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